小野憲史のゲーム時評:ゲームのアカデミー賞で日本ゲームの快挙

「ニーア オート マタ」でディレクションとシナリオを担当したヨコオタロウさん(中央)と、開発を担当したプラチナゲームズの田浦貴久さん(右)
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「ニーア オート マタ」でディレクションとシナリオを担当したヨコオタロウさん(中央)と、開発を担当したプラチナゲームズの田浦貴久さん(右)

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム開発者の国際会議「ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)」で発表された「ゲームのアカデミー賞」と言われる「ゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード(GDCA)」で評価されたゲームについて語ります。

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 GDCAの発表授与式は3月に開催され、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(NS、任天堂)が大賞の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」など3冠に輝いた。日本のゲームソフトの大賞獲得は、2006年の「ワンダと巨像」(PS2)以来12年ぶりの快挙だ。

 それ以上に驚かされたのは、ゲーム開発者が人気作品を評価する「オーディエンス賞」に「ニーア オートマタ」(PS4・PC、スクウェア・エニックス)が輝いたことだ。GDCの来場者による投票で決まる賞だけに日本作品の受賞は初めてだ。ディレクターとシナリオを担当したヨコオタロウさんは「受賞すると思っていなかったので、とてもうれしいです」とコメントした。当の本人が一番驚いていたに違いない。

 「ゼルダの伝説」は、任天堂の新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」のキラーソフトで、本命中の本命。しかし「ニーア オートマタ」は、高い技術力を誇るものの、世界観がアニメやマンガに影響を受けた「J(ジャパニーズ)RPG」で、海外ユーザーの好みには合いにくいとされたジャンルだからだ。実際、パッケージ版とダウンロード版の合計の世界売上は250万本に達するが、1000万本クラスが多数存在する海外大作ゲームに比べると見劣りする。

 しかし、ここ数年でJRPGを再評価する動きも出てきた。日本の学園生活が舞台のRPG「ペルソナ5」(アトラス)はパッケージ版の売り上げがワールドワイドでシリーズ最高の200万本以上のヒットを記録。ダウンロード配信で100万本以上を売り上げたとされる米インディーゲーム「アンダーテール」は、コピーライターの糸井重里さんが手がけたRPG「マザー」シリーズに影響を受けたという。

 1980年代の日本ゲームを題材にした映画や書籍出版も盛んだ。パックマンやドンキーコングが登場する映画「ピクセル」は興行収益が約2億4500万ドル(約262億円)で2015年の世界興行収益で29位だった。アメリカでのセガのゲーム機「メガドライブ」の躍進をテーマにしたノンフィクション「セガVS.任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争」(早川書房)も映画化が進行中だ。

 日本側の考え方も変わりつつある。2000年代に入り、高騰する開発費回収のため、日本の家庭用ゲーム開発では、欧米市場に内容を合わせる傾向が見られた。これが海外での日本ゲームファンの失望を招き、売り上げが低下する悪循環に陥った。それが、ここ数年で日本ならではのゲーム表現に回帰し、日本版にできるだけ忠実な海外版制作に変わっている。

 「日本の強みを生かす」とは、「海外ゲームと同じ土俵で戦わない」ということでもある。漠然と売り上げの数字を追いかけるのではなく、世界中の「日本ゲームファン」というグローバルなニッチ市場に対して、的確に求められるゲームを発信していく。そして、その中できちんと成立するビジネス構造を作り上げていく。これが「ニーア オートマタ」から、日本企業が学べる知見だ。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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