スター・トレック:最新作スポック役のクイントさんに聞く ヘアメークにかかる3時間を有効活用

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 世界的大ヒット作「スター・トレック」の続編「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(J.J.エイブラムス監督)が全国で公開中だ。今回、ジェームズ・T・カーク船長(クリス・パインさん)をはじめUSSエンタープライズの乗組員の前に立ちはだかるのは、宇宙艦隊士官ジョン・ハリソン(ベネディクト・カンバーバッチさん)。地球を危機に陥れる彼の真の目的は何なのか。今作のPRのためにエイブラムス監督、パインさんらとともに来日した副長・スポック役のザッカリー・クイントさんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−実際にお会いすると、スポックとはまったくの別人なので驚きました。素晴らしい“化けぶり”です。スポックのメークにはどのくらいの時間をかけたのですか。

 メークに2時間半。髪の毛に30分。合計3時間。耳は毎日新しいものを“のり付け”して、エアブラシでペイントした。でも、僕はその過程をとても楽しんでいたんだ。場合によってはその時間を1日の準備に使ったり、読書をしたり、あるいは睡眠をとったり、瞑想(めいそう)をしたり。とにかく有効に活用したよ。

 −−スポックのあの特徴的なヘアスタイルはご自分の髪で表現したんですか?

 そうだよ。映画の撮影中の半年間はあのヘアスタイルだった。まゆ毛も4分の3ほどそって、そったところに一本一本植毛していったんだ。

 −−ということは、その半年間は他の仕事はできなかったのですね。

 その通りだよ(笑い)。

 −−アクションについてお聞きします。映画の中で、カンバーバッチさんふんするジョン・ハリソンを追いかけるサンフランシスコのシーンがありました。あなたの走りはものすごく速かった。100メートル走は何秒で走れるのですか?

 計ったことがないから分からないけど、可能な限り速く走るようにはした。今回、アクションのための訓練として、通常やるようなトレーニングや食事にも配慮したけど、今回特別だったのは、瞬発力を求められたこと。というのも、スポックという(感情を表に出さない)役柄上、“肉体的な言語”が必要だったんだ。

 −−肉体的言語というのは?

 最小限の努力で、最大限の効果を生み出すような動き、可能な限り効率よく見せることが必要だった。だから走り方にしても、速く見えていてもあまり苦労しているように見せない、そういうことを意識したんだ。

 −−もともとスポーツは得意な方ですか?

 何か特別なスポーツに凝っているということはないけれど、ジムでヨガをしたり、健康管理には気を使っているよ……。あの……「motomoto(もともと)」ってどういう意味?

 −−(通訳さん)「originally」という意味です。

 そうなんだ。motomoto、motomoto……(響きが気になる様子)。

 −− 質問に戻っていいですか(笑い)。スポックは、感情よりも論理性を優先させるキャラクターですが、あなたがスポックに共感できるところとできないところはどこですか。

 共感できるところはたくさんある。例えば、内面に抱える二面性。僕自身、思慮深いところがある半面、感情的だったりする。スポックの他人に共感しづらいという点については、僕は感情表現が豊かで、気持ちを人と分かち合いたいと思うほうだから、そこは違うかな。とはいえ、スポックの葛藤は理解できるし、彼の情の深さ、人間を信じ、この世の善のためにいろいろと行動を起こすところには共感できるよ。

 −−喜怒哀楽のうち、あなた自身はどの感情を表現しやすいですか?

 僕はハッピーな性格なんだ。ユーモアも大事だと思っている。だからそういう感情かな。でも、「哀」を感じることも大事だと思う。人生にはいろんな感情を伴うので、僕はそのときそのときに必要な感情を感じていたいと思う。

 −−SF作品ファンを大きく分けると「スター・トレック」派と「スター・ウォーズ」派に分かれますが、あなたはどちら派ですか? また「スター・トレック」はあなたにとってどういう存在なのでしょう。

 僕は「スター・ウォーズ」で育った世代。でも、「スター・トレック」に関われて幸せだと思っている。テレビで(「スター・トレック」こと「宇宙大作戦」が)初放映されてから約50年、 (作品の生みの親の)ジーン・ロッデンベリーが語る物語には「可能性」があり、また、それが多くの人に伝わっている。それに、エンタープライズの(異なる出身による)多様性に富んだ乗組員たちが、宇宙全体の善のためにそれぞれ努力をしている、そういう素晴らしいメッセージがある。そうした作品に自分が関われることが喜びだし、また、それを広めていきたいと思っているんだ。

 −−今回の撮影で苦労したシーンを教えてください。

 肉体的に大変だったのは、ハリソンとの格闘シーン。感情的に大変だったのは、ネタばれになるから詳しくは言えないけれど、終盤のカークとのシーンだね。

 −−ちなみに、そのハリソンとの格闘シーンでは、髪形が崩れないように戦うのは大変だったのではないですか?

 実は髪形については、J.J.(エイブラムス監督)とヘアメーク部門と話し合いの場を持ったんだ。動いているときに髪の毛を動かすべきか、それともピタッと張り付いたままにするべきかとね(笑い)。議論の末、動かすことにした。映画を見てもらうと分かるけれど、かなり風が吹いていて、僕の髪の毛も動いている。で、それが終わると、元のピタッとした髪形に戻っている。とはいえそれまでいろいろテストをしたんだよ。ファン(扇風機)を回して、髪の硬さを調整したりしてね。結果、ああいう自然の動きになったんだ。

 −−個人的には、SF作品はどうしてもリアリティーに欠けると思ってしまいます。それでお聞きするのですが、今回のようなSF作品で、「ワープ」というセリフをいうのと、シェークスピア作品で「アイ・ラブ・ユー」というセリフをいうのとでは、演じているときの気分は違うものですか。

 シェークスピア劇でもSF作品でもどちらも同じ感覚だよ。もちろん、SFだから日常生活でいうところの現実とは違うけれど、物語の中のキャラクターにとっては、言っていることは極めてリアル。だから僕自身も、その役に共感しながら演技をしている。「スター・トレック」では、宇宙船で移動したり、惑星に行くのは普通のこと。それが、ストーリーそのものが持つ魔法なんだと思う。1960年代のオリジナルシリーズでは、キャラクターたちがトリコーダーという機器を使っていたけれど、それから50年後の僕たちは、スマートフォンという似たような機器で話す時代になっている。だから、今、僕たちがその内容をリアルだと感じていなくても、将来的には可能になるかもしれない。そういう可能性を示しているところが、「スター・トレック」のよさだったり、面白さだったりするんだろうね。

 −−最後にメッセージをお願いします。

 僕たちが楽しんで作った作品をぜひ楽しんでほしい。そして(続編が作られて)また日本に戻ってこられることを楽しみにしています。

 <プロフィル>

 1977年生まれ、米ペンシルベニア州出身。11歳から舞台に出演し、俳優としてのキャリアをスタートさせる。高校卒業後、カーネギー・メロン大学演劇科に進む。テレビシリーズ初出演は「霊能者アザーズ」(2000年)。その後、「CSI:2科学捜査班」(02年)、「シックス・フィート・アンダー」(03年)などにゲスト出演し、「24 TWENTY FOUR」(03~04年)での準レギュラーをへて、「HEROES/ヒーローズ」(06~10年)の殺人鬼サイラー役でその名を知られるように。また、09年の映画「スター・トレック」のスポック役に起用され、一層知名度を上げた。舞台でも活躍しており、シェークスピア劇などに出演している。

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