解説:自ら冒険を求め、“動力”となり続けた「らんまん」寿恵子 朝ドラヒロイン史に刻んだ稀有な活躍

NHK連続テレビ小説「らんまん」最終回の一場面 浜辺美波さん演じる寿恵子 (C)NHK
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NHK連続テレビ小説「らんまん」最終回の一場面 浜辺美波さん演じる寿恵子 (C)NHK

 神木隆之介さんが主演するNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「らんまん」の最終回が9月29日に放送され、半年間にわたる物語は、主人公・槙野万太郎(神木さん)が生涯かけて取り組んだ「日本全国の草花を載せた図鑑」の完成をもって幕を閉じた。その図鑑の最後のページを飾ったのが「スエコザサ」。万太郎を支え続けた妻の寿恵子(浜辺美波さん)が名前の由来で、夫婦の永遠の愛と共に、朝ドラヒロイン史にも「寿恵子」の名が刻まれた瞬間になったのではないだろうか。

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 時代が幕末から明治、そして激動の大正・昭和へと移りゆく中、愛する植物のために一途(いちず)に情熱的に突き進んだ万太郎。そんな万太郎と運命的な出会いを果たし、後に結婚すると、貧しくも楽しく明るい家庭を築き上げた寿恵子。彼女の特筆すべき点は「主人公の妻」という枠だけにとどまらず、自ら冒険を求め、万太郎はもちろん、物語さえもぐいぐいと前へと進める“動力”となり続けたことだ。

 それにしても、本作における寿恵子の描かれ方は痛快だった。滝沢馬琴「里見八犬伝」オタク設定の愛らしさはもとより、結婚後、植物研究に没頭する万太郎のため、あの手この手で苦しい家計をやりくりし、ついには“女将(おかみ)”として成功してしまうバイタリティー。途中、長女を亡くすという悲しい出来事もあったが、物事を恐れたり気おくれしたりしない気力、度胸は、劇中キャラの中でも群を抜いていた。

 関東を襲った大地震により、万太郎の図鑑の完成がまた遠のいてしまったときも、無事だった渋谷にある自分の店をあっさりと売却し、その資金をつぎ込んで、練馬の大泉村に広大な土地を購入するという“ウルトラC”で万太郎を強力にバックアップ。活躍は晩年まで続いた。

 店を売る際、交渉相手のなじみ客・相島(森岡龍さん、後の東急グループ創業者・五島慶太がモデルと言われる)に、「私の大願を果たすのは、ここは手狭」と言い切り、「私は大願の途上におります。願いをかなえるために、この店を元手に次の場所へ移りとうございます。どうか、この店の今の値打ちを、正しくお見積もりいただけないでしょうか?」と伝えた寿恵子の姿も印象的で、万太郎と、万太郎の標本を守るための行動には、一切の迷いがなかった。

 時に一生涯におよぶなど、多くの年月を描く朝ドラにおいて、どうしても付いて回る主人公の「迷走」が、今回の万太郎にはほとんど見られなかったのも、そばで支える寿恵子に行動力と潔さがあったからに他ならない。

 最終回で万太郎は「寿恵ちゃんはいつじゃち、わしを照らしてくれた。寿恵ちゃんが、わしの命そのものじゃ」と語っていたが、寿恵子の存在は、物語を明るく照らす太陽のような存在であり、その稀有な活躍は、朝ドラファンにとって忘れられないものになったはずだ。

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