名探偵コナン
#1143「乱歩邸殺人事件(後編)」
11月23日(土)放送分
アニメ業界で奮闘する人々を描いて話題の映画「ハケンアニメ!」。これまでの“業界もの”とは異なる切り口も注目を集めているようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。
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今月20日に公開された映画「ハケンアニメ!」。実写作品ではあるものの、広く“アニメ作り”の世界を描いた本作は、早くも話題となり、アニメファンや業界関係者の間でも注目を集めました。
これまでにも、アニメ作りに関する作品では、「SHIROBAKO」や「映像研には手を出すな!」などが話題となってきましたが、本作はそれらとはどのような違いがあり、どんなところが見どころになっていると言えるのでしょうか。
まず、上記2作品との一番の違いとしては、“アニメ制作”のセクションと共に、“作品を世に届ける”ためのセクションにも、より焦点が当たっている点が挙げられると思います。前者をざっくりと、脚本や絵コンテ、原画や背景、CGの作成や撮影、アフレコや編集といった、“実際にアニメを作るセクション”だとすると、後者は、企画誕生の背景や製作委員会の立ち位置、宣伝や放送、タイアップといった、“アニメ制作以外のあらゆるセクション”にあたります。
前述の2作品でも、それらの要素が全く描かれていないわけではありませんが、スタッフの起用やキャスティングの意図、放送枠が持つ意味や作品舞台地での展開にここまで焦点が当たっているのはなかなかに珍しい点です。肝となる作品作りはもちろん、その企画がどんな意図で生まれ、作られ、どう人々に届き、どのような反応が生まれるのか。そんな、現在アニメが生まれることで生じるあらゆる現象やそこに携わる人々を包括的に描いている点は、まさしく本作ならではの特徴と言えるでしょう。
しかし、アニメ作りと聞くと、恐らく一番に思い浮かぶのはアニメ制作、特に画や映像を作り出すセクションだと思います。実際にそこがコアでもあるので、アニメ作りに関する作品でも、その行程が中心的に描かれることが多いのでしょう。
ただ、特にタイトルにもある“ハケン(覇権)アニメ”が生まれるにあたっては、そうした“アニメ制作”だけでなく、本作で特に焦点が当たっている“作品を世に届ける”行程も、なくてはならない存在です。
通常億単位でかかる制作費がなければ、そもそもアニメは作れないと考えると、実際にアニメ制作を行う組織ではないものの、製作委員会の重要性は想像できますし、せっかく作品ができても、放送などで届けることができなければ人々に見てもらうことはできません。また、ほぼ毎クール50本以上もある新作の中で注目を集めるには、興味の入り口となる有名クリエーターや声優の起用といった話題性も必要ですし、作品舞台地とのコラボや食品等とのタイアップを通して、まず作品の存在自体を知ってもらうことも非常に重要です。
本作では、そうした“アニメ制作”の周りで繰り広げられる“作品を世に届ける”ための行程が、フィクションならではのデフォルメも混じりつつ、分かりやすく真摯(しんし)に描かれています。これまで数々のアニメブームが生まれてきましたが、いわばそのブームの舞台裏にもあたるそうしたセクションでのドラマは、本作ならではの見どころでもあると言えるのではないでしょうか。
こうしたアニメ制作以外の、“作品を世に届ける”セクションの戦略や意図は、あまり表に出過ぎてしまうと、打算的でいやらしいと、現実では嫌厭(けんえん)されてしまうこともあります。
しかしさまざまな娯楽があふれ、どんなに素晴らしいアニメでも、作品を楽しんでくれるはずの人にすら知られず終わってしまうこともあり得る昨今。本作を通して、そうした戦略や意図の裏側にも、人々の「いかに作品を届けるか」という静かに熱い奮闘や葛藤があると知ることで、少しだけその見方が変わることも、もしかしたらあるかもしれません。
その意味でも本作は、特に2019年の「鬼滅の刃」以降、次々と社会的なアニメブームが誕生してきた近年の情勢にもまさにマッチし、人々に、そうしたブームの裏側にどんな動きがあったのかという、これまでにないアニメ作りの裏側をみせてくれる作品でもあるのだと思います。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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