同人活動:デジタル化で変わったもの、変わらないもの

コミケに参加する小新井さん
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コミケに参加する小新井さん

 世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)89」が12月29~31日に東京ビッグサイトで開かれる。週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、自身もコミケに参加している小新井涼さんがコミケや同人活動の移り変わりについて語る。

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 来月末に開催を控える「コミックマーケット」、通称コミケ。最近では一般的な知名度も上がってきておりますが、そのコミケも含まれる「同人誌即売会」というものについては、いまだに参加者以外にはうかがい知れない領域かもしれません。

 しかしコミケも実は今年で40周年を迎えるなど、即売会、ひいてはそこで行われる“同人活動”も長い歴史を持っているのです。特にここ十年ほどの間には、そんな歴史の中でも特筆すべき“デジタル化”という出来事によって、同人活動にも、コミケの認知度上昇と同じくらいの革新が起きました。

 デジタル化によって変わったこと、それでも変わらなかったこと、そしてそれらがなぜ起こったのかを探りつつ、コミケの原動力でもある同人活動について考察してみたいと思います。

 自分が初めて同人にのめりこんだのは、今から約15年前。ネットの普及に伴って同人活動を取り巻く環境が変化している、まさに“アナログからデジタルへの過渡期”であったため、その両方の様式と移り変わりをじかに体験することができました。

 読み手側として印象的だったのは、情報収集やサークルさんとのやりとりの変化です。作り手側が情報発信の場としてブログやHP、SNSなどを利用しはじめると、新刊情報から作り手の旬なジャンル、果ては原稿の進み具合までもが従来のペーパー(サークルや個人が発行するチラシのようなもの)や雑誌よりも素早く頻繁に手に入るようになりました。

 流行ジャンルやその移り変わり、同人誌の感想や執筆者募集などの情報のやりとりも素早く行えるようになったのですが、一方で奥付への個人住所掲載や手書きのお返事、宛名カードや同人便箋など、アナログで見られた文化をあまり見かけなくなってしまったことは少し寂しくもあります。

 作り手側として感動した変化は、新しい作品披露の場と活動の始めやすさです。インターネットは情報発信だけではなく、HPや創作系SNSなどを通じて作品披露の場としても利用されるようになりました。機能性が高く価格が安いソフトやデバイスの登場は、作り手の年齢層を広げ、作品レベルの底上げにも貢献しています。作品だけではなく、お絵かき講座やメーキング動画なども共有されるようになり、創作活動は誰にでもより簡単に行えるようになったのです。

 このようにデジタル化は、作品形態や発表方法、交流の場としての同人活動にさまざまな変化をもたらしました。しかし、そんな中でも変わらず続いているのが“実際に即売会へ赴く”という行為です。

 どんなにネットで作品の供給が増えたとしても、入手の冊数は減るかもしれませんが同人誌への需要がなくなることはありません。世界最大規模の同人誌即売会であるコミケに至っては、認知度やアニメ、マンガ、ゲーム人気の高まりもあり、一般参加者の数は増え続ける一方です。ともすればデジタル化をもってしても変わらないその理由にこそ、同人活動の魅力や動機というものが潜んでいるのではないでしょうか。

 そもそも参加者を同人活動にかきたてるのは、同人誌やそのやりとりだけではなく、ファン同士の交流や好きな作品の布教、同士に作品をみてもらい反応や感想をもらうなどの“好きなものへの熱量”です。

 だからこそ、その熱量をじかに肌で感じられる場である即売会というのは、あらゆる創作物ややりとりがデジタル移行をした後も求められ続け、他のアナログ文化と違い消えることがなかったのかもしれません。

 もう一つの理由としては、即売会、特にコミケに関して言うと、それは単なるイベントや場所としての存在を超え、同人活動をする人たちにとってはもはや“習慣”になってしまっていることがあると思います。

 義務も強制もされていないのに「正月には行くもの」として刷り込まれている初詣などと同じく、参加者にとってはお目当てのものや目的がなくても盆と年末にはとりあえず行くものとして体に染み付いてしまっているのです。

 あくまでも実体験をもとにした個人的な推測ではありますが、デジタル化という大きな変化の中でも変わらず、習慣化してしまうほどに根付いた好きなものへの熱量、それこそが同人活動の魅力や動機となり、コミケがあれだけ盛り上がる原動力となっているのではないでしょうか。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

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