超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲームの実況プレーについて語ります。
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過去最多となる約27万人の入場者数を数えた今年の東京ゲームショウ。しかし新型ゲーム機の「プレイステーション4」と「XboxONE」が来年の発売とあって、今ひとつ消化不良の感はぬぐえなかった。その一方で「影の主役」となったのが「実況プレー」だ。
実況プレーは、ゲームのプレー画面をインターネットで配信しながら、進み方の状況を説明したり、雑談などをして楽しむスタイルのこと。視聴者もウェブにコメントを書き込むなどして参加できる。いわば友達の家に集まってゲーム機を囲み、わいわい騒ぎながら遊ぶスタイルのインターネット版だ。ウェブ上で動画にコメントが付けられる「ニコニコ動画」などで火がつき、ここ数年で急速に広まってきた。
基調講演ではソニー・コンピュータエンタテインメントが、草の根ゲーム大会の模様をユーザーがインターネットでライブ配信し、全世界のゲーマーと共有して楽しむ「未来図」を映像で紹介した。独立系ゲーム開発者向けに新設された「インディーズゲームフェス」では、自主制作ゲームと実況プレーが結び付き、多くのファンが詰めかけた。ゲームメーカーが自社ゲームのプレー風景をインターネットで生中継する例も見られた。
もちろん、ゲームの最大の魅力は自分で操作して楽しむインタラクティブ(相互作用)性にある。しかし、そのために「遊ぶのが面倒くさい」「ゲームが下手でクリアできない」「時間がかかる」という問題も内在してきた。実況プレーはこうした層に対して「遊ばずに楽しめる」「参加できる」という新しい消費スタイルを提示した。同人誌やコスプレのように、拡大するゲームの楽しみ方の一つとして捉えれば良いだろう。
ただし、ゲームの映像は著作物であり、メーカーに無断でプレー動画を配信する行為は、著作権法違反にあたる。そのため、多くのメーカーは黙認しているのが現状で、中にはネタバレ行為にあたるなど禁止するメーカーもある。しかし6月にスクウェア・エニックスがオンラインゲームの「ドラゴンクエスト10」で、一定のルールを守れば実況プレーを許すなど、今年になって風向きが大きく変わってきた。
背景にあるのはゲームにおけるビジネスモデルの変化だ。スマートフォンのソーシャルゲームの台頭もあり、パッケージ流通からデジタル流通、有料ゲームから無料ゲーム、一人で遊ぶゲームからみんなで遊ぶゲームへと、環境の変化が加速している。次世代ゲーム機においても、こうした変化を無視できず、プレイステーション4ではプレー画面や短時間のプレー動画を投稿する機能を備えたほどだ。そのためメーカー側も宣伝手段の一つとして、実況プレーを活用する風潮が広がってきた。
こうした潮流は日本だけでなく海外でも拡大している。特に欧米圏で人気の一人称視点シューティングは実況プレーに向くため、非常に多くの動画が投稿されている。しかし画面上にコメントをつけて楽しむなどの行為は日本が先行している分野だ。またインディーズゲームフェスのようなイベントは世界的にも珍しく、新しい価値を提示したと言えるだろう。
実況プレーを巡る現状は音楽管理ソフトのアイチューンズ登場前夜に似ている。ユーザーの音楽ファイルを手軽にダウンロード購入したいというニーズをくみ取り、爆発的ヒットにつながった。実況プレーもメーカー側の環境整備によって、ゲームシーン全体の活性化につながる可能性が高い。もっとも、実況プレーにはゲームのジャンルによって向き不向きがある。タイトルごとに基準を定めるなど、業界全体での取り組みが求められている。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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