ラノベ質問状:「ヒカルが地球にいたころ……」 原典は「源氏物語」 キャラ設定で紆余曲折

野村美月さん作、竹岡美穂さんイラストの「ヒカルが地球にいたころ……」(ファミ通文庫)のカバー
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野村美月さん作、竹岡美穂さんイラストの「ヒカルが地球にいたころ……」(ファミ通文庫)のカバー

 話題のライトノベルの魅力を担当編集者が語る「ラノベ質問状」。今回は「ヒカルが地球にいたころ……」(野村美月さん作・竹岡美穂さんイラスト)です。エンターブレインのファミ通文庫編集部の荒川友希子さんに作品の魅力を聞きました。

ウナギノボリ

 −−この作品の魅力は?

 目つきの悪さと生まれつきの赤い髪で“ヤンキー”と誤解され、孤独な人生を送ってきた少年・是光。そんな彼が、学園の“皇子”と呼ばれた美少年・ヒカルの幽霊に取りつかれ、その心残りを晴らすために、数々の女の子たちを相手に奔走するお話です。

 紫式部の「源氏物語」を下敷きとした現代学園ロマンスで、高貴な身分のツンデレな正妻・葵の上→ヒカルの婚約者だった葵、身分違いの儚(はかな)い恋をした夕顔→ひっそりとした引きこもり少女の夕雨、“元祖ロリ嫁”な紫の上→小学生の紫織子など、「源氏物語」に出てくる女性たちが、可愛いヒロインとなって次々登場します。彼女たちの抱える問題を解決しようと奮闘する是光のストレートな格好よさと、彼とヒカルのぎこちない友情も見どころです。

 −−作品が生まれたきっかけは?

 「“文学少女”」シリーズという大人気シリーズが完結を迎え、次作の相談をする中で、「“文学少女”」でファンになってくださった読者の期待に応えられるよう、その魅力を踏襲しつつ、爽やかで切ない新しい物語を……ということで、本作が生まれました。

 実は、主人公の是光は最初は、ごく普通の家庭に育った健全な(?)“ヤンキー少年”(誤解ではなく)だったのですが、紆余(うよ)曲折ありまして……(笑い)。今の“ヤンキーだと誤解される不運な少年”になったのでした。ですが、彼が“笑うことができない”という痛みを抱えたキャラになったおかげで“泣くことができない”ヒカルとの好対照が生まれて魅力も増し、かつ、笑えない彼が、トラウマを乗り越えて笑えるようになるという見事なドラマが誕生しました。

 また、野村先生は、同時期に「ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件」(イラストはkarory先生)というシリーズをスタートしており、こちらは「“文学少女”」以前の野村美月作品に近いテイストのコミカルで可愛い連作短編となっています。「ヒカル」とは好対照のシリーズで、ヒロインの9歳のクーデレ(「クールにデレデレ」の略)姫・聖羅がすっごく可愛いので、こちらもお勧めです!

 −−作家とイラストレーターはどんな方でしょうか?

 野村先生は、すごくいろんなものを読んでいらっしゃって、日本の古典にも親しまれている方です。今回の原典となった「源氏物語」もどの現代語訳がよいとか、こちらではこう描かれているとか、たくさんのことを教えていただきました。「ヒカルが地球にいたころ……」とは全く関係ないのですが、担当個人としては、瀬戸内寂聴さんの訳が、光の君に厳しめの目線で楽しかったです(笑い)。

 竹岡美穂先生は「“文学少女”」シリーズからの続投でお願いしておりますが、「“文学少女”」でファンを魅了したテイストを維持しつつ、「ヒカル」シリーズ独自のテイストを出す部分で、ご苦労をおかけしていると思います。「源氏物語」のイメージや作中で語られる花などをすごくすてきに盛り込んでくださっています。

 −−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 野村先生が「源氏物語」のヒロインをどう現代学園ものに落とし込んでくるか、原典のエピソードをどう盛り込んでくるか、プロットを拝見するたびにワクワクします! ただ、原典が「源氏物語」ということもあって、生々しいネタを扱うこともあり、それをライトノベルにどう落とし込むか、読者の皆さんに嫌がられず、楽しんでいただけるようにできるかというバランスで、いつも野村先生と一緒に悩んでいます。

 −−今後の展開は。

 次は「“花散里”」の巻です。「源氏物語」では存在感が薄いながらも身分の高さと光の君からの信頼で正妻として扱われていた花散里。そこから生まれた「花里みちる」という少女が、どんな物語を秘めているのかご期待ください。また、エピソード的にも次の巻は学園祭編! クラスや部活の出しもので、女の子たちがいろんな格好をしたり、普段と違う顔を見せたりというサービスもバッチリですので(笑い)、そちらもお楽しみに!

 そしてそして、今回はラストに衝撃の展開が!! これ以上はいえませんので、ぜひ読んで確かめてみてください(笑い)。

 −−最後に読者へ一言お願いします。

 著者があとがきで明かしたとおり「ヒカルが地球にいたころ……」は物語の折り返し地点を越え、後半戦に突入しています。ここから、是光を巡る恋も、ヒカルの死の謎も怒濤(どとう)の展開になりますので、どうか最後までおつきあいください!

 エンターブレイン ファミ通文庫編集部 荒川友希子

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