ダンダダン
第5話「タマはどこじゃんよ」
10月31日(木)放送分
特撮ドラマ「ウルトラマン」シリーズの新作「ウルトラマンブレーザー」。同シリーズ史上初めて、防衛チームの隊長が主人公で、ウルトラマンブレーザーに変身する30歳の主人公・ヒルマ ゲントは、同い年の妻、7歳の息子がいる“お父さん”ということも話題になっている。主人公は中間管理職で、上司、部下との板挟みになりながら、最前線で戦うことになる。初の家庭を持つ隊長を主人公とした狙いとは? メイン監督を務める田口清隆さんに聞いた。
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「ウルトラマンブレーザー」は、地球からはるか遠くの天体・M421からやってきた新ヒーロー・ウルトラマンブレーザーと一体化した特殊怪獣対応分遣隊・SKaRD(スカード)の隊長・ヒルマ ゲントが、隊員たちと共に怪獣と戦う姿が描かれる。特撮ドラマ「仮面ライダードライブ」のハート役などで知られる俳優の蕨野(わらびの)友也さんがゲントを演じる。テレビ東京系で毎週土曜午前9時に放送中。
隊長は中間管理職だ。上司から無理難題を押しつけられることもあるし、部下の適性や能力を見極め、チームのモチベーションを上げないといけない。中間管理職がウルトラマンになったら?というアイデアから「ウルトラマンブレーザー」は生まれた。
「社会的立場がある中間管理職、サラリーマンがウルトラマンになって、重要な会議がある時に、怪獣が現れたら、どっちを選ぶのか?というアイデアが以前からありました。『ウルトラマンジード』で、サラリーマンでウルトラマンゼロという設定もありましたけど、あれが好きだったんですよね。特殊部隊だったら、家族に特殊部隊であることは言わないし、なおかつ妻子もいて、隊長だったら、あらゆるところで板挟みに遭う。その設定が思いついてから、いろいろなアイデアが生まれてきました」
監督も中間管理職なのかもしれない
「監督は一番上に立っているようにも見えますが、意外と中間管理職ですし、挟まれています。家族がいれば家族に挟まれるし、子供だって友達と親に挟まれている、総理大臣だってあらゆるところで挟まれています。中管理職とは言わなくても、みんな挟まれているんです。だから感情移入できるんじゃないか。そこを起点として、コミュニケーションがテーマにもなりました」
挟まれてしまっても、コミュニケーションによって解決できることがあるかもしれない。
「結局どんな軋轢(あつれき)、争いも大体コミュニケーションの失敗で起きているんじゃないかと。今、40代前半ですが、いろいろな経験をした中で、情報をきちんと流さないから下が混乱したり、あらゆるところで『言ってよ』となることがあり、言い方一つで状況が変わることが身にしみています。ドラマの一つのテーマにして、共感できるものにしたかった。生活している上でのあるあるを掘り下げようとしました」
田口監督は現在43歳。これまでの経験からコミュニケーションの大切さを実感している。
「下積み時代に助監督だけではなく、美術部、合成部などいろいろ渡り歩いてきました。半端に各部署の事情を知っているわけで、今これを言うと、散らかるんだよな……と分かっているけど、お願いすることもあります。言い方一つで変わることもありますしね。そういうコミュニケーションが大切です。人類がコミュニケーションで一番もつれると、戦争になることだってあります。考え方が二分して、ある一方の考え方が攻撃をすることもあります。人の営みなので、ちゃんと話し合えば、いい方向になる可能性だってあったはずだけど、なぜかいつも最善の方法は選ばれない気もします。その原因は何なのか? どうしたらいいのか? 偽善的かもしれませんが、そこをストーリーに組み込んでみました。政治思想とかではなく、『もっと話し合おうよ』『言い方一つだよ』と普段から思っていることを染み込ませています」
ゲントは隊長ではあるが「俺が行く」と率先して最前線に立つ。
「これまでいろいろな人を見てきた中で『俺が行く』タイプの人はいっぱい見てきました。本当に解決しちゃう人もいれば、行ったばかりに全部散らかしちゃう人もいました。ドラマとして見ると、散らかす人も面白いですし、散らかったおかげで、下があたふたして、人が育つこともある。全部できちゃう人の下では、人が育たなかったり。この歳になれば、全てが一筋縄ではいかない……といろいろなことを経験してきました。ゲント隊長は、今まで見てきた理想的な上司のいいところだけを抽出しているのかもしれません。こんな理想の上司は多分いないとは思いますが」
コミュニケーションをテーマとしつつ、「怪獣を中心とした話を一番にしています」とも語る。
「事件がないと何も起きないですしね。隊員たちが怪獣をどうやってやっつけるかも描きますが、作戦によって生じる人間同士のドラマも大事にしています。逆に人間ドラマばかりになると、怪獣がおざなりになってしまいます。そこは気を付けたところです」
番組を見ているのは子供だ。子供には難しいテーマかもしれないが……。
