真田広之:「47 RONIN」の撮影秘話語る ハリウッドが“忠臣蔵”を作った理由

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 日本人にはなじみの深い「赤穂浪士」「忠臣蔵」の物語を、ハリウッドがコンピューターグラフィックス(CG)を駆使し、大胆に脚色した「47 RONIN」が6日から全国で公開中だ。主演はキアヌ・リーブスさん。彼を異端扱いしながらもやがて太い絆で結ばれていく大石内蔵助を、日本はもとよりハリウッドでも活躍する真田広之さんが演じている。今からかれこれ5年前に企画が持ち上がり出演の打診を受けた際、「なぜ、ハリウッドがわざわざ忠臣蔵を作るのだろう」「日本人が見て納得できるものが作れるのだろうか」といぶかったという。何が真田さんの心を出演へと向けさせたのか。真田さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 江戸幕府、徳川五代将軍綱吉の時代。播磨赤穂藩藩主の浅野内匠頭(田中泯さん)は、赤穂の地を我が物にしようとする吉良上野介(浅野忠信さん)の策略にはまり、切腹を余儀なくされる。赤穂藩はお取りつぶしとなり藩の武士たちは改易。浪人に身を落とした筆頭家老の大石内蔵助(真田さん)をはじめとする家臣たちは、喪が明けた1年後、吉良への復讐(ふくしゅう)に立ち上がる……という展開。リーブスさんが演じるのは、少年のころ、内匠頭に助けられ、以来、彼に仕えるカイというオリジナルのキャラクターだ。

 真田さんは、作品が完成した今でこそ、「カイというオリジナルのキャラクターを入れたことで、どの国の人たちにも分かりやすい作品にアレンジできたと思う」と自信を見せるが、最初からそう思っていたわけではない。そもそも出演する決心さえつきかねていた。その心に変化が生まれたのは、最初の打診から2年ほどたった今から3年前。監督に決まったカール・リンシュさんと対面したときだった。最初に見せられた脚本には改訂が加えられていた。そのとき見せられたリンシュ監督のビジュアルデザインやイメージは「予想以上にファンタジックというか、ぶっ飛んでいました(笑い)。でも、ここまで跳ねれば日本人にも見やすく、また、海外の違う文化、宗教で育った子供からお年寄りにまで分かりやすく伝えられ、かつ大事なところさえ踏ん張って残せば、いい形で発信できるのではないかと思ったんです」と当時の胸の内を正直に打ち明ける。

 真田さんがいう「大事なところ」とは「日本人の精神性」だ。「オリジナルのキャラクターを作って物語をいじるのはいいけれど、根っこにある、忠誠心であるとか、武士のしきたりであるとか、そういった核になる精神性が踏みにじられるようなら参加は控えよう。むしろ、世界に発信してはいけないものだと思いました」と明かす。さらに、「僕の条件としては、日本人のキャストは絶対、日本人でいってもらわないと無理ですというぐらいの勢いで申し上げました。すると、監督も自分もそう思っていると。プロデューサーも確約してくれた」という。ならばと出演を決めた。

 その後、真田さん、リーブスさん、リンシュ監督、脚本家らを交えての話し合いが何度も持たれ、その都度、真田さんは日本的におかしなところを指摘していった。その中には、所作で通じるものはせりふには頼らないなど、“粋”を追求し、“やぼ”にならない程度の微妙な表現方法を意識したものもあった。リハーサルをして、いいアイデアが出たら、それを反映させたりもした。そういったことを繰り返し、撮影に入るギリギリまで台本を直し続けた。結局、撮影用の台本が出来上がったのは、クランクインの前日だった。

 真田さんは、先ごろ公開された「ウルヴァリン:SAMURAI」にも出演している。実は、それと今作の撮影期間は一部重なっているという。当時のことを「クランクインはこちらが先です。『ウルヴァリン』の日本ロケが終わった足でそのままロンドンに飛び、『47 RONIN』の再撮影をやり、シドニーに戻って『ウルヴァリン』を完成させ、その後、ロサンゼルスに戻って両方のダビングをやり……。ダビングが終わったのは、確か同じ日だったかな」と多忙な日々を思い出しながら笑う。

 さらに、「47 RONIN」の撮影初日、リーブスさんと立ち回りをするオランダの出島のシーンをブダペストで撮っていた日に東日本大震災が起こり、「撮影が始まったばかりですから半年は日本には戻れない。何もできない。だからこそ、復興後の皆様にこれをお届けして楽しんでいただくことが、今、自分にできることだと思いました。それに、この映画のテーマの一つは『ネバー・ギブアップ』。そのことをとにかく思いながら」、日々撮影に臨んでいたことを明かした。

 ◇武士道は騎士道に通じる

 ところで、今作は「忠臣蔵」の物語を基にしているが、完成した作品には普遍性があり、同時に武士道が欧州における中世の騎士道に通じることにも気づかせてくれる。それについて真田さんは「僕も(武士道と騎士道には)共通するところが多いと思っています。特に今回、(カイという)オリジナルのキャラクターを入れたことで、根底にある復讐劇という以外に、国境や身分の差を超えた愛や友情、家族愛が成立するのだというメッセージが深まり、シンプルかつユニバーサルなテーマになったと思っています」と強調する。

 ただ、そこに至るまでには文化も宗教観も異なる欧米人に、切腹が「誉れある死」であり、「斬首」とは意味合いが異なることや血判状の意味などを、「それが認められないなら忠臣蔵をモチーフにしたとは絶対言ってくれるな」ぐらいの強い覚悟で、かなりの時間をかけて説明したという。

