東出昌大さんの主演映画「寝ても覚めても」(濱口竜介監督)が、1日に公開された。芥川賞作家・柴崎友香さんの恋愛小説の映画化で、5月開催された第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。こつ然と姿を消した運命の恋の相手を忘れられない女性が、彼とうり二つの顔をした男性に好意を抱き、戸惑いながらも、引かれていくさまを描き出したラブストーリー。今年、公開作が目白押しの東出さんが一人二役に初挑戦。ヒロインの朝子役には、オーディションで抜てきされた唐田えりかさん。これが本格的な映画デビュー作となった。東出さんと唐田さんに聞いた。
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――恋愛の危うさ、怖さ、痛み、温かさ……恋する感情がほとばしるすてきな作品でした。唐田さんは初めてのヒロイン役ですが、演じるのは難しくなかったですか。
唐田さん:難しいというより、朝子をこう演じようと考えないで、無の状態で臨みました。濱口監督に「キャストの芝居を見て、声を聞いてください」と言われ、それを意識しながら芝居するうちに、朝子の感情が勝手に湧き出るのを感じました。
――元彼を忘れられず、顔がそっくりの彼に引かれる朝子をどう思いましたか。
唐田さん:まず、脚本を読んで同じ女性として共感しました。朝子は自分にうそがつけない人。真っすぐに生きているところが感じられて、私は好きです。
――東出さんは、朝子のように恋に衝動的な女性を男性としてどう思いますか。
東出さん:演じた身でなんとも言えないのですが……(笑い)。現場で監督が語った中で、「人を好きになることは止められない」という言葉が印象に残っています。映画を見ながら「自分だったらどう選択するのだろうか」と考えると思いますが、この映画の中での登場人物の選択は、物語において必然だったと思います。そういう前置きをしつつ、僕は朝子のように生きる女性については、肯定派です(笑い)!
――東出さんが演じる一人二役は、とても見ごたえがありました。ミステリアスな麦と真面目な亮平。対照的な役柄でしたが、朝子への愛し方の違いをどう捉えましたか。
東出さん:麦はひょうひょうとして、他者からミステリアスに見えるところが魅力ではあるのですが、原作者の柴崎さんの設定によると、かぐや姫を迎えに来た使者のような、宇宙人的な人物ということでした。なので本人にとっては自然で、単純明快に朝子に接しているんです。亮平の愛し方は、愛とは何なのかを説明するのが難しいように、少し説明するのが難しい。朝子のことが本当に好きなんだと思います。自分といるのに遠くの方を見ている朝子に気づいても、それをひっくるめて彼女を愛している。見返りを求めずに、ただ愛しています。これは、多くの方に経験のあることだと思いました。
――東出さんは今回、これまでの経験を捨てて、素人のような感覚で現場に入ったとお聞きしました。二役について演じ分ける必要はなかったと。濱口監督は演出でどんなことを大事されていたと感じましたか。
東出さん:監督は「1に相手、2にせりふ、3、4がなくて、5に自分はいらない」とおっしゃって、相手との信頼関係の中で作っていくことを大事にされていました。自分が用意してきた仕草や声音で勝負すると、結局それは自分でしかないのだ、と。心の奥から思っていることを言葉にする芝居こそが、真のリアリティーを生み出します。演じ分けようと考えることは、浅はかなことでした。濱口組では必要ありませんでしたね。
――これまで経験されたことのなかったことも多かったとか。どんなことが印象的でしたか。
東出さん:ワークショップに長い時間をかけて、何百回も台本読みをしました。そして、現場に入って、本番で初めて感情を乗せてセリフをしゃべる。なかなか体験できない演出法だったので、唐田さんと違って僕の場合は、経験が邪魔になって、なかなか難しかったです。
――そういう意味では唐田さんが相手役でよかったことやインスパイアされることもあったのではないでしょうか?
東出さん:撮影が進むにつれて唐田さんが朝子の力を得て、どんどん美しくなって、現場でミューズになっていったんです。それは映画の成功でもあり、同じ立ち位置の役者としては、嫉妬するところでもありますが(笑い)、本当にそれでよかったと思いました。
――唐田さん、東出さんからお褒めの言葉をいただいた気分は? 現場では手ごたえを感じていましたか。
唐田さん:うれしいですね。「やったー!」と思いました(笑い)。自分の中に朝子がいるという感覚で、役と一緒に成長していったと思います。撮影中はワンシーン、ワンシーン、終わっていくのが悲しいほど、楽しかったです。
――相手役が東出さんでよかったことが、たくさんあったのではないでしょうか。
唐田さん:本当にありがたかったです。東出さんのお芝居によって、そのシーンごとに自然な感情が湧き出てきました。それは、これまで経験したことがなかったことで、初めてお芝居の本質に触れた気がしました。現場では東出さんが「みんなで食事に行こう」と声をかけてくれて、関係性も作ってくださり、それも心強かったです。
――カンヌでの思い出を教えてください。一番楽しかったことは?
唐田さん:みんなでステーキハウスでお肉を食べたことです!
東出さん:ああ、楽しかった~!! そうそう、一番楽しかったことはそれです! とにかく日が長いので、長時間、取材が続いて、みんな疲れていました。
唐田さん:がっつりステーキでしたね。あと、レッドカーペットの瞬間だけ晴れたことが印象に残っています。
東出さん:僕は取材で、タキシードを着た濱口監督が「今、考えていることは次の作品のことです」とおっしゃっていたのが印象的でした。僕も全くその通りの気持ちで、次の作品について考えています。映画祭ってなんだかフワフワします。
――カンヌの観客からの感想で印象的だったものを教えてください。
東出さん:「日本人はフィアンセが、別の人に思いを寄せただけで怒るのか」とか、「カレーとラタトゥイユを間違えるのは、似て非なるもの、一人二役の比喩なのか」とか、文化の違いを感じるようなさまざまな感想が出ました。いろいろな見方があるんだなあと思いましたね。
――お好きなシーンを一つだけ挙げてください。
唐田さん:全部大事なシーンなのですが、一つ挙げるなら、ラストシーン。そこに全部が詰まっています。
東出さん:ラストの方、朝子と麦の学生時代の友達の岡崎が出てくるシーンが僕は好きで、渡辺(大知)さんの芝居も好きです。自分のシーンでは、濱口監督が「カメラを見てください」という演出が一つだけあって、そこが好きなシーンです。その瞬間だけお客さんと目が合います!
――2人を見守る飼い猫もアクセントとなっていてよかったです。
唐田さん:可愛かったのですが、私は猫アレルギーなので、かゆさを堪えてました(笑い)。
東出さん:猫が入る日は大変でしたね(笑い)。猫待ちで、テイク数が多くなって。でも、猫の入る日だけ空調が効いて涼しかったのはよかった!
――最後に、映画を見た率直な感想を。
唐田さん:まだ客観的に見られてないのですが、撮影中に自分が見ていたものや、朝子の気持ちが、スクリーンにちゃんと映るんだなあと思いました。全部バレるんだなあ、と(笑い)。
東出さん:起承転結があって、はっきりとしたハッピーエンドがある形だけがラブストーリーなのではない、ということに気づかせてくれる作品です。映画の中に出てくる川は象徴的なのですが、愛情もお互いの立ち位置も川のように移ろい行くものです。一瞬の幸福的な儚さを描けた作品になったんじゃないかなと思いました。
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