「子供たちが見た直後に、自分たちが板挟みなんて理解するとは思っていないのですが、わざと少し難しい話にしているところもあります。ウルトラマンである以上、地球規模の危機を迎えます。人類がウルトラマンと一緒に、どう切り抜けていくのか?という話にはなりますが、それに対する答えをいつもとは変えようとしています。子供たちの頭の端に記憶してもらえば、いつかその時が来た時、役に立つことを提示できたらいいなと思っています。大人になると、小難しいことばかり考えて、出せない結論もありますしね」
ゲントは子供たちにとって“お兄さん”よりも“お父さん”に近いのかもしれない。
「コロナ禍で、子供たちのなりたい職業にサラリーマンが躍り出たそうなんです。お父さんたちがリモートで仕事をするようになり、仕事をしている姿を見たから、という話を聞いて、すごくいい話だと感じました。子供たちは、年の近いお兄さんじゃなくても、お父さんみたいな大人が頑張っている姿を見ても、感情移入できるんじゃないかと。大人がちゃんと仕事をしている姿を見せたいですし、全員がプロフェッショナルであることを徹底して見せようとしました」
「ウルトラマンブレーザー」は、「機動警察パトレイバーっぽいくない?」というファンの声もある。田口監督は「パトレイバー」の大ファンで、実写版「THE NEXT GENERATION -パトレイバー-」の監督を務めたこともある。田口監督は「意識というよりは、骨身に染みているものなので……」と影響を語る。
「僕が一番集中してアニメや映画を見ていた1980年代から1990年代は、いろいろなことが一周して、パロディーに走っている作品が多かった。『とんねるずのみなさんのおかげです』で、映画のパロディーをやっていたり、『仮面ノリダー』もそうですね。僕の『仮面ライダー』の原体験は『仮面ノリダー』なんです。小学校の時にマンガ家を目指して、大学ノートに『仮面ノリダーMk.II』というマンガを描いていました。子供の頃、姉の影響でテレビアニメ『機動警察パトレイバー』を見てハマりました。姉が持っていたマンガ版を読み、OVAも見て、中学3年生の時に『パトレイバー2(機動警察パトレイバー 2 the Movie)』を見て……と押井守信者になるわけです」
さまざまな作品から影響を受け、特撮の現場で仕事をするようになる。
「中高生の時はさらに『エヴァンゲリオン』があって、『ウルトラマン』シリーズのTDG(ティガ、ダイナ、ガイア)もありました。そしてなんと言っても平成ガメラシリーズもありました。『パトレイバー』の伊藤和典さんが脚本で、監督は(押井さんの大学の後輩でもある)金子修介さんで、樋口真嗣さんが特技監督で参加していて、そんな作品群の影響を強く受けてます。それらの中でも特に好きな要素が、生活感を大事にしている、ということでした。それが完全に骨身に染みちゃっているわけですね。監督になってからは伊藤さんが脚本で樋口さんが総監督の『MM9』もやりました。あの作品も『ウルトラマン』のオマージュをしつつ登場人物の生活を描いていて、『パトレイバー』と通ずるものがありました。今回の防衛隊も極力、隊員達の生活感を大事に描いているので、自然と特車二課に似た印象に見えるかもしれません」
ヒルマ ゲントが変身するウルトラマンブレーザーは、地球から遥かかなたの天体、M421からやってきた光の巨人だ。目的など謎も多い。
「ハードSFでありたい、というのもテーマでした。なるべく地に足が付いていて、リアルでありたい。ウルトラマンは宇宙人なんだから、地球の文化や言語と全く違っていなければいけない。これまでのどのウルトラマンとも違うユニバースなので、全くの別物にしようとしました。言葉をしゃべれないわけではない。ただ、地球の言葉は当然分からない。おそらく何かしらの文化もあるし、知能もある。地球の生命体とは全く違う文化で生きているんです」
田口監督は「あえて設定しないようにしました」とも話す。
「M78星雲とは全然違う文化の星にしようとする中で、思い付いたのがハンターであることでした。巨大な怪獣が当たり前にいる星で狩りをして暮らしている戦士です。青と赤の模様は、トライバルタトゥー的で、顔の青い結晶は激戦の傷痕にも見えるかもしれない。ただ、これは公式設定ではありません。僕が勝手に言っていることです。地球人はブレーザーの星のことが分からないから、設定はしなくていいという考えで作っています。いつもは細かく設定しますが、今回はあえて設定していないんです」
戦いに入る前に儀式のような独特の動きを見せることも話題になっている。
「実は、現場で考えたアイデアだったんです。撮影の直前に『ブレーザー独特の構えを作りたい』と殺陣師の寺井大介さんと、スーツアクターの岩田栄慶君に相談しました。寺井さんは以前から、戦う前に剣道の蹲踞(そんきょ)の様な礼というか儀式的なものを入れることを考えていたそうです。栄慶君がこんな感じ?とあのポーズをやってくれて、その場で生まれました。何か設定があるわけではありません。地球人には分からないことですし、それがいいと思っています。ブレーザーには“説”があっても設定はない。本当に野性的で神秘的なウルトラマンをやってみたかったのを、今回はかなり試みることができました」
ウルトラマンという存在に関して「あえて細かく設定しない」という「ウルトラマンブレーザー」は挑戦的な作品だ。今後の展開からも目が離せない。
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