荒川弘さんの人気マンガ「鋼の錬金術師(ハガレン)」を実写化した映画二部作「鋼の錬金術師 完結編 復讐者(ふくしゅう)スカー/最後の錬成」(曽利文彦監督、5月20日、6月24日公開)に出演する俳優の内野聖陽さん。演じるのは主人公エドワード・エルリック(エド)とアルフォンス・エルリック(アル)兄弟の父親であるヴァン・ホーエンハイムと、ホムンクルス(人造人間)たちの生みの親である“お父様”という二役。オファーを受けるまで原作を読んだことはなかったという内野さんだが、マンガを何度か読む中で理解を深めていき、「娯楽作品だけにとどまらないメッセージ性をもしかしたら持っているのかな、と思います」と魅力を語る。内野さんに二役を演じる面白さや原作の魅力、映画の見どころなどを聞いた。
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「鋼の錬金術師」は、「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)で2001~2010年に連載された。錬金術が科学のように発達した世界を舞台に、エド(山田涼介さん)とアル(水石亜飛夢さん)の兄弟が、失った体を取り戻すため「賢者の石」を探す旅に出る……というストーリー。アニメ化もされ人気を博し、2017年には1作目の実写映画が公開された。
新作は、マンガ「鋼の錬金術師」の連載20周年を記念した新プロジェクトとして公開。二部作の前編「復讐者スカー」は、“傷の男(スカー)”(新田真剣佑さん)が、かつて国軍によって滅ぼされたイシュヴァールの民の復讐のために、すべての国家錬金術師の抹殺を誓いエドと相対する。後編「最後の錬成」はホムンクルスたちの生みの親“お父様”との戦い、その後のエドとアル、仲間たちの物語が展開し、原作の最終話までを描く。
内野さん そもそも、「ハガレン」がここまでの人気マンガのあるだということを知らなかったので、まずは一から作品に向き合いました(笑い)。映画のシナリオを読んだときは、戦いがすごく多いなあという印象で、「なんだこれは」となるシーンもかなり多かったです。そこからマンガを全部読んで、「あーなるほど、こういうことなんだ、こういう戦いをしているんだ」と理解が深まっていきましたね……。いきなり「そのとき、錬成陣が描かれ…」と言われても、やっぱり絵を見ないとさっぱり分かんないでしょ(笑い)。マンガを繰り返し読むことで、ようやくシナリオの表現したいところにたどり着けた、という感じでした。
内野さん 最近はマンガの実写作品が多くなってきたので、原作への敬意もさることながら、原作ファンの方々にも楽しんで頂きたいという思いがあるんですよね。そうすると、やっぱりマンガのビジュアルは大事にしたい、と。ホーエンハイムは、見た目にリアリティーを持たせるための試行錯誤を何度も重ねているのですが。特にメガネは、原作のホーエンハイムのメガネに近づけるために、特別発注して作っています。どんなメガネをかけてもしっくりこなくて、「作りましょう!」と監督が鶴の一声。メガネ屋さんとやり取りして、マンガとばっちり似ているものを作ってもらいました。
内野さん いろいろな役になることが役者の仕事なので、二つの役を演じることには驚きはなかったんですが、同じようなルックスで同時に出てしまう、ということはすごく珍しい体験でした。自分が演技した相手役者……つまり自分にリアクションをして対話を成立させていく、という試みは初めてだったので、面白かったですね。2人のお芝居を両方とも自己演出できるような感覚でした。「こう言ったときに“お父様”にはこうあってほしい」とか、「こういうせりふのやり取りをしてみたい」とか、自分で組み立てられる面白さがありました。
内野さん 一つは妻のトリシャに対する思い。ホーエンハイムは、“フラスコの中の小人”と悪魔の契約を交わしてしまったことで自分も何百年も生き続けねばならなくなり、でもトリシャという美しい奥さんと出会い、普通の人間に戻りたい、という思いが根底にある。子供たちと一緒に年をとって死んでいきたいというとても単純で深い思いに駆られて、我が家を後にする。そしていろんな計画を埋め込んでいくわけです。そのホーエンハイムと、彼を化け物にしてしまった“フラスコの中の小人”との戦いは物語の骨子になる部分なので、しっかりやらせていただきました。
内野さん あそこまでの野望を持った存在は、人間社会ではあまりいない。フラスコの中の謎の生命体からそうなっていくわけですが、人間を軽蔑し、神をも凌駕(りょうが)する存在になりたがっているというところは、ちょっとダークヒーロー的ですよね。そこは惹(ひ)かれます。原作でも、ホーエンハイムに「お前、人間を嫌っているのに、ホムンクルスの子供たちを作って、本当は父になりたがってんじゃないか、そういう家族が欲しいんだろう」というようなことを言われて、図星だったのか、“お父様”の目がちょっと陰るんですね。そこがまた良くて。悲しいやつ、みたいな部分も惹かれたポイントの一つです(笑い)。ときどき見せる“お父様”の瞳の陰りに、野望を追いかける男の悲しさがあるんです。
内野さん エドとアルの“自分の肉体を求める旅”というのは、古来からある青年の成長譚(たん)でもあり、子供が自分探しの旅の中で成長していく、そういう魅力もあると思います。また、イシュヴァールという民に対して国軍が残虐行為を行っていますが、それも戦いと平和の問題、人種の問題、他者への無理解のための暴力の連鎖など、含まれているテーマが普遍性を持っているのかなと。ある人種に対して非情なことをしたがゆえの恨みとか、そういうものは現実世界でもある。そういう娯楽作品だけにとどまらないメッセージ性をもしかしたら持っているのかなと思います。それにやっぱり活劇譚だから、戦いの中でエドとアルが成長していくことが見ていて楽しいでしょうし。
内野さん パート1も含めて言えば、(ホムンクルスの)ラスト(欲望)役を演じた松雪泰子さん。「松雪さんのラストのようなリアリティーを目指したい」と思ったぐらい、彼女は分かっていらっしゃったし、「松雪さんのアプローチは素晴らしいな」と思ったことが、この作品を受けるきっかけになった一つでした。
内野さん 今回は本当にみんな魅力的でした。リン・ヤオ(渡邊圭祐さん)も本当に魅力的でしたし、パート1からの組もみんな、すごく“水を得た魚”のようなはまりっぷりで……「見事だなあ」と思いました。
内野さん “お父様”はフラスコの中で生まれた生命体から大きくなってしまった邪悪な何かで、ホーエンハイムもそのとき作られてしまった、何百年も生きているある種の化け物。そういう視点でみると、何百年も生きられない人類、一つの人生というスパンでしか生きられない生命の尊さを感じますし、ホーエンハイムの「妻と息子たちと一緒に老いて死にたい」というあの言葉に集約されている気がします。
作中に“お父様”やホムンクルスたちを置いた意図の裏には「寿命のある人間」という生命体のはかなさがあるような。だからこそ、暴力の連鎖を続けても何の意味もないだろう、というせりふがあり、そういうほうが大事だよねと思います。撮影時は今のような世界情勢ではなかったですが、ニュースで同じことが繰り返され、人類の成長はまやかしかと思うほどに、今や非情なるリアリティーを持ってきてしまっている。そう思うと、(この映画で)あらためて“生命の尊さ”を感じてしまうかもしれない。僕にとってはそういう根源的なメッセージもある作品だと思います。
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