黒川文雄のサブカル黙示録:パズドラの成功 ガンホー社長「実感がない」

 5月中旬、人気ゲームアプリ「パズル&ドラゴンズ」を手掛けるガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長と会う機会がありました。今春、同社の株価は上昇して企業の時価総額は1兆円を超える人気ぶりで、メディアに大きく取り上げられました。

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 しかし森下社長は、そのことについて「実感がない」と気にしている様子もありません。「時価総額が任天堂を超えたことについては?」と意地悪な質問にも「実感がないというか、恐れ多いですよ」と淡々と話していました。むしろ今は五つの作品を並行して開発しており、そちらの方が気になっているようでした。

 ガンホーはこれまで、PC用オンラインゲーム「ラグナロクオンライン」の会社と見られてきました。その状況を打破しようと、森下社長が自ら陣頭指揮を執ったといいます。話を聞く限りでは、発売するゲームへの厳しい目には、ユーザーの遊びやすさや、継続性を優先しているオンラインゲームの運営で培われたものが生きているのでしょう。

 そして、ヒット作の宿命ともいえる同じタイプのゲームが次々と登場しています。それを見越すかのように、ガンホーは今冬に3DSソフト「パズドラZ」の開発を進めています。つまり、他メディアへの展開が行われる点も興味深いところです。

 いずれにせよ、森下社長と話していて感じたのは、ニュースで騒がすような「任天堂を超える」という派手なことでなく、「シンプルに自分の信じる面白いゲームを作りたい」という一貫した姿勢です。既に1200万ダウンロードを超えた「パズドラ」ですが、一見するとスマートフォンのユーザーが、話題のゲーム系アプリとしてインストールしているというようにも見受けられます。ですが奇麗なイラストをそろえて、ゲーム性があるとは言い難いカードゲームばかりだったところに、ゲームの面白さの本質である操作感、画面の動き、効果音などの爽快感を追求したことがパズドラの成功の要因だと思うのです。

 ゲームを出したタイミングが良かったといえば、確かにそういう側面もあるでしょう。ただ、課金を重視するソーシャルゲームを開発する戦略では、「パズドラ」の成功がなかったのも事実です。

 コンテンツのヒットや偉業の際には後付けの“伝説”が生まれたりするものですが、森下社長やガンホーの開発スタッフの「納得のいく作品をプロデュースする」という姿勢が、ソーシャルゲームに疑問を持つ多くのクリエーターを勇気づけたのは間違いないと思います。

 ◇プロフィル

 くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。6月27日に、久多良木健さんと丸山茂雄さんが登場する「国産エンタテインメントの生きる道」を開催します。

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