俳優の小栗旬さんが映画監督に初挑戦した「シュアリー・サムデイ」が17日、公開された。中止になった高校の文化祭をバンド演奏をしたいがために復活させようと仕掛けたにせ爆弾が本当に爆発してしまい、以来“負け犬”のレッテルを張られながら生きてきた巧(小出恵介さん)、京平(勝地涼さん)、和生(鈴木亮平さん)、雄喜(ムロツヨシさん)、秀人(綾野剛さん)の5人が3年後、3億円強奪事件に巻き込まれたことで、人生の再起をかけて立ち上がる青春映画だ。ムロさんと綾野さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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「とにかく、役者のやりたいことを引き出してくれて、『もしつまらなくても、その責任はすべておれにある』という態度を見せてくれる監督でした」と、小栗さんの初監督ぶりを評価するムロさんは、誤爆事件以来、引きこもりになった雄喜を演じている。
ムロさんがこう評すと、事件をきっかけに資産家の父親から勘当され、路上ミュージシャンとなった秀人役の綾野さんも「役者の不安を共有してくれる監督でした」と賛同。ムロさんが「監督としては『なんぼのもんじゃい』という思いがあったはずのスタッフさんを相手に、『監督として小栗旬が戦っているな』と思う場面は何度もありました」と気遣いを見せると、綾野さんも「スタッフからの質問に『ちょっと考えさせてください』と言える小栗監督の潔さがカッコよかった」と賛辞を惜しまない。
ムロさんも綾野さんも役作りについては、「特にしなかった」という。とりわけ、33歳(撮影当時)で、本人いわく「役と実年齢とのギャップが見え隠れしてしまう」というムロさんは、小栗監督からの「いつものムロちゃんのほうが若いから」という言葉を信頼して役に臨んだ。
一方、綾野さん演じる秀人は、見つめた相手を5秒で落とせるという“特技”を持つ。「気持ちの上では“落としたい”と思って演じますが、現実離れしている設定だし、監督や照明さん、音響さんなど他のスタッフさんの力を使わせてもらって、そのシーンが成立すればいいと思っていましたから、役作りというのは特にしませんでした。それに、共演者の大竹しのぶさんや上戸彩さんの受けのお芝居があってこそのものですし」とあくまでもチームワークを強調する。
その大竹さんを“落とす”シーンについて、その場にいなかったムロさんは「芝居とはいえ、5秒で落とすということを成立させたんだからスゴイ」とうらやましがった。それで勢いづいた綾野さんは「大竹さんは素晴らしかった。僕が言うのはおこがましいですが、本当にチャーミングな方。うまくいえないんですけど、(大物女優が)そこにちゃんといるんですよね」とちょっぴり得意気な表情をみせると、ムロさんは「うわー、その場にいたかった」とますます悔しそうだった。
出演者のほとんどは、綾野さんのように、過去に「クローズZERO」などの共演作があったり、ムロさんのように飲み友だちであったりと、小栗監督と縁の深い人たちだ。だからキャスティングにも小栗監督なりのこだわりがうかがえる。
ムロさんが「僕も大学1年くらいまでは、雄喜のように友だち5~6人がいつも家に来ているような人間でした。ただ、雄喜には(機械いじりという)確固たる趣味があったけど、ムロツヨシは、みんなからテレビゲームやマンガや流行の遊びを教えてもらう人間。そこが違うところかな」と言えば、綾野さんも「音楽という意味では、やっぱり秀人が僕にいちばん近いのかもしれません」。
ムロさんは「(小出)恵介だって、どのキャラが当てはまるかというと、巧だよね。(鈴木)亮平も和生だし。勝地(涼)だけ、もしかしたら、いろんな人になれるかもね。彼は、京平ほどハイテンションじゃないから」。役者たちの演技を“自然体”と感じられるのは、それぞれの性格を知った上でのキャスティングだったからこそだろう。
ところで、完成した作品を初めて見たとき、ムロさんは、オープニングの音楽に乗せた映像の処理の仕方にシビれたという。「カッコよかったなあ。『小栗旬すげえな』ってびっくりしました」。これに綾野さんは1回はうなずいたものの、「ハイスピード撮影は大変でした」とポツリ。
通常のカメラなら、重なりあう人間は、後ろに立つ人がわずかにズレれば見えるようになるが、ハイスピードカメラの場合は、「意識して見える位置にまで動かないと、いつまでも映らない」(綾野さん)など、「普通の演技をして、それをハイスピードカメラで撮ってキレイにできましたというのではない。(冒頭の)爆破する、逃げる、階段を駆け下りていく、なんてのは、彼らもわざとゆっくりとした演技をしたりして、ハイスピード用のお芝居をしているんです」(ムロさん)。そのため、不自然な空間ができないよう、また動きが不自然にならないよう、撮った映像をモニターで確認しながら進められた。ムロさんは「物語に引き込まれる、映画の核です!」という。
インタビュー直前に開かれた会見で、小栗監督は自身の作品について「男子による男子のための男子が喜ぶ映画を、世の中の男子に見てほしい。女子にはそれをバカだなと思って見てもらえたら」と語っていた。そのコメントを、ムロさんは「すごくいい言葉だと思う」と評し、「エンターテインメント作品なので、楽しむために見に来てもらえればうれしい」と話した。綾野さんも「まず、自由に、楽に見てほしい。特別難しい内容でもないですし。それと、監督の役者に対する愛情に満ちた作品であるということ。そして、1人で見ても全然寂しくない作品」とアピールする。映画は17日、丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開される。
<ムロツヨシさんのプロフィル>
1976年、神奈川県出身。大学在学中に作・演出・出演をこなした一人舞台で活動を開始。以来、映画やテレビなどにも活動の場を広げる。主な映画出演作に「サマータイムマシン・ブルース」(05年)、「アフタースクール」(08年)、「大洗にも星はふるなり」(09年)、3日公開の「踊る大捜査線THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」(10年)など。自身のプロデュース公演「muro式」を定期的に企画・上演している。最初にはまったポップカルチャーは、ドリフターズとアニメ「まんが日本昔ばなし」、バラエティー番組「夕やけニャンニャン」。
<綾野剛さんのプロフィル>
1982年、岐阜県出身。03年に「仮面ライダー555」で俳優デビュー。モデル、ミュージシャン活動を経て、07年、映画「Life」で初主演。「クローズZERO2」(09年)での漆原凌役で鮮烈な印象を残した。他の作品に「奈緒子」(08年)、「愛のむきだし」「TAJOMARU」(ともに09年)、「渋谷」など。公開待機作に「GANTZ」。音楽活動、写真撮影などでも才能を発揮している。最初にはまったポップカルチャーは、アニメ「ドラゴンボール」と天体観測。
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