解説:「東京ブギウギ」誕生秘話 “列車の中で降りてきた”も“紙ナプキンに走り書き”も実話 「ブギウギ」制作統括が語るドラマの舞台裏

NHK連続テレビ小説「ブギウギ」の一場面(C)NHK
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NHK連続テレビ小説「ブギウギ」の一場面(C)NHK

 趣里さんが主演するNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ブギウギ」(総合、月~土曜午前8時ほか)の第19週(2月5~9日放送)では、ヒロイン・スズ子(趣里さん)のモデルとなった笠置シヅ子さんの代表曲「東京ブギウギ」が誕生し、初めてステージで披露されるまでが描かれた。制作統括の福岡利武さんは、「あまりに面白いエピソードすぎて」実話をいくつかドラマに盛り込んだという。実際のエピソードをひも解くとともに、お披露目となったステージシーンの舞台裏についても聞いた。

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 ◇「東京ブギウギ」ができるまでのエピソードが「あまりに面白すぎて」

 第89回(2月7日放送)で羽鳥善一(草なぎ剛さん)は列車に揺られながら、周囲にいた親子連れや復員兵を見渡し、「そっか……。再起しなきゃならないのは、君(スズ子)だけじゃないんだよな……」とつぶやいた。すると頭の中にメロディーが降りてくる。急いでメモを取ろうとするが、書くものを持ち合わせていなかった羽鳥は、列車を降りると近くの喫茶店に駆け込み、興奮気味に「悪いけど紙ナプキンくれる? 大至急」と店員に頼むと、注文もせずに受け取った紙ナプキンに音符を書き始めた。

 羽鳥善一のモデルとなった「東京ブギウギ」の作曲者・服部良一さんは、戦時中の1942年ごろ、米国の3人組女性グループ「アンドリューズ・シスターズ」の「ブギ・ウギ・ビューグル・ボーイ」という曲に触れ、いつかブギのリズムを取り入れた曲を作りたいと考えるようになったという。

 戦後、東京・杉並に住んでいたという服部さんは、都心からの帰り、国鉄(現JR)中央線の車内でレール音とつり革の揺れる音に8拍子のブギのリズムを連想。西荻窪駅前の喫茶店「こけし屋」(現在は休業中)に駆け込み、紙ナプキンにメロディーを一気に書き上げたというエピソードが自叙伝に残されている。

 また、第90回(2月8日放送)でレコーディングに米兵が見学に来たシーンも実話に基づいている。

 ドラマでは、スズ子のマネジャーの山下(近藤芳正さん)のアイデアで米兵を呼ぼうという話になったが、実際はレコーディングスタジオの近くに進駐軍の下士官クラブがあり、「東京ブギウギ」を作詞した鈴木勝さんが2、3人に声をかけたところ、「ブギウギを日本人がやるらしい」と聞きつけた音楽好きの米兵たちが、面白がって大挙して見に来たという。

 「かえってムードが盛り上がるかもしれない」とそのままレコーディングすることになり、演奏が始まると私語はピタリと止み、全員スイングしながらノリノリに。服部さんは「最高のライブ録音だった」と当時の様子を書き残している。

 このように実話を基にしたシーンをドラマに盛り込んだ理由を、福岡さんは「あまりに面白いエピソードすぎて、なかなか思いつかない。素晴らしいエピソードはそのままドラマに盛り込みたいという思いでした」と説明する。

 ◇ステージシーンの“裏設定”とは?

 「東京ブギウギ」は、1947年の年末に公開された正月映画「春の饗宴」に笠置さんが出演し、劇中で歌った曲。1948年1月にレコードが発売され、同年3月の日劇ショーで披露されると、評判となり、大ヒット。敗戦で虚脱状態だった日本人に活を入れた日本のブギウギ第1号曲であり、笠置さんの代表曲となった。

 第91回(2月9日放送)では、スズ子がステージで「東京ブギウギ」を披露した。ステージに上がる前の楽屋での羽鳥やりつ子(菊地凛子さん)とのやりとりから第1回と同じシーンが描かれたが、今回用に再撮している。

 福岡さんは、その理由を「今まで積み重なったものがあり、そのときの気持ちで演じていただいた方がつながりもいいと思いました。見ている方も、これまで人物を追ってきて、(同じシーンが)違って見えても面白く、楽しんでもらえると思うので。ここまできたかという感じにもなりますし、今のスズ子での『東京ブギウギ』のパフォーマンスを見せたかった」と語る。

 楽屋シーンを演じる趣里さんや菊地さん、草なぎさんは「(同じシーンだと)意識せずに今思っているところを自然にやっていただいた。草なぎさんは第1話から楽しんで演じてらっしゃるので、あまり変わらない。フォローに入るりつ子はすごく柔らかい表情になっているなと思いました」と感じたという。

 ステージで「東京ブギウギ」を歌う場面は、第1回では1コーラスのみだったが、今回は2番までのフルコーラスを披露した。

 スズ子は2コーラス目に入る場面で、ステージ前方に移動し、歌い続ける。セットでは「2番に行くところで『東京ブギウギ』の看板を下ろしたり、いろいろ趣向を凝らしていまして、より楽しんでいただければと思っております」とアピールする。

 スズ子はスタンドマイクを使わず、舞台を所狭しと歌い踊りながら歌っている。

 この演出について、「とにかく笠置さんがめちゃくちゃ動き回って、ステージ所狭しと歌って踊ってらしたという話をお聞きしたので、そこもスズ子らしさかなと思いましたし、見ている人と一体感のある前向きな明るいステージになればという思いで、歌って踊るステージにしました」と語る。

 スタンドマイクがないと、どのように音を拾ったのかという疑問も湧いてくるが……。

 「多くの視聴者からご指摘されることでもあるのですが、制作陣の“つもり”としては、ステージ下にたくさんマイクが置いてあって、そこでうまくステージ上の音を拾っているという裏設定で許してもらえればと思っています(笑い)」

 趣里さんの歌については、「ここまで数々のステージをやってきて、すごく堂々としていて自信もついたと思いますし、今回、フルで歌って、弾(はじ)ける感じや見ているお客さんとの一体感が本当にいいなと感じました。趣里さんもドラマとともに大きくなっていく感じで、すてきでした。すごい体力で、見事にフルコーラスを一連で撮っている。躍動的なステージになったなと思います」と成長を感じている。

 撮影も「躍動的でいままでより長いけれど飽きさせない。緊張感はあるけれど、その中でノリよく撮れたと思います」と手応えを語る。

 笠置さんの代表曲「東京ブギウギ」を披露するという、ドラマの一つの山場を描いた第19週。次週からは“ブギの女王”となったスズ子のその後が描かれる。これからもシングルマザーとして愛子を育てながら、芸能活動を続けるスズ子の奮闘を見守っていきたい。

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