ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声:ジラール監督とウェアリングさんに聞く「怒るシーンは難しかった」

映画「ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」について語ったランソワ・ジラール監督(左)とギャレット・ウェアリングさん
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映画「ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」について語ったランソワ・ジラール監督(左)とギャレット・ウェアリングさん

 心を閉ざした少年が名門合唱団付属学校で厳しい指導者と出会って成長していくさまを描いた「ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」が公開中だ。米アカデミー賞で最優秀作曲賞を受賞した「レッド・バイオリン」(1998年)で知られ、シルク・ドゥ・ソレイユの東京公演「ZED」の演出も手掛けたフランソワ・ジラール監督が手掛けた。主人公の少年役に抜てきされたギャレット・ウェアリングさん(14)とともに来日したジラール監督は「音楽ももちろんのこと、師弟関係を見てほしい」と話す。

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 ◇少年合唱はエゴがない純粋なハーモニー

 映画では、複雑な家庭環境で育ち、学校の問題児だったステット(ウェアリングさん)は、母親を亡くして、名門合唱団の付属学校の寮に入る。ステットを演じたウェアリングさんは、今作が長編映画初出演。撮影当時は11歳だった。名優ダスティン・ホフマンさん演じる厳しい先生に堂々と対抗し、先生の心にさざ波を立てる役柄を演じ切った。

 「初めての長編作でダスティン・ホフマンさんと共演できたなんて、我ながら驚いています」と頬を紅潮させながら、うれしそうにこう語るウェアリングさん。「ホフマンさんは素晴らしい方でとても優しく、手取り足取り時間をかけて演技の指導をしてもらいました。ホフマンさんもジラール監督も家族のような環境を整えてくれました」と温かい現場を振り返る。

 ジラール監督は「彼はオーディションで抜きん出ていた」と評する。「ステットを演じるための深みが、ウェアリング君にはありました。映画を肩に担いで成立させるだけの力があったのです」と褒めたたえる。映画にも出演したアメリカ少年合唱団の先生の指導を仰ぎ、2週間、基礎をみっちりと勉強したという。吹き替えだけでなく、ウェアリングさん自身が歌っているシーンも使った。

 映画監督だけでなく、ワーグナーの「ジークフリート」などさまざまなオペラの演出も手掛け、音楽に造詣が深いジラール監督だが、少年合唱を題材にしたのは初めて。「これまで手掛けたオペラの演出での苦労が報われた気がする」と語る。

 ジラール監督は「今回の発見でうれしかったことは、少年合唱曲を調べているとき、私の好きな(作曲家の)フォーレやメンデルスゾーンなどの曲もあることを知ったことでした。少年合唱は、エゴのない素晴らしい歌手ばかりを集めた純粋な声のハーモニー。直接心に響いてきます。歌声に込められた感情の力を改めて感じました」と実感を込める。

 ◇実際の練習風景を参考にリアルなシーン作り

 ボーイソプラノは、神様がくれたつかの間の声。ウェアリングさんも「とにかく、この映画は音楽が素晴らしいんです」と後押しする。自分も出演しているのに「僕は映画を改めて見て、その純粋さに涙してしまいました」と打ち明ける。さまざまな合唱曲ももちろんだが、ステットの寮生活などのリアルな描写も見どころの一つだ。

 「アメリカ少年合唱団の練習風景を撮影させてもらって参考にしたお陰で、豊かな映像になりました。実際の練習の中から、輪になって歌ったり、頭に楽譜を乗せて歌う練習をシーンに取り入れました。レコーディングは撮影前に済ませていたのですが、授業で歌っていた『アディエマス』(カール・ジェンキンス作曲)があまりにもよかったので、ステットが初めて最前列で歌うシーンに使いました」とジラール監督は語る。

 母の死、厳しい指導、同級生からのいじめ、ケンカ……。困難な環境の中で、歌に対して次第に情熱を傾けていくステット。師弟関係とステットの成長物語が展開されるが、やがて、退校のピンチとなる。ウェアリングさんは「一番感情表現が難しかったシーンだった」と話す。

 「監督に感情を抑制してほしいと言われました。ドラマチックな表現に慣れていた僕にとって、抑えた感情が内側でフツフツと湧いているのを表現するのはとても難しかったです」と明かす。

 ステットだけでなく、カーベル先生(ホフマンさん)も選択を迫られる重要なシーンとなった。ジラール監督は「映画を見てくれた多くの人に言われたのは、今の社会にカーべルのような厳しい先生はいなくなった、師弟関係がいつのまにか社会から消えてしまった、ということでした。人はカーべル先生のように、本気でぶつかってくれる先生を求めているのでしょう」と語る。

 ステットがカーべル先生に教えられ、ステットもカーべル先生に影響を与えていく。響き合う師弟関係をぜひ堪能してほしい。出演はホフマンさん、ウェアリングさん、キャシー・ベイツさん、デブラ・ウィンガーさん、ジョシュ・ルーカスさんら。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで公開中。

 <フランソワ・ジラール監督のプロフィル>

 1963年1月12日生まれ、カナダ出身。「グレン・グールドをめぐる32章」(93年)がカナダのジニー賞4部門を受賞。「レッド・バイオリン」(98年)で米アカデミー賞最優秀作曲賞を受賞。その他の監督作に「シルク」(2007年)などがある。08~10年に東京で初めての常設公演となったシルク・ドゥ・ソレイユの「ZED」を演出した。

 <ギャレット・ウェアリングさんのプロフィル>

 2001年8月31日生まれ。米国出身。俳優を目指し、同じく俳優の姉のマッケンジーさんと弟のメイソン君とともに、テキサス州からロサンゼルスへ移住。13年度プリティーン男子モデル賞受賞。今作が長編映画初出演。 

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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