マンガ誌「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載中の此元和津也さんの同名マンガを映画化した「セトウツミ」(大森立嗣監督)が全国で公開中だ。全編が、大阪のとある河原に座り込んではたわいもない話をする高校生、瀬戸小吉(セト)と内海想(ウツミ)の会話劇。ウツミを池松壮亮さんが、セトを菅田将暉さんが演じている。菅田さんが池松さんのことを「会いたかった人ですし、楽しみでした」と言えば、池松さんも菅田さんのことを「題材も大事ですけれど、監督を含め、誰とやるかはすごく重要なこと。そんな中で菅田君と2人というのは面白いんじゃないかと予感してやろうと思いました」と返した。“相思相愛”の2人に聞いた。
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「なんの充実感もなく終わりましたけどね。1週間ですし、(座ってばかりで)ケツが痛いだけですし(笑い)。関西弁、大変でしたけど」と、わずか10日間の撮影を振り返る池松さん。すると、大阪出身でありながら、仕事場では「身構えるんですかね、なんか分からないんですけれど標準語になるんです」という菅田さんは、「池松君としゃべると、自然と関西弁になるんですよ。それがなんか、僕にはいい意味で不思議な感じでした」と、短期間ながら“通じ合えた”ことを明かす。
セトとウツミ、2人並んでの会話。まったりとした時間が流れる。そこには、絶妙ともいえる“間”が存在する。その間を作り出すために、さぞかし綿密な打ち合わせが行われたと思いきや、「(打ち合わせ)してないんですけど(笑い)」とあっさり否定する池松さん。「でも、1週間でだんだん仲良くなるんですよ。で、ちょうど温まったころに終わって(笑い)。でも、その方が一緒にしゃべったり、即興で始まったり、ほどよい感じだったと思います」とまんざらでもない様子を見せる。
思わず笑ってしまうようなセトとウツミのやりとり。しかし、漫才にはしたくないという思いが「監督を含めて3人の共通認識としてあった」(池松さん)という。だから、菅田さんも「笑いについては考えなかった」とか。その一方で「セトとウツミの暇つぶしの会話なので、突っ込みとか、ボケとかが、わざとらしくならないように」ということを心掛けた。当初は表情が動かないマンガにならい、「とりあえずそれでやってみようかな」と撮影に臨んだが、「淡々とし過ぎていて、あまりにも面白くなくて(笑い)。何を言っているのかもよく分からないし」(菅田さん)となり、そこで、方向転換してはじけ気味のキャラで行くことにした。
笑いについて考えなかったのは、池松さんも同じだった。とはいえ、「まったく笑いが起きないのも寂しいじゃないですか。難しいですよね。しゃべっている方は別に笑えないし」と複雑な心境を打ち明ける。とりわけ池松さんの場合は、「僕なんか、(せりふを録音した)大阪弁のCDを聴きまくっていたので、全然面白くないんですよ(笑い)。大丈夫かなと思っていました」と本音をのぞかせる。だからこそ、「見た人から、笑いましたと聞くとほっとする」と笑いを目指さなかったことが、結果的に“吉”と出たことに安堵(あんど)する。
「まほろ駅前」シリーズ(2011年、14年)や「さよなら渓谷」(13年)の大森立嗣監督が手がけた。菅田さんは大森監督の演出を「いつも撮っているカメラのギリギリにいるんです。それはすごくうれしかったです。見てくれているという安心感で、より自由に演技もできるし、それでいて緊張感もあるし。僕らがやっていることが面白いのか、新鮮さがなくなってきたり、ちょっと大げさになってきたり、なんか違うなとなったら、真っ先にそれを察知してくれるんです」とありがたがる。
池松さんも思いは同じようで、「大森さんが一番前にいる心地よさというか。人から好かれるのもすごく分かるし、俳優から認められているのもすごく分かる。なんか、やんちゃなチームのキャプテンみたいな感じなんです(笑い)。いわゆる“監督”とはまた違う。もちろん、それもあるんですけれど、親しみやすさというか、いい距離感というか、それがまたよくて、僕らはプレーヤーで、指示されていたような感覚ですね」と話す。
