小野憲史のゲーム時評:MSの新サービスに注目 家庭用ゲーム機がPCやスマホと融合

マイクロソフトのID@Xbox担当シニアディレクターのクリス・チャーラーさん
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マイクロソフトのID@Xbox担当シニアディレクターのクリス・チャーラーさん

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、マイクロソフト(MS)が進めるゲームの新サービスについて語ります。

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 これまでゲームソフトを遊ぶためには、特定のハードウエアを購入する必要があった。ハードメーカーは人気ゲームソフトを自社ハードに囲い込み、ロイヤルティーを得て利益を上げる。1983年に発売された「ファミリーコンピュータ」以来35年間続いてきた家庭用ゲーム機の中心となるビジネスモデルだ。

 しかしMSが進める一連の施策で、これが変化しつつある。日本マイクロソフトは11月に説明会「ID@Xbox」を開催し、ユーザーが近く「いつでも、どこでも、自分の好きな端末でゲームを楽しめる世界」が到来することをアピールした。キーワードは「Xbox Play Anywhere」「Project xCloud」「Microsoft Azure」「Xbox Game Pass」だ。

 「Xbox Play Anywhere」はMSの家庭用ゲーム機「XboxOne」でもウィンドウズ10搭載PCでも遊べる機能。2016年からスタートし、同社の人気タイトルを中心に対応ソフトが増加中だ。ユーザーはゲームソフトを1本購入するだけで、どちらのハードでもプレーでき、セーブデータなども共有できる。

 これを一気に拡大するのが、19年にサービス開始が予定されているストリーミングゲームサービス「Project xCloud」だ。PS4のサービス「PlayStation Now」と原理的には同じで、スマートフォンなどのブラウザー搭載端末で最新ゲームがプレー可能になる。

 もっとも、これまではインターネット回線のインフラがネックとなり、普及が進まなかった。しかし、ID@Xbox担当シニアディレクターのクリス・チャーラーさんは、同社の運営するクラウドサーバー「Microsoft Azure」を活用すれば実現可能だとした。20年から本格サービスが始まる第5世代移動通信システム(5G)も追い風になるという。

 この他、同社は17年から定額制ゲームサービス「Xbox Game Pass」を日本以外の31カ国で実施中だ。月額9.99ドルで人気ゲーム約100タイトルが遊び放題になる。19年にはXboxOneだけでなく、ウィンドウズ10搭載PCでもプレーできる予定だ。

 チャーラーさんは一連の施策を「デバイス中心からユーザー中心へのゲーム体験の移行」とまとめた。既に音楽や映画、書籍などでは当たり前で、ゲームもそれに続くというわけだ。その上で鍵を握るのは良質なゲームソフトだとして、日本のインディーズ(独立系)ゲーム開発者にも参入を呼びかけた。

 同社はインディーズゲーム開発者への開発支援プログラムを16年から進めている。企画審査に通れば開発機材の無償提供や世界市場向けの宣伝協力などの支援が受けられる。同様の施策は他のゲーム機にもあるが、チャーラーさんはウィンドウズ10搭載PCとXboxOne、スマートフォンを合わせた数億台のハードに向けてゲームを配信できる点が強みだとした。

 同社の施策はパッケージ流通からデジタル流通への移行が進む中で、ゲームビジネスの在り方を再定義するものだといえる。既に同社はウィンドウズ10と統合ソフトのOffice365でクラウドに対応。ユーザーは端末を選ばずに文書作成や表計算ソフトなどを活用できる。ゲームもこれに続くというわけだ。

 今回の発表は11月10日にメキシコで開かれたファンイベント「XO18」の内容をなぞるもので、新鮮味は乏しかった。しかし同社が改めて戦略転換をアピールしたことで、日本のゲーム業界にも大きな影響を与えそうだ。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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