名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の原泰久さんの人気マンガ「キングダム」。中国の春秋戦国時代を舞台としたマンガで、連載は15年以上にもおよび、テレビアニメも人気で、俳優の山崎賢人さん主演の実写映画第2作「キングダム2 遥かなる大地へ」(佐藤信介監督)も話題になっている。「キングダム」はなぜ多くの人を魅了しているのか? 担当編集者の大沢太郎さんにヒットの裏側について聞いた。
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「キングダム」は、2006年に「週刊ヤングジャンプ」で連載を開始。天下の大将軍を目指す戦災孤児として育った信と、後に「秦の始皇帝」となる秦王・エイ政たちの活躍を描いている。コミックスの累計発行部数は9000万部を突破するなど人気を集めている。2012年にスタートしたテレビアニメも人気で、現在は第4シリーズがNHK総合で毎週土曜深夜0時に放送中。2019年には山崎さん主演の実写映画第1作が公開され、興行収入57億3000万円を記録し、同年の邦画実写作品の興行収入で1位になるなどメデイアミックスも大成功している。2023年2月には舞台化され、帝国劇場(東京都千代田区)で上演される。
大沢さんは、2017年から「キングダム」の編集を担当してきた。担当編集としては3代目になる。作品がブレークするきっかけはさまざまだが、「キングダム」の場合、売り上げを大きく伸ばしたきっかけが3回あったという。
1回目は、2015年に放送されたバラエティー番組「アメトーーク!」(テレビ朝日系)の“キングダム芸人”で、放送後書店から在庫がなくなった。2回目は、2019年の実写映画第1作の公開のタイミングだった。「キングダム」は読み始めると止まらなくなるような魅力があるが、一般的にはなじみの薄い時代が舞台ということもあって、入りづらさを感じる人もいる。映画によって間口が広がったようだ。3回目は、その映画の地上波初放送も含めた2020年のコロナ禍の巣ごもり需要だった。
物語の舞台は、中国の春秋戦国時代と、日本人にとってあまりなじみのない時代かもしれないが、連載は15年以上続き、大作にもかかわらず、いまだに読者が増え続けている。なぜ、「キングダム」は多くの人から支持されているのだろうか?
「まず挙げられるのは、感情移入がしやすいところ。老若男女多くのキャラクターが登場し、一人一人が非常に個性的で、共感できるキャラと出会いやすい。感情表現巧みな原さんの生み出す魅力的なキャラクターを追っているうちに、知らず知らずに紀元前の中国にどっぷり浸かってしまうというのが『キングダム』の持つ“引力”のように思います。
大沢さんによると、そんな「キングダム」のどのキャラよりも魅力的なのが、原作者の原さん自身なのだという。「こんなにも“応援したい!”と思える人ってなかなかいない。まるで飛信隊での信みたいですね」と力を込める。
「もともと担当する前から『キングダム』の一ファンだったのですが、一緒に仕事をさせていただくうちに『キングダムが好きだから頑張ろう』から『原さんが好きだから頑張ろう』に変わっていくんです。原さんは『信は自分の憧れ』とおっしゃるのですが、僕からするとやっぱり信に見えるんですよね(笑い)」
原さんは47歳になるが、学生時代を始めあらゆる年代の友人たちと今も交流が続いているといい、マンガ家になる前に勤めていた会社の部署の飲み会にもいまだに呼ばれているという。“人間力”が高いがゆえの、交友関係の広さなのだろう。
「地元や学校や会社、これまで関わってきたいろんなコミュニティーの方々と今も仲良し。そんな人、あんまりいないですよね。人に愛される才能もある方なんです」
“人間力”の高さがマンガの魅力にもつながっている。「キャラクターの気持ちを想像する才能がずば抜けている」といい、だからこそ感情描写が巧みなのだろう。
「『キングダム』は数多くのキャラクターが出てきますが、どのキャラも『このタイミング、立場だったらこう考えている、思っている』と全て把握されているんです。例えば、『このキャラは、どうしてこういう発言をするんですか?』と質問すると、すぐに腑(ふ)に落ちる答えが返ってくる。どの人物の心情もおろそかにしていないから、主役級だけでなく脇役や敵キャラにも華や色気がある。だから、これだけ多くのキャラがいても、一人一人が魅力的なんです」
大沢さんが、キャラ描写の巧みさに舌を巻いたのは、「キングダム2 遥かなる大地へ」でも登場する千人将・縛虎申(ばくこしん)の描き方だ。縛虎申は信の初陣の上官で、「特攻好きのいかれた将」と言われるほど、勝利のためには犠牲もいとわない人物だ。
「初め出てきたときは心底恐ろしい嫌なキャラクターですが、信と敵陣地で合流するシーンあたりから、縛虎申の描写が絶妙に変わっていくんです。それまでは一方的に上から怒鳴りつけてくるだけだったのが、信と会話のキャッチボールをするようになる。それに伴って、信と同じコマに収まるカットや同じ方向を向く描写が増えて、“仲間感”が出てくる。すると今度は、縛虎申がモノローグで心情を語るようになり、読者の視点はどんどん縛虎申に近づいてゆく。気づくと、彼の生きざまに涙がこぼれてしまうくらい感情移入できる人物にアップデートされているんです。それも僅か4話分ほどで」
実写映画はそんな「キングダム」の魅力が凝縮された仕上がりになっている。実写映画でしかできない表現もある。
「戦場の“音”に注目してほしいですね。命懸けで戦う兵たちの叫び声や騎馬や戦車が駆け抜ける音、武器と武器がぶつかり合う打撃音は本当に圧巻。マンガにはない戦場の音を実写映画で楽しんでいただくと、より『キングダム』の世界のリアルが伝わってくるように思います」
実写映画を見てから、マンガを読み返すと原作がより魅力的に見えるし、マンガを読んでから映画を見ると、映像の迫力に驚かされるはず。「キングダム」の奥深さを改めて感じるはずだ。
※山崎賢人さんの「崎」は「たつさき」
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