大森監督に取材をしたとき、花火のシーンでの池松さんの演技が話題になった。そこで、それについて池松さんにたずねると、「なんか、テンション上がってたんですよ。夏休み(の設定)ですし、制服じゃないし、花火しているし、川がキラキラしているし」との答えが返ってきた。「そもそも、隙(すき)あらば(役で)遊ぼうと思っている」という池松さん。当時の心境を「マンガと違うことはやるべきじゃないと思っていたんですけど、2人のはかなさというか、これが一生続かないということが分かっている中で、誰も見ていないけれど、ああいうことをしゃべって面白がっている。そういうところで、一つぐらい遊んでもいいんじゃないか、じゃあ、ちょっとだけやらせてあげようと……」と客観的に説明する。
そういった自身の演技によってキャラクターが変化することの恐怖感はあまりなく、むしろ、「こいつ、こんな顔するんだという面白さの方が好きで、ウツミもこんな顔するんだというのを、ちょっとだけでもやりたかったというのが真面目な言い訳ですね」と笑顔で語る。ちなみに菅田さんによると、そのときの池松さんは「瞳孔が開いていて、ほんとやばかった(笑い)」そうだ。
ところで、このインタビューが行われた日は、10月公開の「デスノート Light up the NEW world」の撮影期間中だったようで、池松さんの無精ひげも、その役作りのためだった。その「デスノート」でも、池松さんと菅田さんは共演している。そこで、今作での共演が、「デスノート」にどう影響を及ぼしたかを聞いてみた。すると、菅田さんは池松さんの方を見ながら、「邪魔ばっかりでしたよね」。この答えに池松さんも「邪魔だらけ」と同意する。その理由を「真面目な顔して向き合えないんです」と池松さんが言えば、菅田さんも「ずっと関西弁やし」と関西弁がポロり。「『デスノート』では敵」(池松さん)の2人だが、撮影期間中は「殺し合いだ、逮捕だ、ヘリだ、銃だ、と言っている中で関西弁でしゃべり合っていた」(菅田さん)という。
そんな2人の気心の知れた様子は、「まんたんウェブ」恒例の質問「初めてはまったポップカルチャー」を聞いたときにも垣間見られた。しばらく考えてから絵本の「ウォーリーをさがせ!」「ミッケ!」にはまったという菅田さんに、池松さんが「全然ポップじゃない」とボソりと突っ込むと、菅田さんは「うそでしょ! 『ウォーリー』は、キンゴ・オブ・ポップみたいなもんでしょ」と反論。しかししばらくして、スタッフの方を見て、「『(少年)ジャンプ』って言ったらまずいかな」とお伺い立て、オーケーが出ると、「唯一、この10年買い続けてきたものが『ジャンプ』」と胸を張った。
かたや池松さんは、静かに「小学校のときなら(マンガの)『クローズ』かな」。なんでも、「小学校のときにとうちゃんが、お前、これ読めって買ってきて。それを読んで、僕もすごく高揚して、全部読み終わったあとにトガっちゃって(笑い)、授業中に隣のヤツの鼻の穴に綿を詰めたら出てこなくなって、謹慎処分を受けました」と「セトウツミ」の会話ばりの思い出を明かしてくれた。映画は2日から全国で公開中。
<池松壮亮さんのプロフィル>
1990年生まれ、福岡県出身。映画「ラスト サムライ」(2003年)で映画デビューし、「鉄人28号」(04年)で初主演を果たす。主な出演作に「ダイブ!!」(08年)、「半分の月がのぼる空」(09年)、「横道世之介」(12年)、「ぼくたちの家族」(13年)、「紙の月」「愛の渦」「バンクーバーの朝日」(いずれも14年)、「劇場版MOZU」「無伴奏」(共に15年)、「シェル・コレクター」「海よりもまだ深く」「ディストラクション・ベイビーズ」(いずれも16年)などがある。公開待機作に「だれかの木琴」「永い言い訳」「デスノート Light up the NEW world」がある。
<菅田将暉さんのプロフィル>
1993年生まれ、大阪府出身。「仮面ライダーW」(2009年)でデビュー。主な出演作に「王様とボク」(12年)、「共喰い」「陽だまりの彼女」「男子高校生の日常」(いずれも13年)、「そこのみにて光輝く」「闇金ウシジマくんPart2」「海月姫」(いずれも14年)、「映画 暗殺教室」「明烏 あけがらす」「ピース オブ ケイク」(いずれも15年)、「ピンクとグレー」「暗殺教室~卒業編~」「ディストラクション・ベイビーズ」「二重生活」(いずれも16年)など。待機作に「デスノート Light up the NEW world」「溺れるナイフ」「何者」がある。
(インタビュー・文・撮影/りんたいこ)
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