小栗旬:「ミュージアム」妻子をターゲットにされた刑事を熱演 父親としての顔ものぞかせ…

映画「ミュージアム」で主人公の沢村刑事を演じた小栗旬さん
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映画「ミュージアム」で主人公の沢村刑事を演じた小栗旬さん

 巴亮介さんのサスペンススリラーマンガを俳優の小栗旬さん主演で実写化した映画「ミュージアム」(大友啓史監督)が12日に公開された。カエルのマスクをかぶって残虐な殺人を行う犯人・カエル男と妻子をターゲットにされてしまった刑事の攻防を描く。連続猟奇殺人犯のカエル男を追う刑事・沢村久志を演じる小栗さんに、役作りや撮影エピソード、家族観について聞いた。

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 ◇何か感じて帰ってくれたら

 過激な描写も多い原作を読んだ印象を、小栗さんは「正直、いい気分にはなるものではなかったので、果たして今、こういう作品を見たい人たちはいるのだろうか、と」と慎重に言葉を選びつつ率直な感想を述べ、「キラキラした、ライトで見やすい映画がはやっている状況ではありますが、自分は(こういう題材のものが)好きだし、見たいものだから、こういう映画があってもいいと思っている。だからやらせていただきました」と作品のテイストに興味を持ったと明かす。

 さらに、「ライトな作品に出ることも大事ですし、それを待ってくれているお客さんもたくさんいる」と前置きし、「その中で自分にとって『ミュージアム』というのは、そういうお客さんが見に来てくれて、逆に言うと『見なければよかった』でもいいし、何か感じて帰ってくれたら、それはそれで面白いし意味があるかな」と自身の見解を示す。

 完成した映画を見て、「衝撃的(な作品)だなと思ったかな(笑い)。(映画に出てくる)家族はとてつもないトラウマを抱えることになる事件だったけれど、現実の方が大変だったりもするわけだから」と小栗さんは感じ、「映画の楽しみ方は人それぞれだと思うけれど、僕だったら子供を一人で歩かせたくないと思うし、物語としてこういう危険もあることや、もしもこの状況になったらどうしようかとか、誰かの心に“しおり”のようなものが付いたらいいなという思いはあります」と今作のテーマについて、思いをはせる。

 そして、「面白い映画だなと思うし、裁判員裁判の裁判員をああいう形で取り上げるというのは、きっと今の日本ならではだったりして、だからこそ作れる映画なのではとも思います」と分析する。

 ◇追い詰められる心情を演じるために

 自身の家族が狙われてしまう沢村という刑事について、小栗さんは「この人の生き方は意外と好き」と切り出し、「僕の親父はどちらかというとこういう人。僕らより上の世代ではよくありましたが、(父は)家庭より仕事が優先だけど、締めるところだけは締めてくれるという感じだった」と振り返る。

 幼少期の体験を踏まえ、「今では沢村のような生き方はあまり許されないけれど、これだけ仕事に懸けていて意気込みがあるというのは……」と沢村の生き方に共感を示すも、「僕自身も少なからず感じたことですが、(父親は)結婚して子供が生まれるという現実に自分の身を置くことの難しさもあったりして、きっとそれで仕事に逃げているところもあると思うんです」と冷静に語る。

 続けて、「沢村でいえば、本当は向き合わなければいけない現実的なことは(尾野真千子さん演じる妻の)遥に任せてしまって、仕事という得意分野に没頭することで現実逃避しているみたいな部分がある」と解説し、「そこに自分としては、『分かる、分かる。父親になるのは結構大変』とシンパシーを感じてしまいます」と実感を込める。

 沢村を演じるにあたり、「たとえばヒーローであれば、人間ならこうしないということも飛び越えられてしまう瞬間があるんですが、沢村に関しては人間だからこそ犯してしまうミスなど、普通に生きてきた中で出るものということは意識しました」と役作りのポイントを説明する。次第に追い詰められていく役どころだが、「本当にぎりぎりになってくると達観するじゃないですけれど、本来の自分の精神に一瞬ブレーキをかけたりする瞬間もあったりして、それを突き詰めていくとどうなるんだろうと」と感じたという。

 その結果、「誰にも会わないほうがいいと思った」と小栗さんは感じ、「沢村が監禁されてからの撮影期間は、僕自身も現場とホテルだけの生活をしていました」と自身を追い詰めた。該当シーンを撮影は昨年の暮れに行われていたため、「街はクリスマス一色だから行きたくないし、(緊迫感を持っている中で)家族と過ごすのも無理みたいな感じになった」と当時の心境を打ち明け、「そのお陰でいろんなことも感じられましたし、ある意味、沢村と同じような状況にいたので、枯れていく感じを作れてよかったです」と充実感をにじませる。

