注目映画紹介:「無言歌」 中国の「反右派闘争」を題材に人間の尊厳を見つめ直す

「無言歌」の一場面 (C)2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ETRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP
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「無言歌」の一場面 (C)2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ETRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP

 山形国際ドキュメンタリー映画祭で2度もグランプリをとった王兵(ワン・ビン)監督の初長編劇映画「無言歌」が公開中だ。中国の文化大革命以前に起こった「反右派闘争」を題材に、人間の尊厳を見つめ直す。政府に無許可で撮影したため、ベネチア国際映画祭で命懸けでサプライズ上映されたいわくつきの作品だ。

ウナギノボリ

 1960年。中国西部のゴビ砂漠にある収容所に「右派」とされた人々が送られた。毛沢東は共産主義への批判を受け入れておきながら、手のひらを返し、弾圧を始めたのだ。男たちは砂嵐が舞う荒野の開墾を命じられた。土肌むき出しの穴に寝床があり、食事は水のようなおかゆだけ。右派と縁を切りたい家族が離婚通知を送ってくる。過酷な環境の中、次々に倒れる収容者たち。ある日、収容者の妻が訪ねてくるが……という展開。 

 見ていて息苦しくなってくる。「こんなところで農場労働?」と思うような荒れて干からびた大地。「これは人が寝るところなのか?」という寝床。遺体が毛布にくるまれて運び出される様子をカメラはじっと見据えている。ドキュメンタリー映画で高く評価されているワン監督は3年をかけて生存者を捜し出し取材した。その生存者も出演しているというリアリズムに徹した描写に圧倒される。極限状態の人の姿をただただ映し出す。土一色の風景は、地球ではないどこかのような、まるでSF映画を見ているような気分にさせる。だが、これは実話が基になっているのだ。シーンは少なく、せりふも少ない。むだなものを省いた映像の先に、迫害された人間の慟哭(どうこく)が描かれている。ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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