高阪剛:「UFC238」ダブルタイトルマッチの見どころ語る メインイベントは「エリートvs野生」

「UFC238」に出場する(左から)ヘンリー・セフード選手、マルロン・モラエス選手、ヴァレンティーナ・シェフチェンコ選手、ジェシカ・アイ選手(C)GettyImages
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「UFC238」に出場する(左から)ヘンリー・セフード選手、マルロン・モラエス選手、ヴァレンティーナ・シェフチェンコ選手、ジェシカ・アイ選手(C)GettyImages

 日本時間の6月9日、米シカゴのユナイテッド・センターで総合格闘技の大会「UFC238」が開催される。前王者TJ.ディラショー選手の王座剥奪を受けて、メインイベントは、現フライ級王者のヘンリー・セフード選手とマルロン・モラエス選手のUFC世界バンタム級王座決定戦。セフード選手が勝てば、UFC史上4人目のUFC2階級同時制覇となる。さらに、王者のヴァレンティーナ・シェフチェンコ選手にジェシカ・アイ選手が挑むUFC世界女子フライ級タイトルマッチも行われる。二つのタイトルマッチの見どころを格闘家の高阪剛さんに聞いた。

ウナギノボリ

 ◇メインイベントは「エリートvs野性」の戦い

 --フライ級王者のセフード選手と4連勝中のモラエス選手の一戦をどう見ますか?

 最近、2階級制覇を狙う選手が増えていますが、やはり一番問題となるのは、体格差とフィジカル差なんです。ただ、セフードの場合、フライ級王者ということで、バンタム級から見て1階級下ではありますが、フィジカルに関していえば、下手したらバンタム級以上、フェザー級ぐらいの力があるのでは、と思っています。

 --1階級どころか2階級上のフィジカルですか。

 例えば今年1月、当時のバンタム級王者TJ.ディラショー相手にフライ級王座防衛戦をやったときも、スタンドの攻防の最中に、セフードが両手でプッシュしたら、ディラショーが吹っ飛んだシーンがありました。普通、あんなに吹っ飛ばないですから。あの瞬間、ディラショーは「これはヤバいぞ」と感じただろうし、逆にセフードの方は「いける」と思ったはずです。他の試合を見ても、組んでのフィジカルは当然として、スタンドで構えてプレッシャーをかけると、どんどん相手が下がっていっている。

 これは、おそらくフィジカルの強さが構えからもにじみ出ているからでしょう。さらにガードの上からでも「これを食らったらまずいな」と相手に思わせるような打撃を5ラウンド終始できてしまう。そこが彼の一番の強みなのではと思いますね。

 --圧倒的なフィジカルと共に、体幹の強さから繰り出される軽量級離れした重いパンチが最大の武器だと。

 そうですね。打撃を打つときに一切、下半身がブレないんですよ。ヒザが伸びて打っているパンチなんて本当にない。あれを5ラウンド続けられるのは、驚異的としか言いようがないです。強弱をつけずに“強”だけですから。前フライ級王者のデメトリアス・ジョンソンなんかは、ペース配分が分かっているので、途中でうまく流すんです。ステップを使って翻弄(ほんろう)したり、ごまかすテクニックを持っている。

 でも、セフードにはそれがない。セフードは北京五輪のレスリング金メダリストですよね。過去にもオリンピックのメダリストが何人かUFCのリングに上がっていますが、本物の中の本物が来ちゃった、という感じがします。他の選手からしたら「これはまずいヤツが来たな」「俺らのところに来るんじゃねえ」と思っているんじゃないかな(笑い)。

 --対するモラエス選手は、激戦区バンタム級で4連勝中の選手ですが、いかがですか?