 ◇車と衝突する場面では…

 撮影は「どれも思い出深い」と話す小栗さんだが、特に印象に残っているのは自身がスタントにも臨んだ街中でカエル男を追いかけるシーン。小栗さんは「沢村が振り向いたら(車に)ひかれる」という大友監督の意図を実現しようとするが、「最初は自分から当たりにいってしまった」と反省し、「次はぎりぎりまで我慢していたら、まるで本物の事故のようにひかれて結構、痛かった」と楽しそうに振り返る。それを見ていたカエル男役の妻夫木聡さんからは「本当にただの交通事故だったと言われました」と笑う。

 そんな妻夫木さん演じるカエル男も注目だが、初めてカエル男と対面した時は、「とにかくすごくうまい造形だなと(笑い)」と小栗さんは感心し、「本当にカエルに表情があって、笑っていたり嫌な顔をしているというのが見えたので不思議でした」と驚いたという。

 さらに、「妻夫木くんに合ったカエルはなんだろうと、衣装デザイナーの澤田石(和寛)くんが田舎の田んぼにカエルを探しに行き(マスクの)元になる絵を描いたというのを聞くと、自分たちが作っているものは“総合芸術”だなと」としみじみ語り、「そういうエネルギーがあることによって、また別のエネルギーが生まれていくし、それだけ頑張っているんだから自分も頑張らなければ、となったりするのが面白い」と深くうなずく。

 沢村とカエル男は、どこか表裏一体な一面も感じさせる。「沢村自身も何が正しいか分からなくなっているので、“私刑(個人的に刑罰を加える)”というものをし続けた人(カエル男)に対して、沢村も私刑を与えようとする」と両者の関係性を指摘し、「(私刑を)憎んでいて絶対にしてはいけないと思っている男が、立場が変わると、自分の中で理屈は成立しているけれど、人から見れば犯罪者になりかねない人になっている。そこがこの物語の中で面白いところでもある」と見どころを語る。

 ◇もし父親として最低と言われたら…

 小栗さんは今年、今作を含め3本の映画に出演した。来年も「銀魂」のほか多くの出演作の公開を控えるなど多忙を極めている。自身の仕事状況について「オファーしてくれる方たちがいる限り、“働き過ぎ”の道を歩んでいこうと思っています。周囲からは仕事しすぎだって言われもしますが、出来上がったものがよければ働き過ぎというのも言われなくなるだろうな、と」と持論を語る。

 さらに、「本当はもう少し1本1本、じっくりやっていくのがいいかもしれませんが、かといって時間をもらったら、だらけてしまったり、余裕があるといろいろ考えてしまう」と自身の性格を分析し、「働き過ぎと言われるかもしれませんが、追い詰められているほうが考えることがシンプルになるし、そういうときのほうが出来上がった作品を見て、よかったりする。人それぞれリズムややり方はあるけど、自分には(今のペースが)合ってるみたい」と笑顔を見せる。

 今作を「自分を追い詰めながら作れた作品」と評する小栗さんは、「こんな顔ができるんだと、自分で初めて見る表情もたくさんありました」と“表情”に注目してほしいと言い、「作った狂気ではない、狂気みたいなものというのは出せたと思います。状況に応じて沢村という人間を作っていったら、気が付いたら本当に人を殺してしまいそうだなという感じになったのは、自分としてはすごくうれしい」と自信をのぞかせる。

 そして、「沢村の中には“男イズム”みたいなものが流れていますので、好きだなと思ってもらえたらいいし、女性から見て『こういう男とは結婚したくない』と思ってくれるのも、それはそれでいいと思います。ただ、こういう男は選ばないほうがいいですよ、みたいな(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに表現する。

 妻の遥から「父親として最低」と沢村が言われるシーンがあるが、もし自身が言われたら……。「結構いろいろ言われている(笑い)」と冗談めかしつつ、「自分の仕事は特殊なので、子供と過ごせる時間は少なかったりもします。一緒にいられるときは頑張ろうと思って過ごしてはいますけれど、頑張ろうという時点でどうなんだろうって気もしますけど」と苦笑い。

 続けて、「以前は子供が僕のことを父親だと認識してくれない時期があって、この子にとって自分はなんなんだろうと悩むこともありました」と振り返り、「今は家に帰ると子供が走って来てくれたりするので、幸せだなと思います」と父の顔でほほ笑んだ。映画は12日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1982年12月26日生まれ、東京都出身。98年に「GTO」(フジテレビ系)で連続ドラマデビュー。以降、映画、ドラマ、舞台など多方面で活躍。2010年には初監督作「シュアリー・ サムデイ」が公開。主な映画出演作に「クローズZERO」(07年)、「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」(10年)、「岳-ガク-」(11年)、「宇宙兄弟」(12年)、「ルパン三世」(14年)など。17年には出演した映画「追憶」「銀魂」「君の膵臓をたべたい」の公開を控える。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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