あなたの番です:メディアも驚く“おきて破り” SNSと相乗効果で視聴率V字回復

「あなたの番です」第1話の1場面。今見てみるとずいぶん昔のことに感じてしまう=日本テレビ提供
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「あなたの番です」第1話の1場面。今見てみるとずいぶん昔のことに感じてしまう=日本テレビ提供

 殺したい相手を交換する“交換殺人”をテーマに、毎週大きな話題を呼んでいるミステリードラマ「あなたの番です」(日本テレビ系)。「毎週、死にます。」をキャッチコピーに、多くの登場人物が殺されていった第1クールの最後には、なんと原田知世さん演じる主人公の手塚菜奈までも殺されるという“おきて破り”で、視聴者に大きなショックを与えた。連ドラの主人公が“途中退場”するという展開は、「主演」や「番手」といったドラマの“お約束”の面からも極めて異例で、メディアとしても大いに驚かされた。今週は放送休止ということで、記事を書いている媒体の立場から、そして毎週の放送を楽しみにしている一記者の立場から、盛り上がりを振り返ってみたい。

ウナギノボリ

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 「あなたの番です」の一報が編集部に届いたのは1月下旬。19年ぶりの民放連ドラ出演となる原田さんと、「おっさんずラブ」で大ブレークした田中圭さんのダブル主演による「“年の差新婚夫婦”のノンストップミステリー」という触れ込みで、個人的には興味をそそられた。

 しかし、賀来賢人さん主演の「今日から俺は!!」、菅田将暉さん主演の「3年A組-今から皆さんは、人質です-」と同じ日曜午後10時半の「日曜ドラマ」枠で、どちらもSNSを中心に若い視聴者の間で盛り上がっていただけに、正直なところ「ちょっと枠のコンセプトに合わないんじゃ?」と思ってしまったのも事実だった。「今日から俺は!!」「3年A組」のどちらも「学園ドラマ(大枠では)」だっただけに、「『“年の差新婚夫婦”のノンストップミステリー』は、ちょっと年齢層が高いんじゃないか」と思ってしまったのだ。

 視聴率も、第1話が8.3%(以下ビデオリサーチ調べ、関東地区)、第2話が6.5%でその後も6月初頭の第8話まで6%台を推移。個人的には動画配信サービス「Hulu」で配信中のスピンオフ「扉の向こう」も全話視聴するほど盛り上がっていただけに、担当記者と「面白いのに数字(視聴率)厳しいね。なんでだろうね」と首をかしげていたものだった。同時に筋立てを追って謎解きを楽しむミステリーという作品の特性上、“V字回復”は厳しいのではないかとも思い始めていた。

 一方で、SNS上の反応は視聴率とは異なる動きを見せていた。床島比呂志(竹中直人さん)が転落死した第1話、赤池美里(峯村リエさん)、赤池吾朗(徳井優さん)が最後を迎えた第4話といったショッキングな回が盛り上がっただけでなく、袴田吉彦さん演じる「袴田吉彦」が殺されてしまったちょっとコミカルな第5話も話題を呼んだし、西野七瀬さん演じる黒島沙和がホワイトボードに一連の情報を図式化した第6話の時には「有能!」「活躍してる!」といったコメントで盛り上がった。そうした硬軟取り混ぜたSNS上の盛り上がりは、真犯人をそれぞれが推理する「考察」への盛り上がりへと形を変えていった。ユーチューバーが考察を動画で配信したり、考察がネットニュースとして配信されたりと大きな動きになっていったのだ。

 そして、菜奈の親友とされていた榎本早苗(木村多江さん)が豹変する第9話(8.0%)あたりからついに視聴率にも盛り上がりが反映されはじめる。そこに最大のインパクトとして訪れたのが主人公である「菜奈の死」という“おきて破り”の展開だった。

 ミステリーにおいて、さまざまな“おきて破り”は存在する。主人公である「探偵」の助手が犯人だったり、「探偵」自身が犯人だったり……。中には「探偵」が死んでしまうものもある。しかし、「探偵」が謎解きの途中で殺されるというのは異例だ。もちろん、小説において、主人公と目されていた「私」が物語の途中で殺されるといった展開は、何代にもわたる大河もの、戦記ものなどであるし、ミステリーでも叙述トリックとして存在する。アドベンチャーゲームの主人公なら選択肢をミスると途中で死んでしまうこともある。

 しかし、出演者の順番を示す「番手」が、ドラマや映画では極めて重要視されることを知っているメディアの立場でいえば、番手の先頭にいる主人公が放送期間の途中で殺されるというのはおおよそあり得ない。正式な番手では、原田さんと田中さんは「ダブル主演」ということで同格にあたるが、それでも最初に記述される人がメインの主人公だ。それが途中でいなくなるというのは極めて異例だ。ちなみに「反撃編」に入って、公式サイトの番手も原田さんと田中さんが入れ替わっている。

 “おきて破り”の効果は絶大だった。菜奈が死んでしまった第10話は7.9%だったものの、菜奈と翔太(田中さん)のなれ初めを描いた「特別編」は8.1%、横浜流星さんも加わり、第2章「反撃編」となっての第1話ともいえる第11話では9.2%と番組最高記録を更新。第12話も9.2%で、第13話ではついに10.9%と初の大台を記録した。再浮上は難しいとされる6%台からのV字回復は素晴らしいの一言だが、これもSNSの盛り上がりという“下地”が大きく貢献したと考えている。

 SNSでの考察に“おきて破り”の効果も相まって視聴率も上昇と、さらなる盛り上がりを見せそうな「あなたの番です」。「反撃編」でさまざまな謎が明らかになってきているが、予告編を見る限り、来週の14話では久々に大きな事件が起きそうだ。真犯人を考察するのもよし、ネット上でさまざまな考察を見るのもよし、次週放送が楽しみになる幸せな時間はまだまだ続くだろう。願わくは、事件解決で理不尽な“おきて破り”がありませんように……。

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