森山直太朗:デビューから20年「旅立ちと自立の時」 コロナ禍経て「今一度、目の前の一曲を」

森山直太朗さん=WOWOW提供
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森山直太朗さん=WOWOW提供

 デビュー20周年を記念したアニバーサリーツアー「素晴らしい世界」を、全国で100本行ってきたシンガー・ソングライターの森山直太朗さん。101本目となるNHKホール(東京都渋谷区)での追加公演が、10月23日にWOWOWで独占生中継される。20周年を迎えた心境を「人生でいえば今は“二十歳”で、曲や人との出会いを繰り返して今、旅立ちと自立の時という感覚でいます」と語る森山さんに、ツアーを通して得たものや活動を振り返って、今後の展望を聞いた。

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 ◇「100本」で見えてきたもの

 アニバーサリーツアーは約1年半で全国100公演が行われたが、森山さんは「最初はとにかく100本やってみたいという漠然とした思いから始まりました」と明かし、「母(森山良子さん)やさだまさしさんら諸先輩方、特にギターを一本持って歌うフォークシンガーの人たちは年間100本とか120本やっているのが当たり前だったんです。僕も比較的本数は多い方だけど、どこか歯ごたえのなさというか物足りなさを感じていて。もちろん数の多寡ではないけどそれでも数としてそれぐらいやらなければという思いもどこかありました」と100本の意図を説明する。

 100本回った感想を聞くと、「日本って広い(笑い)。まだまだ行けていない地域があるなと」としみじみ。「自分の中でツアーに対する考え方や舞台表現に対する捉え方は、今までは50本近くやれたという一つの成功体験のもとにありました。ただ今回75本、90本とやらないと見えてこないものもあるんだと感じました」という。

 「効率も大事だし、時代と逆行している感じもあるけど、ものづくりする人間はどれだけ非効率を工夫して生み出せるかだと思います。何をやるにもいろんなものが手助けしてくれる時代だからこそ、できる限り自分たち自身で非効率的な環境や状況を作り出せるかがクリエーティブをやっていく上で最も大事だと、今100本やって改めて思っています」

 ◇「未完成」が原動力

 森山さんはデビュー当初、「『さくら(独唱)』で多くの人に認知されて急速にキャパシティー以上の環境や状況になったこともあり、その時期はとにかくなりふり構わず毎回何か戦いを挑むようにやっていたような気がします」といい、「ただがむしゃらにやってきた中、2008年にリリースした『生きてることが辛いなら』は賛も否もあったことから、この曲を通じて自分の足元を一度見つめ直すきっかけを皆さんからいただいたような感覚もありました」と明かす。

 また「ある種すべて預けるように活動していた」という御徒町凧さんとの関係を「フラットに、友人に戻した」ことで、「より自分のパーソナルな部分に戻って行くような活動が、まさにここ5年だったような気がします」と回顧。その期間にコロナ禍があり「規制や自粛で、今まであった当たり前が当たり前ではないことに気づき、今一度、目の前の一曲を、目の前の1行をどう積み上げていくかをより考えるようになりました」と影響を語る。

 20年を超えても「自分が未完成であること」が原動力。「音楽とか舞台と向き合うことで未熟な自分を認め、受け入れている感覚が強いです。ある種、自分の弱さを手放して舞台に立つことで、もっともっと自分ができることがあるのではと自分に問いかけているような感じです」と説明し、「何をもって完成かわからないけど、完成したら終わってしまう感覚は常にあります。サグラダ・ファミリアじゃないけど、この角度が違うんだよなとかなにかにつけ“言い訳”しながらやっていくんじゃないですかね(笑い)」と冗談めかしながら前を向く。

 そんな森山さんはNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」などにも出演。俳優活動について「かけがえのない時間で、何者でもない環境に飛び込んでみる意味では新鮮でした」とにっこり。俳優としての自己評価には「めちゃくちゃだったと思います」と苦笑いを浮かべ「40歳を過ぎた年齢でも初々しい気持ちでやれたことは音楽にも還元するものもありましたし、違う世界を見ることで、より客観的になれる部分もありました」と収穫を口にする。

 次の節目に向けて質問すると「ツアーとしては終わりますけど、ここから『素晴らしい世界』が始まるという期待があります。スタッフやオーディエンスは『まだ始まってなかったのかい』という気持ちになるだろうけど、実はそんな感覚」と答え、「日本を飛び越えて言葉の通じない場所で、弾き語りであろうが、フルバンドであろうが、路上であろうが『素晴らしい世界』は続いていくと思います。この旅の向こうでさらに広い世界を見られたら」と思いをはせた。(取材・文:遠藤政樹)

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