 殺陣などのアクションでは、格闘専門の振付師らが考えた基本形に、手や刀の扱い方、足の運び方など日本の剣術らしいアレンジを加え、「いろんなパターンを見せて、監督とキアヌが気に入ったものを採用する」という方法をとった。そのリーブスさんの刀を使ったアクションについては次のように語る。

 「上達が早かったですよ。もちろん最初からできていたわけではありませんが、彼が最終的には侍らしく戦えるようになることを望んだので、じゃあ基本中の基本から始めようと、歩き方、刀の抜き方、収め方はもちろんのこと、立ち回り以前の、身分や状況に応じたお辞儀の仕方、角度、目線、手の置き場所も含め、そこから始めました。それを望んだ彼は素晴らしいと思ったし、日本の文化、剣術に対するリスペクトと理解度と貪欲さと学ぶ謙虚さには、これはもうカイだ、この役にはキアヌしかいないと思いました」とリーブスさんの熱心さをたたえる。

 特徴ある場面が多い今作だが、とりわけ大石が吉良と対峙(たいじ)するクライマックスシーンでの戦い方は印象的だ。「トレーニングを始めた当初、キアヌは(映画の)最初から侍っぽい剣術をやりたいと言っていました。ですが彼の生い立ちを考えると、もっとサバイバルな、実践的な戦い方のはずなんです。逆に大石は、人を斬ったことのない侍が多かった時代ですから、道場で習っていた剣術なわけです。2人のスタイルはまったく違うはず。物語が進むにつれ、大石はカイの実践的な戦術を目の当たりにしてそれを学んでいく。カイはカイで浪人の一員として認められ、どんどん侍らしくなっていく。それをファイティングスタイルで表せないかという話をしたら、キアヌも賛同してくれました。ですから、カイはワイルドなスタイルからどんどん侍らしくなっていく。大石は道場剣術からどんどんワイルドになっていく。その象徴が、あの吉良に対しての(大石の)殴るけるのラフなものだったのです。一方のカイは、化け物相手に剣術らしい構えをする。つまり、互いの“旅路の果て”で吸収し合ったものを出すことで、この作品ならではの大石内蔵助とカイのコントラストが表現できたと思います」と説明した。

 ◇まだ誤解のあるハリウッドの日本人像を変えていきたい

 「ラストサムライ」(2003年)に始まり、最近の「ウルヴァリン:SAMURAI」(13年)まで、海外作品への出演を重ね、その都度、結果を出してきた真田さん。しかしそれは同時に自身で目標とするハードルを上げることでもある。今後の抱負を聞いた。

 「今も米国のテレビドラマの撮影中なんですが、やはり言葉の壁というのはまだまだあり、1作ごとに少しでも進歩できればと思いながらやっています。今回の映画が公開され認知度が上がれば、また可能性は広がりますが、ハードルも高くなる。そこにどれだけ自分の技量が追いつくかという自分自身との競争です。とにかくそれを続けて、日本を題材にした海外の作品には、いまだに多少誤解のある日本人像などが見られます。それをいずれは変えていきたいという思いは前からあって、でもそれは1、2作ではできない。とにかくやり続けるしかない。実績を増やし、スタジオの中にもクルーの中にも理解者を一人でも毎作増やしていく。そういう人たちが集結したときに、もっとよりよいものが作れるんじゃないか、その日が来るまでは、とにかくやり続けるしかないと思っています」と意欲を見せた。

 一つの質問に、とにかく丁寧に答える真田さん。その律儀さ、辛抱強さが、ハリウッドをはじめとする欧米の映画人から信頼され、指名される理由なのだろう。その真田さんに最後に、「初めてはまったポップカルチャー」をたずねた。すると、「これ、作りじゃないですよ(笑い)」と断ったあとで、1971年にテレビ放映された三船敏郎さん主演の時代劇「大忠臣蔵」を挙げた。当時は小学生。「毎週見て、兄貴と忠臣蔵ごっこをしていた」という。さらに、真田さんと浅野家の家紋が同じで「それが今回、デザイナーが作った鎧(の胸元)にボーンと入っているわけです。何かご縁を感じましたね」と興味深い話を聞かせてくれた。カイ役にリーブスさん以外が考えられないのと同様、浅野内匠頭は真田さん以外考えられない役だった。映画は6日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1960年生まれ、東京都出身。子役をへて、「柳生一族の陰謀」(78年)で本格的に映画デビュー。日本を代表するアクション俳優として活躍する一方、「道頓堀川」(82年)、「麻雀放浪記」(84年)、「つぐみ」(90年)、「僕らはみんな生きている」(92年)、「眠らない街 新宿鮫」(93年)、「写楽」(95年)などに出演。主演作「たそがれ清兵衛」(2002年)は米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。99年にはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの「リア王」に出演。そのほか、03年に「ラストサムライ」、05年に「PROMISE プロミス」、06年に「上海の伯爵夫人」、07年に「ラッシュアワー3」「サンシャイン2057」、08年に「スピード・レーサー」、12年に「最終目的地」など海外の出演作が次々に公開された。来年1月から米ドラマシリーズ「Helix(原題)」が米国で放送開始。4月にはコリン・ファースさんやニコール・キッドマンさんと共演した映画「レイルウェイ 運命の旅路」の日本公開が控えている。

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