女優の田中麗奈さんが、俳優の浅野忠信さんと共にバツイチの夫婦を演じた映画「幼な子われらに生まれ」(三島有紀子監督)が公開中だ。直木賞作家・重松清さんの同名小説が原作で、先日のモントリオール世界映画祭で審査員特別大賞に輝いた。田中さんに、今作で演じた奈苗という“ぶら下がり系の女性”について、共演の浅野さんに対しての思い、女優の仕事について聞いた。
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映画「幼な子われらに生まれ」は、バツイチのサラリーマン、田中信(浅野さん)が再婚した妻、奈苗(田中さん)の連れ子とうまくいかず、悶々(もんもん)とした日々を過ごしていた。ある日、奈苗の妊娠が分かり、長女の薫(南沙良さん)はそのことでより辛辣(しんらつ)になり、“本当のパパ”(宮藤官九郎さん)に「会いたい」と言い始める。信は今の家族に息苦しさを覚え……というストーリー。信の元妻でキャリアウーマンの友佳役に寺島しのぶさん、DVが原因で別れた奈苗の元夫・沢田役で宮藤官九郎さんが出演している。
田中さんは男性に頼るタイプの奈苗という女性について、「共感は難しいですね」と言いつつ、「すごく分かるなと思うのは、信(浅野さん)に対しては“女”なんですよね。妻だけど再婚していることもあって、よけいに女なのかなと思って。信に負い目も感じていて、嫌われたくないというのはあるんでしょうね。顔色をすごくうかがったりとか、遠慮もしているし、可愛くいたいと思っている気がします」と分析する。
奈苗には15歳の娘を筆頭に連れ子がいるが、「娘には母親なんです。特に中学生のお姉ちゃんは身長も私くらいで。母親としてどんと構えていようというのもありましたね。娘は一緒に地獄を見た仲間というか。悪い状態も知っているわけじゃないですか。だから信に怒鳴られたら『嫌、嫌』っていうんだけど、一番上の娘に『お母さん、(部屋に)鍵をつけてよ』って怒鳴られたら、『何言ってるの!』ってとにかく強い口調でねじ伏せるというか。そこは意識的にやりました」と二面性のある女性として演じた。
相手によって表情を変えることは、「自分ではTPOで、年上、年下、同級生となると自然と礼儀も違ってくると思うし、そこは自然に対応すると思うんですけれど。今回の役を考えたときに、設定として(表情を)作ったりはしました。こういう人にはこういう部分を見せていきたい、こういう関係性をここで出したいというところで」と相手によって表情や態度を変化させるよう工夫した。
今回、共演した浅野さんについては、先に浅野さんの出演が決まっていると聞き、出演を決めた。田中さんは共演について、「浅野さんが出演されてきた『鮫肌男と桃尻娘』(1999年)や『私の男』(2014年)などの映画を見て『映画っていいな』と思ってきた世代なので。共演で、しかも妻役ということで、すごくうれしかったですね。奈苗は『ねえねえ』って甘える役柄だったので、浅野さん自身が私のことをどう思ったのかは分からないですけれど」と笑う。
女性の三島監督については「女性の監督はストレートですね。男性の方が撮っていたら、多分、奈苗をどういうふうに表現したのか、また別の映画になっていたような気がします。三島監督は、すごく奈苗のことを大事にしてくださったので、映画として、女性が見るスキを与えてくれたというか。原作だと信が主人公で、奈苗のことにはあまり触れていないんですよね。(信にとっては)なかなか自分を分かってくれていない妻という印象なんですけれど、監督が奈苗に寄り添ってくれて、奈苗の気持ちなどをいろいろ考えてくれたことで、この作品が出来上がったような気がします」と感謝している。
そして映画について、「連れ子で再婚した夫婦の非常にリアルな生活、心情を描いている作品だと思います。家族でも、ただきれいなところを見せ合うんじゃなくて、人間同士、自分の嫌なところも見せ合って、リアルな部分を見ることで、自分がこういう家族を作りたいなとか、自分の両親はこういう気持ちで夫婦をしていたのかなとか、身近な友達でもいいし、誰かに寄り添えたり、この映画を見ることで、自分自身の家族像が考えられるような作品なんじゃないかなと思います」とメッセージを送る。
10代から演技の仕事をしてきた田中さんにとって、演じることとは、「自分で好きでやっていることなので、これだけは絶対に続けたいというものです」と言い、10年後、20年後も「続けられれば、ずっとやっていきたい」と力を込める。
女優として今後、演じてみたい役は「最近は自分のおばあちゃん像というのが見えてきて。私の髪のタイプだと白髪になっていくんだろうなと思って、シルバーグレーになっても一癖あるおばあちゃん役ができればいいなあと思いますね。だから10年後くらい、ちょっと前倒しするくらいに白髪にしちゃうかもしれない」と明かした。
「ただのいいおばあちゃんという役だけではなくて、ちょっと面白いおばあちゃんというか。エッジの効いた役ができるような人になりたいなと最近思います」と話し、具体的には「樹木希林さんに憧れます。エッジが効いてますよね。希林さんも30~40年前からおばあちゃん役をやられていると聞き、私も多分(年老いた役を演じるのを)前倒しすると思います(笑い)」と思いをはせていた。
次回は、ガーデニングなどに凝っているという趣味や休日の過ごし方、生き方について聞く。
<プロフィル>
1980年5月22日生まれ、福岡県出身。1998年、映画「がんばっていきまっしょい」(磯村一路監督)で初主演。日本アカデミー賞新人女優賞などを多数受賞した。主な出演作に、「はつ恋」(2000年、篠原哲雄監督)、「東京マリーゴールド」(01年、市川準監督)、「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズ(07、08年、本木克英監督)、「夕凪の街 桜の国」(07年、佐々部清監督)、「犬と私の10の約束」(08年、本木克英監督)、「源氏物語‐千年の謎‐」(11年、鶴橋康夫監督)、「麒麟の翼~劇場版・新参者~」(12年、土井裕泰監督)、「夢売るふたり」(12年、西川美和監督)、「王妃の館」(15年、橋本一監督)、「葛城事件」(16年、赤堀雅秋監督)など。公開待機作に日台合作「おもてなし(仮題)」(ジェイ・チャン監督)がある。テレビドラマでは、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」(15年)、NHKドラマ10「愛おしくて」(16年)、フジテレビ系「真昼の悪魔」(17年)に出演。
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