注目映画紹介:「ダゲレオタイプの女」黒沢清監督が海外初進出作で芸術家の独りよがりな愛を描く

「ダゲレオタイプの女」のワンシーン (C)FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinema
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「ダゲレオタイプの女」のワンシーン (C)FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinema

 黒沢清監督の海外初進出作品となった「ダゲレオタイプの女」が15日から公開される。世界最古の撮影方法であるダゲレオタイプの写真家の屋敷で繰り広げられる“ホラー”なラブストーリー。主演に「預言者」(2009年)のタハール・ラヒムさんを据え、すべて外国人キャストで、全編フランス語で撮影した。

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 ジャン(ラヒムさん)は、ダゲレオタイプで肖像写真を撮影するステファン(オリビエ・グルメさん)の屋敷で助手として働くことになった。屋敷には、長時間の露光時間の間、器具に固定され、苦痛に耐えながらモデルを務めるステファンの娘のマリー(コンスタンス・ルソーさん)がいた。マリーは、父親から離れて自分の夢をかなえたいと思っていた。マリーに引かれたジャンは、ステファンの異様な愛情から彼女を救おうとして……という展開。

 古めかしい屋敷に、古めかしい写真機。写真家のステファンは娘マリーの魂を等身大の銀板に閉じ込めて、永遠の愛を与えているつもりになっている。寒々しいこの屋敷では、死んだ妻の幻影がチラチラ見えている。芸術家の独りよがりの愛は、娘に異様な形で注がれ、娘の本当に生きたい道を阻んでいる。外界からやって来たジャンの存在が、マリーの助けになるのだろうか。そして、ステファンにどう作用していくのか。これが、明快な対抗軸になっておらず、なんとも幻想的な展開なのだ。

 一度踏み入れた屋敷の、またはダゲレオタイプの持つ魔力がそうさせるのか、ジャンもまた、ステファンのように生と死の境界のあいまいな世界に、いつの間にか入り込んでいく。見ているこちらを惑わせる、その入り方が素晴らしい。ハッと思わせる出来事のあと、ジャンとマリーの2人の幸せな時間が滑り出すと同時に、ステファンの愛が、孤独でもの悲しいものに映り出す。狂気の写真家にベルギーの名優グルメさんを配し、フランスの名優マチュー・アマルリックさんも登場。ソロリソロリと歩く日本的な間のとり方で、外国人キャストが芝居をするところが、なんとも不思議な感じがした。フランス映画と黒沢作品の融合が存分に楽しめる。15日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。BSで放送中の「肝っ玉かあさん」を楽しんでいる。京塚昌子さんが可愛いです。

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