海堂尊:新作小説「アクアマリンの神殿」 「バチスタ」の10年後描く 翔子とアツシ編3

ショコちゃんからのプレゼントも、予想外の品だった。一体何に使うのか、ショコちゃんに尋ねるが…… (c)海堂尊・深海魚/角川書店
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ショコちゃんからのプレゼントも、予想外の品だった。一体何に使うのか、ショコちゃんに尋ねるが…… (c)海堂尊・深海魚/角川書店

 ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。

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◇翔子とアツシ編 3 入学祝い

 ショコちゃんは唐突に紙袋を手渡すと、得意げな表情でぼくを盗み見る。

「これ、高校の入学祝い」

「開けていい?」

「もちろんよお」

 照れ臭くて本人には絶対に言えないことだけど、ぼくはショコちゃんが、ぼくに何かしてくれる時に浮かべる得意げな笑顔が大好きだ。実際にしてくれたことより、ショコちゃんのそんな表情の方が大切に思える。

 がさがさと紙袋を開けると、純白のバスローブが中から出てきた。

 なにこれ?

「あのう、このバスローブには一体、どういう意味があるんでしょうか?」

 ショコちゃんはあけっぴろげの笑顔で、ぼくの質問に答える。

「これは、アツシが問題を起こすことなく、名門・桜宮学園高等部に進学できたという奇蹟に対して、感謝の意を込めた、天へのお供えものよ」

 そんな大袈裟な。ぼくが成績優秀な天才少年だということを知っているクセに。

 そう抗議すると、ショコちゃんはにい、と笑う。

「学校を追い出される理由のうち学業不振の順位は低いの。中途退学理由の第三位なんだから」

 へえ、と興味を惹かれたぼくは、「他にはどんな理由があるの?」と尋ねた。

「二位は家庭の経済的理由。そして……」

 そこで言葉を切って、ドゥラララ、とドラムが連打される音をボイパで言う。そして両手を広げて、ジャーン、と言いながら結果を発表する。

「栄えある第一位、それは素行不良、でした」

 栄えある、という形容はおかしくないですか、と聞き返したくなったけど、ショコちゃんは無邪気に続ける。

<毎日正午掲載・明日へ続く>

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