あんぱん:第110回の注目度推移 最高値は午前8時5分の70.6% 名作「やさしいライオン」は今の視聴者の心もつかんだか?

連続テレビ小説「あんぱん」のロゴ (C)NHK
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連続テレビ小説「あんぱん」のロゴ (C)NHK

 今田美桜さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あんぱん」(総合、月~土曜午前8時ほか)の第110回(8月29日放送)で、視聴者を最も引き付けた場面はどこだったのか? 第110回は、マンガ家で絵本作家のやなせたかしさんが実際に手がけ、当時話題になったラジオドラマ「やさしいライオン」にまつわる物語が展開された。テレビの前の視聴者が画面にクギヅケになっていた程度を示す「注目度」(REVISIO社調べ、関東地区、速報値)の1分ごとの推移を調べ、「やさしいライオン」が今の視聴者の心もつかむことができたのか、確認してみた。

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 「あんぱん」は、「アンパンマン」を生み出したマンガ家で絵本作家のやなせさん(1919年~2013年)と、暢さん(1918年~1993年)夫婦がモデル。何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどりつくまでを描く、生きる喜びが全身から湧いてくるような「愛と勇気の物語」だ。

 ◇最高値は羽多子がミスする午前8時5分の70.6%だったが……

 第110回で取り上げられた「やさしいライオン」は実際、1967年に文化放送でラジオドラマとして放送され、評判が良かったことから、1969年にフレーベル館より絵本が刊行。1970年には、原作者のやなせさん自身が監督・脚本を手掛けたアニメ映画も公開された。ちなみに、この映画の製作を務めたのは手塚治虫さん。「やさしいライオン」の心温まる内容に、朝からSNSなどでも反響が多かった。

 テレビ画面の前にいる人のうち、画面を実際に注視している人の割合を示す「注目度」はこの日、ピーク時も極端に高くはならなかったが、15分間で70%前後に達する同程度の小山を3回作り、極端に下がることはなかった。多くの時間帯で65~70%を維持し続けたイメージだ。たとえると、最初につかんだ視聴者を最後までほぼ離さない“安定飛行”をした回という感じなのだろうか。

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 新しい住まいとなるマンションに引っ越す冒頭の場面の後、オープニング映像に。いつものように主題歌が流れ始めた午前8時1分台は50%台まで急落したが、その後は急浮上。最初で、この日最大の山は午前8時5分で、70.6%を記録した。

 かかってきた電話に出た羽多子(江口のりこさん)が、嵩(北村匠海さん)に来たラジオドラマの脚本の依頼を勝手に引き受けてしまうのが午前8時5分ちょうど。締め切りは明日の朝。はっきりは言わないが、嵩の困惑した表情で気づいたのだろう。1人、和室で落ち込む羽多子が「嵩さんの仕事は、食堂の出前のように受けたらいかんねえ」と帰宅したのぶ(今田さん)に打ち明けるのがかわいらしくて、とても責められない。この辺までが5分台。注目度が上がるのも納得の場面だ。

 焦る嵩に、のぶが謝ると、嵩は何かを思い出したように「お母ちゃん……」とつぶやき、ある絵を取り出す。そこには、ライオンのブルブルと犬のムクムクというキャラクターが描かれており、タイトルは「やさしいライオン」。母親を失った赤ちゃんのライオンと、子供を失ったお母さん犬の話だという。

 続いて午前8時7分ごろから、嵩がのぶに語って伝える形で「やさしいライオン」のストーリーが説明される。嵩の語りで、紙芝居を見るかのような長いシーンだ。

 ストーリーは、母親を亡くしたみなしごのライオンのブルブルと、ブルブルを育てた犬のムクムクの親子の絆を描いている。成長したブルブルは動物園に売られ、その後、サーカスの人気者になっていた。

 注目度は、ストーリーの紹介が始まった午前8時7分を底に上昇。内容が語られるほど、注目度は上がっていく。2度目の山は午前8時9分の69.5%。ブルブルはある日の夜、母に会いたい一心で檻(おり)を飛び出し、街へと向かう。「警官隊に撃たれて、ブルブルは死んだ」。嵩がのぶに衝撃の結末を静かに告げたあたりが9分台の半ば。「おしまい」という嵩に、のぶは思わず「えっ」と声を漏らす。視聴者ものぶと同じ気持ちだっただろう。嵩の作品の世界に、どっぷり入り込んでしまった様子が注目度からも見える。

 「残酷な結末だよね。いつかこのドラマの続きを書きたいと思っていたんだ。でも、書いていいのかな」嵩はのぶにそう話し、書くのをためらう。育ててくれた伯母の千代子(戸田菜穂さん)と実母の登美子(松嶋菜々子さん)がこのドラマを聞いたら傷付くのではないかと心配したのだ。「書きたいと思うなら、書いたほうがええで。今がそのときやないが」と言うのぶに背中を押され、嵩は一晩で30分のラジオドラマを書き上げる。

 嵩が書き上げた「やさしいライオン」がラジオから流れる。ラジオドラマの体裁で、もう一度ストーリーが語られ、八木(妻夫木聡さん)、蘭子(河合優実さん)、登美子、千代子、手嶌治虫(眞栄田郷敦さん)が耳を傾けている様子が映る。視聴者もラジオドラマに耳を傾けた午前8時12分台が70.4%で3度目の山となった。

 果たして、結末はどうなったのか? 銃声が響き、警官隊が発砲したことはわかるが、続きは書き換えられた。「その夜のこと、年寄りの犬を乗せたライオンが飛んでいくのを見たという人が何人もいました」と締めくくられたのだ。この結末が示されたのが午前8時13分台半ば。やや低下したものの、69.4%と注目度は比較的高かった。

 「やさしいライオン」は確かに名作だが、半分近い時間を2度のストーリー説明に使う展開はディレクター泣かせの難しい演出だっただろう。場面の変化が少なく、視聴者が離れる恐れがあるからだ。それでも、嵩が読み上げる「紙芝居」風の演出や、効果音が入ったラジオドラマ風の演出で、視聴者は最後までほぼ引きつけ続けられたことが裏付けられた。今週の演出は柳川強さん。ベテランのうまさが出た巧みな見せ方だった。「やさしいライオン」を知らなかった人にも強烈な印象を残した回になったのではないだろうか。

 活用したデータは、関東の2000世帯、関西の600世帯で番組やCMの視聴状況を調査しているREVISIO社が公表している独自指標の「注目度」。人体認識センサーを搭載した専用機器でテレビ画面に視線を向けているかを常に計測し、テレビの前にいる人のうち、番組を注視していた人の割合を算出している。(文・佐々本浩材/MANTAN)

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