ライオンの隠れ家
最終話 僕たちの新しい始まり
12月20日(金)放送分
12月22日に最終回を迎える人気ドラマ「silent」(フジテレビ系、木曜10時)。耳に難病を抱えたかつての恋人と再会した主人公ら登場人物が、さまざまな人間関係を通じて現実に向き合っていく姿が感動を呼んでいる。丁寧に準備された数々の伏線をはじめ、ヒットの要因はさまざまだが、登場人物全員が“ただのいい人”ではない重層的なキャラクター造形もまた、物語への没入感を増している。
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主人公の青羽紬(あおば・つむぎ、川口春奈さん)は、8年前に突然姿を消した昔の恋人・佐倉想(そう、目黒連さん)と偶然再会するも、想が「若年発症型両側性感音難聴」のために、ほとんど聴力を失っていた事実に直面。2人の気持ちとともに、紬の今の恋人・戸川湊斗(鈴鹿央士さん)や、聴覚を失って失意の中にあった想を支えた、ろう者の桃野奈々(夏帆さん)ら周囲の人々のさまざまな思いさえもすくい上げたストーリーが話題を呼び、まだ完結していない第8話時点で、見逃し配信が累計4600万回再生という異例のヒットを記録している。
ヒットの理由として、さまざまな場面に仕込まれた伏線に由来する考察要素や、磨き上げられたせりふ回し、川口さん、目黒さんをはじめとしたキャスト自体の人気などと並んで挙げられるのが、身近でリアルな描写。「LINE」「タワーレコード」「世田谷代田駅」と実在のガジェットや地名が数多く登場するほか、登場人物も一言で言い表せないリアルな人間くささを持ち合わせている。
代表的なのが紬の恋人で、“主成分優しさ”とも評された湊斗だ。第2話で「コーヒーとココアどっちがいい?」と尋ねた湊斗に、紬が選択肢にない「コンポタ(コーンポタージュ)」と答えたにもかかわらず、「コンポタもあります」と準備していたエピソードが“コンポタ理論”として話題を呼んだが、紬のささいな変化に気づいていたわるまめなところもまさに“主成分優しさ”だ。
しかし、想の妹・萌(桜田ひよりさん)をまるめ込んで想の連絡先を入手したり、高校時代に紬から想へのメモを嫉妬心から隠していたり、紬と別れた後はシニカルな面が出てきたりと、あくまで主成分は優しさながらも、優しさだけではない人間くささがうかがえる。
奈々は回を追うごとに評価が大きく変わったキャラクターだろう。想にほのかな思いを寄せ、紬が落としたイヤホンを巡って間接的に紬のことを悪く言ったり、気にかけてもらうためにわざとリュックを開けたままにするあざとい側面もある。ストレートな性格で紬に直接強い言葉をぶつけることもあった。
ところが、想への気持ちにけりをつけると、自ら「振らなくていいよ」と想に告げ、「振った側って悪者みたいになるでしょ? 勝手に好きになられただけなのに」と話したほか、紬にも「想くんとたくさん話したほうがいいよ」とアドバイスを送るなど、内面の優しさが表に出るとSNSでは感動の声が上がった。
風間俊介さん演じる手話教室の講師、春尾正輝もまたさまざまな面を持ち合わせた人物だ。就職活動のためという打算で始めたボランティアで奈々と出会い、心を通わせるものの、手話サークルを立ち上げようとしてそれを偽善と断じる奈々と決別。その後、手話教室の講師になったものの、つらい過去からシビアな物言いも多かった。しかし、8年ぶりに奈々と再会。時を経て経験を得たことによって、再び奈々と思いを通わせている。
想は聴覚を失ったことで、心に傷を負ったというキャラクターだが、失聴前の高校時代からちょっとクセのある性格だったことがうかがえる。湊斗が話しかけてもあえて無視してみたり、現代でも湊斗が自販機で飲み物を買おうとしていると勝手にコンポタを押してみたりと、親友相手だから許される強めのちゃめっ気を持ち合わせている。第4話で紬と交際していたころの湊斗と鉢合わせして、後で会話の流れとはいえ「一緒にいたの彼女?笑」と「笑」を付けて湊斗に聞くのも、元カレという想の立場では誤解されかねないし、第9話で話題を呼んだ「顔がいいのは元々だからな」というせりふも、なかなかのパワーワードだ。
そして主人公の紬。昔の恋人に会って思いが再燃するというのはもちろん賛否の分かれるポイントだが、それ以外にも無邪気さ?ゆえの失言が飛び出すキャラクターでもある。「時効ってことで許して」と言いつつ「私ね、佐倉くんの声が好きだったんだ」と、想の親友で今は恋人の湊斗に話してしまったり、2人で会うのをやめようと言う想に「今好きなのは湊斗。佐倉くんは違う。好きじゃない」と言ってしまったり、想のことが好きだった奈々に想からも手話を習っていることを伝えたりと、端からは「言わない方がいいのでは?」という一言が出てしまう。好きな人のために手話を覚えたり、今の恋人のことも心から愛していた紬だが、決してミスのない優等生タイプの主人公ではないのだ。
こうしてみると、silentの登場人物は、いずれもステレオタイプではないさまざまな側面を持ち合わせていることが分かる。誰しもちょっとした欠点はあるものだし、自身の成長や、相手やタイミングによってさまざまな態度を取るのが人間だ。だからこそ、登場人物たちの人間くささが視聴者の心に刺さるし、より共感を得られるのではないか。
22日の最終回は15分拡大で放送される。こうした人間くさいリアルな登場人物の全てに幸せな結末が訪れることを期待したい。
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