 モラエスは3試合連続で1ラウンド勝利中ですが、試合を作るタイプというより、とにかく試合を終わらせることを考えて戦う選手という印象ですね。打撃の一発一発が「KOで勝つための最短距離の打撃がこれだよ」というものなんですよ。感覚的に、勝つ=KOか一本という気持ちができている。だから今回の試合でも、セフードはプレッシャーをどんどんかけていって、ペースを握ろうとすると思いますが、モラエスはそういうのをあまり考えず、いつも通り倒しにいくのでは、と考えています。

 --相手がどんな戦法でこようと、最短距離で仕留めにいくだけだと。

 とはいっても、むやみに前に出るのではなく、自分の射程圏内で常に試合をすると思います。距離の設定がモラエスの方が、少し遠いんです。だから、プレッシャーをかけたいセフードからしたら、モラエスが得意としている前足の蹴りはすごく嫌な攻撃になるはず。そこでもしセフードがじれて、「もう、いってまえ!」ってなったとしたら、モラエスにとって大きなチャンスが舞い込むかもしれない。

 --モラエス選手が、セフード選手のプレッシャーに左右されず、自分の距離や戦い方を貫けば、勝機が訪れると。

 全体的なポテンシャルの高さはセフードの方が上回っているかと思いますが、要所要所で仕留める力はモラエスもかなり高いものを持っているので、勝つ可能性は大いにあります。モラエスは野性の勘が研ぎ澄まされている感があるので、この試合はエリートvs野性の戦いになると思いますね。

 ◇ジェシカ・アイは“形の維持”と“打撃対策”が攻略に必須

 --セミファイナルは、シェフチェンコ選手がアイ選手を相手に女子フライ級王座防衛戦を行います。この一戦はどう見ていますか?

 シェフチェンコもまた、この階級ではフィジカルが飛び抜けています。前回、元ストロー級王者のヨアナ・イェンジェイチックとの試合でも、テイクダウンもタックルうんぬんではなく、組んで持ち上げてのスープレックスで投げていますから。シェフチェンコはアマンダ・ヌネスと1階級上のバンタム級タイトル戦をやったことがありますが、フィジカルに関しては互角でしたからね。シェフチェンコもまた、セフードのように、同級選手たちから「来るんじゃないよ」って、嫌がられているかもしれない(笑い)。

 --シェフチェンコ選手の打撃に関しては女子全階級でもトップクラスですし、キックボクシングで世界タイトルをいくつも獲得しています。

 あの打撃技術は相手選手にとっては脅威ですよ。相手のローキックなんかも上半身を動かさずに脚だけでさばいて、目線を外さずに打撃が打ち返せる。結局、それが相手にとってはすごくプレッシャーになるし、怖いんです。かつ、要所要所でいろんなコンビネーションを出してくるので、相手からすると、嫌なところを全部突かれてしまう。そうやって相手の形を崩すのがうまいんです。「いつもだったらこう動くのに」ということをできなくさせる、そういうタイプの強さですね。

 --対するアイ選手はバンタム級では連敗していたのが、フライ級転向後は無傷の3連勝と、こちらも覚醒した感があります。

 ジェシカ・アイの方もハマればかなりの強さを発揮すると思います。打撃の打ち方がきれいで、自分の設定距離にスパンとハマれば、相手にかなりダメージを与える打撃ができますからね。ただ、シェフチェンコは手数が多くないけれども、相手の打撃をブロックしてから返しの打撃が強いので、ジェシカがその対策をどう練っているのかが、一つのポイントになるはず。そこで自分の形がキープできれば、必ずチャンスは来ると思いますが……。それがなかなか一筋縄ではいかない。だから今回のダブルタイトルマッチは、どちらも同じようなことが言えると思うんです。モラエスとジェシカ・アイが、軽い階級とは思えないフィジカルの強さを持つ相手をどう攻略するか、そこがポイントですね。

 *……WOWOWではダブルタイトルマッチを生中継。「生中継! UFC238 in シカゴ 豪華ダブルタイトルマッチ!セフード2階級制覇なるか!?」と題して、WOWOWプライムで9日午前11時から放送。

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