放課後カルテ
第7話 お前が学校に来ようが来まいがどうでもいい
11月23日(土)放送分
歌手のAIさんが歌う、11月スタートのNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「カムカムエヴリバディ」の主題歌「アルデバラン」が配信中だ。シンガー・ソングライターの森山直太朗さんが作詞・作曲を手がけた壮大なナンバーで、AIさんの優しく、奥行きのある歌声が印象的だ。朝ドラ主題歌を初めて歌ったAIさんに、同曲の制作秘話や、自身の家族、10年後の未来像などについて聞いた。
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「カムカムエヴリバディ」は、戦前から戦後・令和の時代に、ラジオ英語講座と共に歩んだ親子3世代にわたる100年の家族の物語。ヒロインは上白石萌音さん、深津絵里さん、川栄李奈さん。AIさんは、主題歌のオファーをもらった際、「すごくうれしかったです。半年間も自分の曲が流れるドラマってそんなにないし、しかもNHKだから、実家の鹿児島でもみんなが見られる。うれしいですよね」と喜んだという。
2017年放送のNHKのドキュメンタリー番組「ファミリーヒストリー」で、AIさんの家族が戦前・戦後の時代背景と共に紹介されたこと、自身もバイリンガルで英語が堪能であることが、偶然、ドラマの内容とリンクした。AIさんは、そのことが起用された要因では……と自己分析しつつ、「私にお話をいただいたということは、“変化”が欲しいのかなって思ったんです。朝ドラの主題歌って、爽やかでポップな曲が多いですよね。なので、今回はちょっと違う感じがいいのかなって」と語る。
当初は、自身でも候補曲を何曲も作った。「スタッフの気合がすごくて、『いや、もっといけるでしょ?』みたいな空気になって……。私に与えてくるプレッシャーが半端じゃないんです(笑い)」と制作を振り返る。そんな中で、AIさんのスタッフから森山直太朗さんの名前が挙がり、楽曲提供されることになった。
タイトルの「アルデバラン」は、冬の空に輝く牡牛座(おうし)の1等星のこと。東の空からプレアデス星団(すばる)に続いて昇ってくることから、アラビア語で「後に続くもの」を意味する。楽曲には、「多くの人の輝きと道しるべになるように」という願いや、“いろんなことが起きているこの時代に頑張っている人”に伝えたい思いが込められた。実は森山さんには、朝ドラ主題歌とは告げずに依頼し、あくまでAIさんへの書き下ろし曲として作られたという。
最初に曲を聴いた時の印象を、AIさんは「メロディーラインが自分の好みのタイプだし、暗すぎず、明るすぎず。ディープすぎず、軽すぎず。バランスがちょうどいい」と感じた。偶然だったが、ドラマの内容に寄り添うような歌詞にも衝撃を受けた。
「ロマンチックなところもあるし、ディープな場面もある。でも良い方向に行きたい、そういう未来になってほしいという希望を求めている歌詞で、今の自分や世の中にぴったりだし、ドラマにも合うなって。自分が共感できることはすごく大事で、これなら最高!と思いました。私のスタッフの間で“いいね”ってなった段階で、朝ドラ主題歌のための曲ということを直太朗くんに伝えたら、『えっ、そうなんですか?』みたいな感じでびっくりしていたみたいです」と笑顔で明かす。
“頑張っている人”へのメッセージという意味で、「目の前にいる人や、一人一人に向けて歌っているような感じで、それが結果的に、多くの人に届けばいいなという気持ちで歌っています。“あなたにこの歌詞を伝えたい”というふうに歌った方が、自分でも入り込める気がします」とAIさんは語る。ラストのゴスペル調のコーラスは、「朝に聴いて、テンションを上げて、気分よく用事や仕事に出かけてほしい」というメッセージが込められている。
