黒川文雄のサブカル黙示録:超大物クリエーターの悩みと任天堂の動向

 1カ月前、これまで大ヒットゲームを何度も世に送り出してきたある超大物クリエーターに再会することができました。独立後も優れた作品を世に送り出しましたが、かつてのような大ヒットはせず、ゲーム市場のあり方を考えさせられました。現在はスマートフォンのアプリ開発に注力をしているようですが、「どうすればヒットするソフト(アプリ)を作れるか分からない」といっていたのが印象的でした。

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 さて最近、家庭用ゲームメーカーとソーシャルゲームパブリッシャーの関係性が少し変わってきているようです。好意的にいえば、双方のメリットが合致して、互いに市場を拡張し、ゲームを作ろうとしています。最近面白いと思ったのは、カプコンとDeNAの合同採用説明会・選考会です。両社ともゲームソフトとソーシャルゲームの業界ではリーディングカンパニーであることは間違いないわけで、互いのメリットを生かした展開といえるでしょう。

 実は、これから来年にかけてゲーム業界で大きなリセッション(再編成)が始まるのではないかと思っていました。すると、グリーがソーシャルゲーム会社「ポケラボ」を138億円、ネクソンが同じくソーシャルゲーム会社の「gloops」を365億円で買収しました。どこの会社も次の一手と開発者、コンテンツを欲しているのは明らかで、人材の流出流入もさらに進んでいます。9月に開催された「東京ゲームショウ」を見れば、かつて家庭用ゲーム機で活躍したクリエーターが転職してソーシャルゲーム会社のトークショーに出演しているのを見た人も多いと思います。

 そんな中、最後の大物「任天堂」の動向が、業績不振と合わせて注目を集めています。岩田聡社長は、スマートフォンやタブレット端末の普及がビジネスの環境を変えているという認識は示したものの、それらに向けてソフトを開発する考えはないことを明かしています。また、ソーシャルゲームについては、ビジネスとして魅力を感じていないこと、競合としての関係もあまり考えていないという見解を示しました。つまり、あくまでも任天堂のハードありきの姿勢を崩さなかったわけです。

 もちろん経営者ですから、自社ゲーム機のアイデンティティー(自己存在)を高める必要はあるでしょう。そして今が正念場という思いがあるのかもしれません。しかし、本心でそう思っているとしたら、個人的には同社の陰りを感じざるを得ません。なぜならソーシャルゲームについて考えないとしても、存在がその場から消えるわけではありません。1カ月前にお会いした著名なクリエーターと同じく「分からない」というジレンマを、同社にとって「魅力を感じていない」という一言で片づけてしまうのは、現在の世の中のニーズを見ていないのではないかと思います。起こっている事象を人ごととして片づけているように見えてしまうのでは私だけではないと思います。

 ◇プロフィル

くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)、「ニコニコチャンネル 黒川塾ブロマガ」(http://ch.nicovideo.jp/channel/kurokawa-fumio)も更新中。

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