NHK総合で放送され、深夜放送にもかかわらず注目され、夕方に一挙再放送されて話題を集めたテレビアニメ「映像研には手を出すな!」。そして、テレビアニメで人気を博し、劇場版が2月29日に公開された「SHIROBAKO」。いずれもアニメ制作に携わる若者の姿を描いているが、どうして一見地味そうな題材を扱ったアニメが注目されているのか。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。
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今期放送中の「映像研には手を出すな!(映像研)」が、NHKの深夜アニメでは異例の夕方一挙再放送が実施されるほど話題になっています。本作は、メインの女子高生3人が映像研究同好会を作り、そこで自身の「最強の世界」をアニメーションで作るという物語です。
また今月29日には、その題材ゆえにテレビシリーズ放送当時に関連業界内でも話題となったアニメ「SHIROBAKO」の劇場版が公開されました。本作は、同じ高校のアニメーション同好会メンバーであったメインの女性5人が、いつか共に商業アニメーションを作ろうという誓いを胸に、それぞれ志望先のアニメ業界内で働く姿を描いた物語になっています。
ご覧いただくと分かるように、奇しくも今期一堂に会したこの2作の共通点は、どちらも「アニメをつくるアニメ」であることです。では、そんな両作がそれぞれ話題になった要因とは、シンプルに人々のアニメーション制作への興味関心が高かったからなのでしょうか。
もちろん、それも重要な要素のひとつであると思います。今やアニメは、誰もが何かしらの形で触れているほど身近な存在となっていますが、一方でそれらがどのように作られているのかについては、自発的に調べない限りなかなか知る機会はありません。あまりなじみがないジャンルではハードルが高いし、だからといって誰もが知っていることだと興味が湧きづらいと考えると、アニメーション制作というのは、程よく身近で人々の好奇心を刺激する題材といえるでしょう。
しかし、「映像研」と「SHIROBAKO」の両作が評判になったのは、それ“だけ”が原因でもないように思うのです。
両作は、同じアニメーション制作を描いていても、そこへのスポットの当て方が微妙に異なるのが特徴です。ざっくりと分けると「映像研」では、“アイデアがアニメーションになるプロセス”が、「SHIROBAKO」では“企画がアニメ作品になるプロセス”が描かれているように思います。つまり同じアニメーション制作でも、「映像研」では、どうしたら思い描いたアニメーションになるのかという試行錯誤や挑戦といった発明に近い“モノづくり”の面白さが、「SHIROBAKO」では、アニメ作品はどう作られているのかといった業界の構造やあるあるネタを交えた“お仕事もの”の面白さが特に際立って描かれているのです。
モノづくりやお仕事ものといったテーマは、実写のドラマやドキュメンタリーなどでもよく描かれてきました。両作が共に評判を呼んだのは、アニメーション制作という興味深い題材はもちろん、そこへの興味の強さだけに左右されない、そうした一般的にも通じる要素も持っていたからではないでしょうか。
アニメーション制作という珍しさと、モノづくりやお仕事ものといった普遍的な面白さ、その両面を持つ作品だからこそ、「映像研」と「SHIROBAKO」は、それぞれが話題になったのだと思います。
実写ではありますが、昨年の連続テレビ小説「なつぞら」があれだけ盛り上がっていたことにも、珍しい演出や話題性、内容の面白さはもちろんのこと、同じように、アニメーション制作という好奇心を刺激するテーマと、主人公なつの人生を描くという連続テレビ小説恒例のテーマが両立していたことが、少なからず関係していたのではないでしょうか。そう考えると、「映像研」と「SHIROBAKO」も、普段アニメは見ないけど、そういった実写作品は見るといった人々にも十分刺さるポテンシャルを持っている作品だと思います。
珍しいテーマを深掘りし過ぎるとニッチになりかねないし、鉄板もののテーマだけだと凡庸(ぼんよう)になりかねない中、両作は例えるならばそのどちらもバランスよく両立した“ちょい足しが大成功した定番料理”のような存在なのかもしれません。
こあらい・りょう 埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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