ドラマのオープニングで曲が流れる映像を初めて見た時は、「感動でちょっと涙が出ました。現在までの100年を描くドラマというのをアニメーションで表していて、それに自分の曲が乗っかって、ドラマが始まる……。もう最高でした。戦前から物語が始まるから、自分が祖父母から聞いていた時代の話を思い浮かべたり。それを今の自分の生活と照らし合わせながら見ると、グッとくるんです」と熱く語る。
AIさんは2人姉妹の長女で、日本人の父、日系人とイタリア人のミックスである母との間に米ロサンゼルスで生まれ、1984年に父の故郷・鹿児島に移住した。母のバーバラ植村さんは、講演会での講師をはじめ、作家、タップダンサー&インストラクター、振付師、イラストレーター、ボランティア団体の主催者など、幅広い分野で活躍している。
「母は、私が小学生くらいの時から講演会をやっていました。私も子供の頃に講演会に行ったことがあるんですが、すごく面白いんです。おじいさんに『最近、奥さんに愛してるって言った? なんで言わないの? ちょっと言ってみて』って話しかけて、日本と海外との違いについて話したり。リアリティーがあるし、人を変えさせる力があるんです。福祉の活動もしていて、ハンディキャップがある人がよく家に来て、一緒に遊んでいました。それは“よく思われたいから”とかじゃなくて、自分の素直な心なんです。うそがないし、やっぱり強いですよね。だから私は母が好きです。すごく尊敬しています」
そんなバーバラさんも、鹿児島に移住した当初は日本語を話せなかったため、相当苦労したようだ。「大変だったと思います。友達もいないし、父も仕事で忙しかったので。買い物に行っても“塩”“砂糖”も読めないし、何も分からない。そんな中で2人の子供を育てて、仕事もして……。一度ストレスで倒れてからは、自分の毎日を変えないといけないと思ったようで、ポジティブシンキングについての本を読んだりして、どんどん変わっていきました。良いことをすると、良い気持ちになる。だから今は『ハッピーなことをしないと』と言っています」
AIさん自身は、2015年に第1子の長女、2018年に第2子となる長男を出産。2児の母としての育児は「超大変」で、仕事がむしろ気分転換になっているという。
「毎日、仕事から帰ったらもう大変。最近は、帰ってからが本番の仕事ですっていう感じです。子供なんて予想外の動きしかしないし。お店に食事に行っても、下の子がちょろちょろ動いて、上の子は飽きてきちゃって……。『そこは触らないで!』って注意するだけでも、他のお客さんに気を使うし。そんな日々ですが、子供が育てばまた自分の時間が戻ってくるだろうし、『これは修業だ』と思って今はやってます(笑い)。子供が可愛いのは間違いない。本当に愛くるしくて、すごくパワーをもらってます」と母の顔で語る。
両親から愛情をたっぷり受けて育ったというAIさん。「いっぱい叱られましたけど、その分、愛情もいっぱいもらいました。あとはやっぱり“元気”ということ。親が元気だから、私も負けていられないし、それを受け継いでいかないと」と力強く語り、自身の子供たちにも「元気でいること」を受け継いでいってほしい、と親心をのぞかせる。
「普段から子供にも、『元気でいてくれてありがとうね』『元気でいてね』っていつも言ってます。やっぱり、うちの両親が、大変な状況の時も元気に頑張ってくれていたので、私も元気でハッピーな顔をしていたい。あと、両親はケンカをしなかったんですね。それはすごいことだなと思っていて、そういうところも受け継ぎたいなと思います。“仲が良いのは気持ちがいいよね”ということ、平和な心でいることが一番、元気が一番だよっていうことを伝えていきたいです」と力を込める。
最後に、10年後の未来を想像してもらうと、「歌った時に、魔法をかけられたらいいなっていつも思うんです。曲に込めた気持ちや言葉を伝えて、それをみんなが信じて元気になったり。だから10年後は、自分の歌を聴いた人が、もっと元気になったり、幸せになったりできる、そんなアーティストになっていればいいなと思いますね」と笑顔を見せた。
(取材・文・撮影/水白京)