解説:「まんぷく」世良という男 桐谷健太のハマり役 本放送から5年も変わらぬ人気のワケ

2018年度後期のNHK連続テレビ小説「まんぷく」で世良勝夫を演じた桐谷健太さん
1 / 1
2018年度後期のNHK連続テレビ小説「まんぷく」で世良勝夫を演じた桐谷健太さん

 NHK・BSプレミアムとBS4Kで再放送中の安藤サクラさん主演の2018年度後期の連続テレビ小説(朝ドラ)「まんぷく」。萬平(長谷川博己さん)と福子(安藤さん)の“萬福(まんぷく)夫婦”と並ぶ人気のキャラクターといえば、「私は武士の娘です」が口癖の、“ぶしむす”こと福子の母・鈴(松坂慶子さん)だが、もう一人挙げるとするなら、“萬平の親友”世良勝夫(桐谷健太さん)しかいないだろう。本放送から5年たっても、変わらずSNSを沸かせるワケとは? 「世良という男」を解説する。

あなたにオススメ

 ◇得意技は「手のひら返し」? 「#世良に願いを」異例の“復活”

 「まんぷく」は、インスタントラーメンをこの世に生み出した実業家・安藤百福(ももふく)さんとその妻、仁子(まさこ)さんの半生がモデルのドラマ。2018年10月~2019年3月に放送された。

 戦前の大阪から始まり、3人姉妹の末っ子としておおらかに育った福子がバイタリティーあふれる青年実業家の萬平と出会い、結婚。母の鈴も一緒に3人で生活を送る中、世の中の役に立つという理想のため前進し続ける萬平と、安定を求める鈴の間で、福子は究極のマネージメント能力を培っていく……。

 桐谷さん演じる世良は、第1週から登場(初登場は第5回)。世良商事の社長で、元は技術屋だったが、萬平の優れた技術と才能に圧倒され、「作る方」から「売る方」に転身し、販売の道へと突き進んでいく。常に損得勘定で行動し、萬平を「親友」と呼んだりするが、得にならないと分かるとあっさり見捨てたりすることも。要領が良くて、状況を判断する力にたけた、ある意味「たくましい男」だ。

 得意技(?)は「手のひら返し」。第3週の“萬平、最初の逮捕”の際も、萬平とは「屋台でラーメンを一緒に食べる仲」で「親友」だと主張していたが、自分には手に負えないとなると福子の前で「不幸は伝染する」「そういうところには近づかない」と本音をもらし、最終的に「(萬平とは)一緒にラーメンを食うただけや。言うとるやろが!」と、福子のことを逆ギレ気味に突き放した。本編最初の「手のひら返し」である。

 「ずうずうしいお調子者」だけでなく、時として悪事を働くこともある世良。戦後、萬平らが海辺の町・泉大津に移り住み、塩作りを始めると、金の匂いを嗅ぎつけたのか、姿を現し、塩の運搬を買って出て、勝手に売り上げの半分を自分の懐に入れてしまう。

 このとき(第7週の第37回)、SNSで生まれたのが「#世良に願いを」というハッシュタグだ。5年前の本放送時、世良が悪行を重ねるたび、視聴者が「#世良に願いを」付きで、世良にプチ不幸が起こることを願う(つぶやく)ことがはやったが、今回の再放送で異例の“復活”。5年たっても変わらぬ“世良人気”の象徴となっている。

 ◇当時、桐谷健太は世良の“憎めない”キャラ作りに苦心

 そんな世良だが、イライラはするけど「なぜか憎めない」と感じている視聴者が多いのも、また事実。「生きるためにはどんなこともいとわない」といった部分はあるが、それも「今の自分」に正直であるがゆえ。そのたくましさは、誰にもまねできないものがある。

 第5週の第24回では、世良が、闇市で鈴から買い取った着物を3倍の値で売ろうとしてとがめられるシーンがあったが、世良は「今は不公平の時代。戦死した人間と無事で帰ってきた人間。抑留された人間と帰国できた人間。飢えてる人間とたらふく食うてる人間。不公平が当たり前やのに、それを文句言うてる時点であかんのです」と持論を披露。さらには「ええも、悪いもない。あるのは不公平だけや」と言い切れる、(いいか悪いかは別として)人間としての「強さ」が彼にはある。

 世良役の桐谷さんも、5年前のインタビューで特に印象に残っているシーンとして挙げていて、「飢えている人を見て、世良自身も傷ついているだろうし、たらふく食っている人間を見て憤りなどを感じている部分もあったと思います」と世良の気持ちを代弁。「実際にそういう状況を目の当たりにして『不公平でよし』と思っているわけでは決してありません。ただ、みんなが思っていても口にしにくいことを、世良は言葉で表現できるのだと思います」と考えを明かしていた。

 そんな桐谷さんだが、世良の“憎めない”キャラ作りに当時、苦心。インタビューでも「世良は敵か味方か分からないうさんくささを持っていて、しかも悪いこともやってしまうのに、『それでもなんか憎めないよね』という側面を空気感や在り方で表現しなければならない」「それはせりふだけで表現できるわけではなく、視聴者の方に感じ取ってもらわなければいけない」と語っていて、「『しゃーないな、この人』という雰囲気を出すのは非常に難しい」と常々感じていることを明かしていた。

 「世良という男」が、いかにして桐谷さんのハマり役となったかがうかがえる話だ。

 ドラマは今後、塩作りに続く、栄養食品「ダネイホン」の開発を皮切りに、さまざまな困難が“萬福夫婦”を襲うが、世良の活躍(?)もまだ序の口。ナレーション(担当は芦田愛菜さん)で「疫病神」と呼ばれようが決してめげない、桐谷さんいわく、親友の萬平に対して「してもいない約束を守る男」世良のことを、どうか憎まずに最後までお付き合いしてもらえればと思う。

テレビ 最新記事