西島秀俊:絶対味覚で再現したいのは「祖母が作ってくれたおはぎ」 映画「ラストレシピ」出演

映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」に出演した西島秀俊さん
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映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」に出演した西島秀俊さん

 人気グループ「嵐」の二宮和也さんが主演を務める映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」(滝田洋二郎監督)が3日に公開された。原作は、1990年代に人気を博した料理対決バラエティー番組「料理の鉄人」の演出家で知られる田中経一さんのデビュー小説。天皇の料理番が考案した究極のフルコース「大日本帝国食菜全席」を巡り、“麒麟の舌(絶対味覚)”を持つ佐々木充(二宮さん)と山形直太朗という2人の料理人の姿を、2000年代初頭と1930年代の二つの時代を並行して描く。直太朗を演じた俳優の西島秀俊さんに聞いた。

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 ◇念願の滝田組に参加して感無量

 西島さんが演じる直太朗は「1930年代パート」に登場し、「大日本帝国食菜全席」のメニュー考案に奔走するという役どころ。「直太朗は夢を持って満州に行き、自分の才能を開花させるチャンスを与えられますが、実はその素晴らしい場所はいろんな犠牲の下に成り立っていることが次第に分かっていきます」と西島さんは切り出した。「『1930年代パート』は“青春もの”というか、みんなで夢に向かってぶつかりながらも前に進んでいく高揚感があって、直太朗は青春というような年齢ではないですが、夢に向かって邁進(まいしん)しつつも現実を知るというキャラクターだと思って演じていました」と振り返る。

 直太朗という人物を作り上げていく過程で、滝田監督からは「人とぶつかったり悩んだりなどがあっても、料理が好きで料理に携わることの喜びみたいなものは絶対に失わない人」という説明があり、「どこか素直というか真っすぐなところがあり、直太朗はその力や料理に対する愛情で問題や時代を乗り越えていく。料理に携わっていることが幸せでしょうがない人ということを常に意識しました」と西島さんは話す。

 滝田監督とは、西島さんは20代のころから仕事をしてみたかったと言い、「(滝田監督の)『コミック雑誌なんかいらない!』(1986年)は当時、『何だろうこの映画』と衝撃でしたし、『眠らない街 新宿鮫』(93年)も面白くて、(映画の主人公である)鮫島を本当にやりたいと思った(笑い)。ご一緒できてうれしかったです」と声を弾ませる。「演技を生で見てオーケーを出す方なので、演技をすごく見てもらえている印象があるし、的確に細かく演出もしてくださる。『自由にやっていい』と委ねてくれるから、おびえずに思いっきりやれるところもあり、安心して演技できる監督です」と印象を語る。

 直太朗は理想を追求するストイックな一面も見られるが、「(料理指導をしてくれた)『服部学園』の先生に、いろんなシェフの方やレストランを紹介していただき、食べに行って……と、全然ストイックじゃない(笑い)」と西島さんは舞台裏を明かす。「おいしいものを食べ、シェフの方のお話を聞いてというのがすごく楽しくて、ストイックにやっているように見えて、楽しい作業ばかりでした」と笑顔を見せる。

 ◇料理シーンは手元も含めてほぼ吹き替えなし

 直太朗のキャラクター作りで欠かせないのが料理だが、西島さん自身は普段、まったく料理をしないという。「本当に一から服部学園の先生方、特に洋食を教えてくださった関口(智幸)先生には本当にお世話になりました」と話すも、「現場の流れの中で、話に聞いていたより料理の手元(のアップ)を『(吹き替えでなく)本人でいこう』という話になって……」と戸惑いがあったことを明かす。

 吹き替えが減った理由を西島さんは、「リアルさを、監督は求めていたのかもしれません」と監督の意向を推測して撮影に挑み、「華麗にさばくというよりは丁寧に食材を扱うというキャラクターで監督も考えてくださっていたので、そこはやりやすかったです」と感謝する。

 登場する料理はすべて実際に調理されていて、「最高の素材が現場にはあって、時には撮影が終わった後に料理の先生たちが調理してくださったりして、楽しい現場でした」と笑顔を浮かべる西島さんだが、味見をするシーンの撮影で「無意識なんですけど、味見のわりには結構食べているなって反省しています」とちゃめっ気たっぷりに笑う。

