菅生新樹:母の一言で変わった“仕事観” 池井戸作品でつかんだもの

「芥のごとく」で主演を務める菅生新樹さん
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「芥のごとく」で主演を務める菅生新樹さん

 池井戸潤さんの小説が原作のオムニバスドラマ「連続ドラマW 池井戸潤スペシャル『かばん屋の相続』」がWOWOWで放送・配信される。その一編「芥のごとく」の主人公・山田を演じる菅生新樹さんに、“池井戸作品”への思い、さらにドラマのテーマでもある「働く」ことへの思いを聞いた。

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 池井戸さんが2005~2008年に発表した短編を集めた「かばん屋の相続」(文春文庫刊)が原作。いずれも金融マンが主人公の全4作からなるオムニバスドラマで、菅生さんのほか、町田啓太さん、伊藤淳史さん、人気グループ「なにわ男子」の藤原丈一郎さんが主人公を務めている。

 ◇念願の池井戸作品に初出演 「自分に務まるのだろうかと不安も」

 「多くの方に支持を受けて素敵な作品ばかりの池井戸潤先生の作品に、いつかは出演させていただきたいと思っていました」と振り返った菅生さん。オファーを聞いた際、喜びと不安が入り交じった複雑な心境だったという。

 「『池井戸潤さん原作の作品に出演できる! しかも主演を務めさせていただける!』とううれしい気持ちがあふれると同時に正直、自分に務まるのだろうかと不安も感じました」

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 そんな今作で菅生さんが演じるのは、初めて担当を持った新人銀行員の山田一。資金繰りに苦しむ土屋鉄商の社長・土屋年子(黒木瞳さん)を支えようと奔走する役どころだ。山田という人物について、菅生さんは「情熱的で猪突猛進」「今どきの子ではないような」人物だと分析する。そして、その人物像は自身と決して遠くないという。

 「山田特有の勢いや情熱、猪突猛進な印象は最初から最後まで変わらなかったですし、その感じは自分と近い方だと思いました。僕も真っすぐというか、とりあえず頑張ってみる。時には行き当たりばったりでもがいて悩むことも多いですが(苦笑)。とりあえず突っ込む精神は似ていると思いました」

 共通点の多い役だが、銀行員という専門職を演じる上でこだわったのが、専門用語。リアリティーの追求として、言葉の背景にある仕組みを完全に理解してこそ説得力が宿ると考えたからだという。

 「例えば『手形』という言葉一つとっても、自分がわからなくても業界では“当たり前”のこと。だから仕組みを理解しなければと。理解するのに大変な専門用語もありましたが、意味を知っているだけよりも使い方が全然違う。咀嚼して言うことが大切だなと思いました」

 ドラマの見どころについて、「山田の成長の仕方は、上司との壁、取引先との理不尽なことなど、働く人すべてが経験することだと思いました。そんな現実に直面し、もがきながらも、周囲の助けを受けつつ自らの力で困難を乗り越え、強くなっていく姿に注目してほしい」とアピール。

 「『芥のごとく』単体でも面白いですが、僕もそう感じたように、オムニバス4話すべてを見て一つだと思っています。皆さんもそういう見方をしていただけたら」と呼びかける。

 ◇忘れられない“初”と濃い経験が育んだ責任感

 2022年に俳優として本格的なデビューを果たした菅生さん。NHK連続テレビ小説(朝ドラ)「おむすび」ほか多くの話題作に出演するなど活躍している。今作で演じる役が初めての銀行員ということにちなみ、菅生さん自身の印象深い“初めて”を聞くと、地上波ドラマ初出演となった「初恋の悪魔」(日本テレビ系)を挙げた。

 「泣かなければいけないシーンがあって。どうにか爪痕を残したいあせりの中、夜の森の中での撮影で初めて泣けたんです。初めての泣きのシーンでの出来事です。気持ちどうこうというより、泣くという“解放”だったなと。その解放が気持ちよくて、永遠に泣けるなと思いました(笑)。他作品も思い出深いものはたくさんありますが、特に記憶に残っている撮影でした」

 そう話した菅生さんはキャリア以上に落ち着きや風格を感じさせるが、普段から現場でも「もうまあまあやっているよね、みたいな雰囲気を感じてもらえている」と言い、その理由を冷静に分析する。

 「作品の中で重要度の高い役どころを自分に任せてくださることが多くなってきている感覚があるので、得られるものが違うと感じています。どんな形であれ、出させていただくからには全力。だからこそすべてが濃い経験になっています」

 ◇母の言葉がもたらした人生の価値観の変化

 4話ともに働く人がテーマとなっている。菅生さんにとって働くとはどういうものなのだろうか。最近、家族からかけられた言葉で仕事への考え方に変化が出たという。

 「俳優業を続けていきたいし、続けていく過程で高みというか、より良い表現を目指したい思いがあるからこそ、人生の中で仕事が一番になっている部分は大きい。むしろそのためにすべての欲が全部そこに向かっています。それで構わないのですが、母に『働くというのは人生の中の一部だから。人生っていろいろあるから、働くこと以外も人生だから』と言われて確かに、と感じました」

 そして、キャリア初期とのスタンスの変化について「責任をちゃんと持つようになったこと」と口にする。

 「もちろん仕事への責任はずっとありますが、以前は新人として『よろしくお願いします』というスタンスでした。それが今は『みんなで一緒に頑張りましょう』という気持ちで臨めるようになった。まだ短い期間かもしれないですが、その変化は自分の中で大きいですね」

 「連続ドラマW 池井戸潤スペシャル『かばん屋の相続』」は12月27、28日の午後10時からWOWOWプライム・WOWOWオンデマンドで2夜連続放送・配信。27日放送の「十年目のクリスマス」「芥のごとく」と、28日放送の「セールストーク」「かばん屋の相続」の全4話。第1話は無料放送。(取材・文・撮影:遠藤政樹)

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