浜田廣介さんによる名作絵本「泣いた赤おに」を基に、「ALWAYS三丁目の夕日」シリーズなどで知られる山崎貴監督が脚本を書き、山崎監督の20年来の盟友・八木竜一監督と共同でメガホンをとった劇場版CG(コンピューターグラフィックス)アニメ「フレンズ もののけ島のナキ」が全国で公開中だ。もののけ島に住む赤おに・ナキと青おに・グンジョー、そして人間の子どもコタケの友情を描く今作で、ナキの声を人気グループ「SMAP」の香取慎吾さん、グンジョーの声をベテラン声優の山寺宏一さんが担当している。公開初日の舞台あいさつ直前に、山崎監督と八木監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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−−もっぱら実写映画を撮る山崎監督が、今回はCGアニメーションの監督です。
山崎:CGアニメーションは、割と実写映画のようなアプローチで進められるんです。特に今回はプレスコでしたし、モーションキャプチャーで人間の動きをCGに置き換えることができました。プレスコの場合、実写で俳優さんにお芝居をつけるのと近い演出ができるんです。(※プレスコとは、先に音声を収録し、それに合わせて画を製作していく方法。一般の日本のアニメは完成した画に合わせてキャストの声を録音する、いわゆるアフレコ。また、今回のモーションキャプチャーは、ナキとグンジョーの動作に使われたが、香取さんと山寺さんとは別人の動きを利用している)
−−プレスコは画の制約がない分、俳優さんの個性が出やすいと思いますが。
山崎:映画のキャスティングと一緒で、役者さんが持っているものをいただいて、僕らがそれでキャラクターを作ろうというスタンス。ですからむしろ個性が出たほうがいい。僕の中では、外見は違うが演じているのは本人という特殊メークのイメージでした。
八木:CGアニメはプレスコと相性がいいんです。声に合わせてキャラクターの動きを大きくしたりできますし、一つのキャラクターは、何人ものアニメーターの手で育てられていく。ナキも10人くらいの人がかかわっています。その点で声の流れができていると、イメージを共有し、キャラクターに演技させることができるんです。
−−ナキの小屋の外観や室内、村人たちの集落の一部などはミニチュアを作り、それを利用したとか。すべてCGでやったほうが時間もお金も労力も少なくて済んだのでは?
山崎:もちろんお金はかかります。でも、ミニチュアがリアルなので、キャラクターもある程度リアルなものとして存在するレベルまでもっていかないと成立しない。ですから、クオリティーを保つための基準値になるんです。
八木:その一方で、リアル過ぎてもだめで、例えば「ジュラシック・パーク」の恐竜のような生々しさはいらない。それはそこに存在するが、そのもの自体はアニメ的な存在であってほしい、そういう矛盾した二つの局面を、今回同居させたことで新しいスタイルが生まれたと思っています。
山崎:それに、CGのキャラクターを用意している間に職人さんにミニチュアで背景を作ってもらえば時間の節約になる。しかもうちの白組という会社は、内部にミニチュア工房があるので頼みやすい。特に今回は「三丁目の夕日」のミニチュアチームに頼んだので、僕の好みを分かっている。何もない状態から同じものをCGで作るとなるととても大変です。
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−−個性豊かなキャラクターがたくさん登場します。
山崎:CGアニメなので人間にこだわる必要はない、変わったヤツがいっぱい登場すればにぎやかで楽しいと考えました。それに、いま世界では宗教などの違いによるいさかい(戦争)が起きています。でも個人レベルで話してみると仲よくなれる。そういう問題をちょっと含ませています。オニが、もののけ島と村人たちとの橋渡しをする……そういうことを含めて、もののけ島にもいろんなヤツがいたほうがいいと思ったのです。
−−ちなみに、どのキャラクターに共感できますか?
山崎:ゴーヤンかな。壊されても壊されても家を作る。くじけないっぷりに親近感がわきます。
八木:僕はナキかな。ちょっとドンくさいところが自分に似ている。
山崎:(八木監督は)乱暴者ではないですよ(笑い)。
−−共同監督だったからこそうまくいったと思うことは?
八木:この映画自体がそうです。これまで僕は、ゲームの映像やCMなどを作ってきましたが、CMは15~30秒、ゲームムービーでもせいぜい10分。いってみれば前菜のイメージ。でも今回は90分のフルコース料理を全部作りますということですから。しかも、ミニチュア合成も含めていままでにない味付けで作っていくわけです。僕1人では、この期間(企画開発から完成まで6年)で、この予算で収まったかどうか。山崎監督は、入社年では僕より1年先輩ですが、映画監督としては10年以上も先輩。彼の手をずっと握って、水先案内をしていただいた感じです。
−−製作費はどのくらいかかったんですか?
山崎:内緒です(笑い)。少なくないお金がかかってますが、海外のこういう作品に比べるとびっくりするほど少ない人数と少ない製作費です。ハリウッドの作品と遜色ないルック(見た目)を保ちながら、その時間内でこの予算で作るというのは、大きな挑戦でした。インフラの部分を含めて開発していかなければならないことが山のようにありましたし。
−−従来のハリウッドのCGアニメとは質感が違います。この手法が今後、「白組」(製作スタジオ)が作るアニメーションの特徴になるのでしょうか。
山崎:今回の作品がビジネスとしてうまくいけば、次もあるでしょう。「トイ・ストーリー」でピクサーがCGアニメというジャンルを切り開いた。そこから枝分かれしたものとしてやっていけたらいいですね。
八木:でも、これは厳密な意味ではCGアニメではないですよね。ミニチュアも使っているし。
山崎:「スター・ウォーズ」の人間抜きともいえる(笑い)。CGアニメにミニチュアを使ったというと不思議な感じがするけど、ミニチュアの背景の中にキャラクターを登場させるのはVFXでやること。今回はそれが人間ではないということだけで、結局はVFXなんですよ。
−−最後にこれから見る人にメッセージをお願いします。
山崎:11年はいろいろ大変なことがあったので、この作品をぜひお子さんと一緒に見てもらえたら。子どもに見せたいと思って来てもらえれば絶対後悔させません。ぜひ親子で見てほしいです。
八木:小さいお子さんからお年寄りまで、いろんな世代の方たちの心を動かせる映画になったと自負しています。見た目は新しいので食べず嫌いになる方がいるかもしれませんが、ぜひ一度ご賞味ください。そうすればおいしさがわかるはずです。
<山崎貴監督のプロフィル>
1964年、長野県出身。86年、白組入社。00年、香取慎吾さん主演の「ジュブナイルJuvenile」で映画監督デビュー。02年「リターナー Returner」をへて、05年「ALWAYS三丁目の夕日」、07年「ALWAYS 続・三丁目の夕日」をヒットさせる。最新作「ALWAYS三丁目の夕日’64」の公開を12年1月に控える。他の監督作に「BALLAD 名もなき恋のうた」(09年)、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(10年)がある。初めてはまったポップカルチャーは「ウルトラマン」。
<八木竜一監督のプロフィル>
1964年、東京都出身。87年、白組入社。CMのデジタルマット画やゲームムービーのCGディレクションに携わる。代表作に「クロックタワー3」「バイオハザード0」など。山崎監督と制作した「鬼武者3」のオープニングムービーは高く評価された。ほかに手掛けた作品にNHK教育「うっかりペネロペ」やフジテレビの「もやしもん」がある。初めてはまったポップカルチャーはテレビアニメ「鉄腕アトム」。「白黒でしたが、炎が赤く見えました」
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