藤ヶ谷太輔:“自分にしかできない芝居”を追い求めて ジャニーズとしての苦悩を昇華し「全てを大事に表現する」

映画「そして僕は途方に暮れる」で主演を務めたKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔さん(C)2022映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会
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映画「そして僕は途方に暮れる」で主演を務めたKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔さん(C)2022映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会

 2018年に上演された舞台を映画化した「そして僕は途方に暮れる」(三浦大輔監督)が2023年1月13日に公開される。今作で舞台に続いて主演を務めたのが人気グループ「Kis-My-Ft2(キスマイフットツー)」の藤ヶ谷太輔さんだ。藤ヶ谷さんは「“知らない自分”に会える面白さがある」と俳優業の醍醐味(だいごみ)を語るが、過去には「ジャニーズとして“いろいろなこと”をできないといけない」ために役者としての活動に焦りを感じたこともあったという。そこから視点を変えて考えられるようになった、現在の藤ヶ谷さんの在り方とは――。

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 ◇「役は逃げ回る割に、現場では一切逃げられない」 “途方に暮れた”撮影の日々

 映画は、ばつが悪くなるたびに逃げ出してしまうフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷さん)が主人公。特にやりたいことや目標もなく、自堕落な日々を過ごす中、ほんのささいなことをきっかけに恋人、親友、家族とあらゆる人間関係を断ち切っていく“逃避劇”を描いている。

 自身の理想を徹底的に追い求めていく三浦大輔監督のもと、藤ヶ谷さんは壮絶な撮影の日々を過ごした。「三浦さんは、舞台上で一番いいところを映像でつないでいくというか。だから全然OKも出ませんでした。役は逃げ回る割に、現場では一切逃げられず、裕一いいなって何度思ったことか(笑い)」と打ち明ける。

 この映画の象徴ともなるラストシーンは、リハーサルを含めて100回以上テークを重ねた。裕一が何も言わずに振り返る場面で、三浦監督からは「イメージとして日本語の辞書にない感じがいい」と要求された。

 「『成長した』とか『かっこよくなった』みたいな“答え”を出さないでほしいということだったんです。真顔では逆に意味が出てしまうし、無の表情だと答えがないと提示しすぎてしまう。そんなことを言われる前から三浦さんのOKラインが分からないのに、タイトル通り途方に暮れるんだろうなと思いましたよ(笑い)」

 その他のシーンでも、一発でOKが出たことはなく、同じ芝居を何度も繰り返した。

 「自分では何が三浦さんにとってのOKになるのか分かりませんでしたが、きっと三浦さんが求めていた感覚を引き出してくれていたのかなと。だから、そのときの空気感でしか出せない機微みたいなものが映像に残っていると思います」

 ◇こだわり抜く三浦監督が「僕の芝居を選んでくれた」 現場で出した“120点”

 同じシーンを何回も撮影することは、演じる役者にとっても、またそれを切り取る監督にとっても難しいことだという。藤ヶ谷さんは「例えば、一発目には新鮮さと爆発的なものがある。だから自分の計算とずれることもあったりするんです。2回目になるとそれが少しコントロールできるようになるけど、鮮度は少し落ちてしまう。それから10回繰り返したとして、ラストで一発目よりも爆発的になる人もいて。画面に収まる人数が増えれば、それぞれの良いタイミングも異なってくるわけで」と話す。

 「三浦さんはそういったところが難しいと話していました。だから、もちろん僕が感じる“良さ”もありますが、そこはもう監督にかじを切っていただこうと」

 終盤のあるシーンでは、撮影したカットの中から最初のテークが使用された。藤ヶ谷さんは「いつもは『カット』の合図の後にすぐ『もう一回』と聞こえるんですけど、そのときは『カット』の声の後に少し間があったんです。そうしたら三浦さんがやって来て、『120点が出た』って喜んでくれて。ついに一発OKが出たかと思っていたら、そこで三浦さんは『よし、あと8回頑張ろう』って。スーッと血の気が引いていく感じがしましたね(笑い)」と振り返る。

 「最初のテークは監督のイメージとは違っていたみたいなんですが、それでも編集のときに、やっぱりこれだなとなったそうなんです。自分が求めているもの以外を使うのは初めてだったみたいで、あれだけこだわってきた監督が、僕の考えた芝居を選んでくれたのはうれしかったですね」

 ◇「ただ楽しかったで終わるのではダメ」 俳優業の難しさと面白さ

 時に過酷な環境に身を置くことにもなるのが役者の世界。その中で藤ヶ谷さんは「“知らない自分”に会える面白さがある」と俳優業の醍醐味を語る。

 「演者、シチュエーション、ヘアメーク……全部がそろったときに、一人で台本を読んでいたときよりも、幅や可能性の広がりを感じるんです。相手の芝居で自分も変わるし、知らなかった自分を引き出してもらえます」

 しかし、「それだけではダメだと思っていて」と貪欲な姿勢も見せる。

 「見てくださる方の中には、芝居を経験したことがない方もたくさんいらっしゃる。そういった方々の心を動かせるものをしっかり届けなきゃいけない。ただ現場が楽しかった、で終わるのではなく、自分が演じたものを皆さんに見てもらって判断していただく。その難しさと面白さかなと思います」

 ◇感じた焦りも“武器”に変えて 「いつか全部をやっていてよかったと思えたら」

 また、ジャニーズのタレントとして活動する藤ヶ谷さんにとっては、「二兎を追う者は一兎をも得ず」が常に課題だという。

 「僕の中ではグループ活動が基本なので、個人での活動もグループに還元したいし、芝居からキスマイのことを知ってもらえたらという思いもあります。でも、芝居をやるとその難しさに真正面からぶつかって、自分ができないことを実感し、もっと挑戦したいという気持ちになる。その思いが強ければ強いほど、他の仕事をしている時間が不安になってしまうんです。こうしてる間にも、俳優の皆さんはいろいろな現場を経験していて、自分だけが時が止まったまま、むしろ後退しているんじゃないかと考えてしまって」

 そういった焦りが生まれる一方で、“ジャニーズでいる意味”も重要視している。

 「ジャニーズって、やっぱり“いろいろなこと”をできないといけない。自分はここにいる以上、全てのジャンルにおいてある程度の合格ラインをクリアしていないと意味がないんじゃないかって思うんです」

 葛藤を抱えながらも、藤ヶ谷さんは視点を変えることで突破口を見いだした。

 「さまざまなお仕事をいただく中で、自分が何をしたいのか分からなくなってしまうこともある。だから、今は『〇〇がしたい』というのではなく『表現をする』という大きなくくりで考えるようにしています。例えば、バラエティーをやっている自分だから出せる演技のリズムがあるかもしれないし、MCで培った“聞く力”が芝居に生きるかもしれない。知っていただけるチャンスはたくさんあると思うので、全てを大事にして表現する。そうすれば自分にしかできない芝居がきっといつかは見つかるんじゃないかって。そのときに全部を手放さずにやっていてよかったと思えたらいいですよね」

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