まんぷく:朝ドラは「手をかけた家庭料理」 登場人物も「献立」 脚本家が明かす執筆の裏側…

NHK連続テレビ小説「まんぷく」の脚本家・福田靖さん (C)NHK
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NHK連続テレビ小説「まんぷく」の脚本家・福田靖さん (C)NHK

 女優の安藤サクラさんが主演を務めるNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「まんぷく」が好調だ。その要因の一つになっているのが、ヒロインの福子(安藤さん)と萬平(長谷川博己さん)夫婦をはじめとする愛らしいキャラクターたち。「私は武士の娘です」が口癖で、干渉したがりの福子の母・鈴(松坂慶子さん)、何かと缶詰をプレゼントする純な料理人・野呂幸吉(藤山扇治郎さん)、白馬の「蘭丸」に乗って現れるロマンチストな歯医者・牧善之介(浜野謙太さん)……。朝ドラの執筆を「手をかけた家庭料理を毎日作るイメージ」とし、登場人物のことも「献立」と表現する脚本の福田靖さんに話を聞いた。

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 ◇朝ドラの王道“女の一代記”も「ほぼオリジナルの世界」

 「まんぷく」は、インスタントラーメンをこの世に生み出した実業家、安藤百福(ももふく)さんとその妻、仁子(まさこ)さんの半生がモデルのドラマだ。

 「物語を作るにあたって、まず『オリジナルにしますか?』『それともモデルを探しますか?』というところから打ち合わせをして、結果、モデルを探すことになりました」と話す福田さん。プロデューサーが用意した「いくつかのモデル候補」の中に安藤夫妻の名前があったといい、「調べれば調べるほど、成し遂げてこられた内容が素晴らしくて。インスタントの袋麺を作ったこと、カップ麺を作ったことは、本当に画期的だということで決定した」と振り返る。

 ところが、仁子さんに関する資料はほぼ皆無。朝ドラの王道ともいえる“女の一代記”でありながら、これは異例のケースで、福田さんも「インターネットで検索しても出てこないし、『大宅壮一文庫』というマスコミの方がよく調べ物をなさる雑誌の博物館でも「安藤仁子」でヒット数はゼロ。本当に表に出てこない方なんです。この方を主人公にするということは、ほぼオリジナルの世界」と認める。

 ◇毎日献立を考えるお母さんに似た大変さある

 その一方で「実在のモデルがありながら、ほぼフィクションですので、物語を一から起こしていくことについての大変さはありますが、それが僕の仕事ですので」とさらりと言ってのける福田さん。

 1話15分という尺についても「大河ドラマのように45分あれば、冒頭のシーンがラストに生きてくる、うねりや流れのある物語を作ることができます。それは週に1度、ちゃんとしたレストランでフルコースの料理を食べるようなもの」と前置きした上で、「朝ドラの場合、例えば月曜日に伏線があり、それが金曜日に生きてくるという作り方をすることはできません。月曜日に何が起こったか、うちのお袋なんて絶対に忘れています(笑い)。ということはフルコースではなく、手をかけた家庭料理を毎日作るイメージです」と説明する。

 「だから、特別すごいものではないかもしれませんし、号泣するほどのことはないかもしれません。もちろん号泣していただけたらうれしいのですが、1回1回が、一品一品ですので、毎日献立を考えるお母さんに似た大変さはありますよね」と苦労はありつつ、「登場人物に関しては、やはり流れの中で、このタイミングで、こういう人物が欲しいということを考慮します。これも献立なんですね。ここは緑黄色野菜が出てきた方がいいとか、お肉が続いたから、次はお魚も食べなさいという感じで入れていきます。毎日のことなので、視聴者の方が飽きないように考えます」と明かしている。

 ◇気をつけているのは登場人物のリアリティー

 また福田さんは「どんなキャラクターにするかというのは、化学反応がどういうふうに起こってくるのかを考えながら采配しています」といい、「物語を描くときに気をつけているのは登場人物のリアリティーです。人にはそれぞれの正義や信念があり、それぞれに愛情を持ち、愛するものがあり、それゆえに互いにぶつかっていくのだろうと思いますし、それを描きたい」と力を込める。

 一人の脚本家として「僕の仕事は日常から逸脱した何かを発明することではありません」とも言い切る福田さんは、「普段の家族での会話や、ワイドショーで今話題になっていることなどをチェックして、視聴者のみなさんと同じ目線でいることを心がけています」とも告白する。

 さらに「実在の人物がモデルである以上、実際に起こった事件というものが存在します。その出来事についての記述は残っていますが、いざ脚本に起こし始めると『なぜその事件にたどり着くのか』ということまでは分かりません。例えば、萬平さんは逮捕されますが、それはある日突然起こるのではなく、そこにたどり着くまでの空気感が必ずあるはずです。それがある時、パッと裏返る。そんなカードの出し方を心がけながら書いています。どのタイミングで、どのカードを出していけば、最後にそのカードが裏返った時に、見ている人が『そうきたか!』と受け入れることができるかどうか、常に考えています」と語った。

 「まんぷく」はNHK総合で毎週月~土曜午前8時ほかで放送。

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