 数ある料理に関する工程の中で、「一番シンプルなフレンチのソースを作ったのですが、こんな手間をかけることと、タイミング」に西島さんは驚き、「食べ終わるタイミングなどが違う中で、ここでこの料理のこれを作り、あれを作って、タイミングを全部合わせて乗せ、ソースをかけて(皿のふちを)拭いて出す。そのタイミングを合わせて出すというのが、僕にとってはもう……。ソースの作り方をはじめ、ちょっと習っただけですけど、(料理人の方は)“魔法使い”みたいにしか思えないです」と感心する。

 一度食べた味を再現できる絶対味覚で再現してほしい料理として、「祖母がおはぎをよく作ってくれていて、外で買うおはぎとは相当違ったので、味わいたいです」と言い、「おはぎのことを考えるだけで、祖母の家の感じとか、夜、時計がゴチゴチ鳴って嫌だったなとか、いろんなことをだんだん思い出すので、もし食べられたら食べたい」と話す。

 ◇二宮や宮崎ら共演者に助けられたと感謝

 二宮さん演じる充を軸とする「2002年パート」と、西島さん演じる直太朗が中心となって物語が進む「1930年代パート」の二部構成だが、「(撮影が別だったので)登場人物と同じように(撮影時には)現代パートを見ていないので、過去の思いが現代にちゃんとつながっているかが分からず、『つながっていてくれ』って思っていました」と西島さんは撮影当時の心境を明かし、「出来上がりを見て、二宮くんが見事に過去と現代をつなげてくれたのでうれしかった」と喜ぶ。

 その理由を、「二宮君という俳優が、すごく現代的な感覚と、どこか古風なところの両方を持っていて、その力がレシピに込められた思いみたいなものをうまく現代につなげてくれたのかなと思います」と分析する。

 1930年代パートでは、女優の宮崎あおいさんが直太朗の妻・千鶴(ちづ)を演じている。西島さんは「宮崎さんは、20代前半に共演して以来、久しぶりに共演させていただき、当時からけた違いに役の心情を理解する人でしたけど、よりそれが大人になって深くなっていました」と今作で再会したときの印象を語り、「彼女が絶妙な距離感で(直太朗の)横にいてくれて、本当に心地いい位置で、心地いいせりふを言ってくださるので、頼りにしていました。山形家の空気を作ったのは、宮崎あおいさんの力です」とたたえる。

 千鶴のような的確な距離感とアドバイスで支えてくれる女性については、「理想です」と笑顔を見せ、「千鶴は本当に素晴らしい女性。時に『好きにやりなさい』と言ったり、でも欠けている部分をきちんと指摘してくれたりするというのは素晴らしい」とほほ笑む。

 ◇もし女性に料理を作ってあげるなら?

 今作について、「国とか時代、時間を超えて人の思いがつながっていくストーリーで、それは年齢を超えた多くの皆さんの心に届く映画が出来上がったなと思っています」と西島さんは静かに自信をのぞかせる。「きっと若い人も見てくださると思うし、年配の方もたくさん見ていただけるのでは、と思いますし、劇場で登場人物と一緒に泣いたり、笑ったりしてもらえたらうれしい」と思いをはせる。

 そして、「充と直太朗という時代も時間もすべてが離れた2人の思いに関するシーンは、出ている一人ですがすごく感動したので、ぜひ見てほしい」と力を込める。

 料理人を演じたことで食や料理に対する見方が変わり、撮影が終わった後も「チャーハン作るぐらいですけど(笑い)。映画ではチャーハンを作りませんでしたが結構、練習したのでしばらくはやっていました」と話す西島さん。「もし女性に料理を作ってあげるなら?」と質問を投げかけると、「映画の通り、たしかに“あの料理の味をもう一度”という思い出のものを、作れたら作ってあげたいです」とほほ笑みながら語った。

 <プロフィル>

 にしじま・ひでとし 1971年3月29日生まれ、東京都出身。94年、「居酒屋ゆうれい」で映画デビュー。主な出演作に「サヨナライツカ」(2010年)、「ストロベリーナイト」(13年)、「風立ちぬ(声)」(13年)、「劇場版MOZU」(15年)、「女が眠る時」(16年)、「クリーピー 偽りの隣人」(16年)など。待機作として18年に「散り椿」が公開予定。

 (取材・文・撮影:遠藤政樹)

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