UFC239:“激闘必至”のダブルタイトルマッチの見どころを高阪剛が解説

ジョン・ジョーンズ選手(C)GettyImages
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ジョン・ジョーンズ選手(C)GettyImages

 日本時間の7月7日、米ラスベガスのT-モバイルアリーナで、総合格闘技の大会「UFC239」が開催される。メインイベントは、“絶対王者”ジョン・ジョーンズ選手が3連続KO勝利中のティアゴ・サントス選手を迎え撃つUFC世界ライトヘビー級タイトルマッチ。さらに、UFC女子初の2階級制覇を果たしたアマンダ・ヌネス選手に、元ボクシング世界3階級王者ホーリー・ホルム選手が挑むUFC世界女子バンタム級タイトルマッチも行われる。この2大タイトル戦の見どころを、WOWOWの番組「究極格闘技-UFC-」解説者としても知られる“世界のTK”こと高阪剛さんに聞いた。

ウナギノボリ

 ◇サントスがまだ見ぬジョーンズ像を引き出すのか注目

 ――UFC239のメインはジョン・ジョーンズ選手VSティアゴ・サントス選手のライトヘビー級タイトルマッチです。王者ジョーンズは復帰後3戦目になりますが、ここまでどう見ていますか?

 復帰後も2連勝していますが、ちょっと「本来のジョン・ジョーンズらしくないな」という試合が続いている気はしますよね。

 ――復帰1戦目がアレクサンダー・グスタフソン選手に2ラウンドでTKO勝ち、前回はアンソニー・スミス選手に大差の判定勝ちと、どちらも完勝しているにもかかわらず、やや物足りなさを感じる、と。

 もちろん期待が大きすぎるがゆえなんですけどね。どうして“らしくなさ”を感じてしまうかというと、以前のジョン・ジョーンズは相手がガンガン攻めてきたところに、自分がカウンターを当てたりとか。縦ヒジを入れて、そこからテークダウンとか。立ったまま締め落としたりとか。そういう多彩でアグレッシブな戦いが身上だったと思うんです。欠場中に何かを悟ったのか、自分のスタイルを洗い直した感があるんですよ。

 ――より“大人の戦い方”になっているというか。

 そうですね。前回のアンソニー・スミス戦を改めて見返してみたのですが、相手の攻撃を止める動きが、随所に見られたんですよ。スミスも本来はもっとアグレッシブに攻める選手ですけど、それをさせない動きをジョーンズがしている。たとえば、「リストコントロール」という、組んだときに相手の手首をつかんで、四つ組にさせない、首相撲を取らせない、タックルにもいかせないという、そういったようなことをやっているんです。またスタンドにおいても、スミスが前に出ようとしても前蹴りを使われて距離を取られるし。思い切って踏み込んでも、肘を使われるし。対戦相手を「どうにも前に出られない」「うまくいかない」という状況にさせているんですね。

 ――かつてのジョーンズ選手は、相手が攻めてきたところを抜群の反射神経で“際”を制して仕留めるようなところがありましたが、その状況にすらさせないわけですね。

 だからより厄介な存在になっているし、マスター、達人への道を歩み始めていますよ。これは対戦相手にとっても、若い頃のジョン・ジョーンズの才能垂れ流しみたいな試合を見て感動していたファンにとっても、困ったものです(笑い)。

 ――そんなジョーンズ選手と今回相対するのがサントス選手です。こちらも絶好調で、ミドル級からライトヘビー級に転向以来、3連続フィニッシュ勝利、しかもポストファイトボーナスも3連続で獲得しています。高阪さんから見てサントス選手はいかがですか?

 自信を持って戦っているのが、いい方向に作用していますよね。技術的なことで言うと、彼のバックボーンであるカポエイラ特有のものだと思うんですけど、構えがオーソドックスとサウスポー、どちらが得意というのもない戦いをするんですよ。そこが強みだと思います。

 ――それだけ変幻自在な戦い方ができるということですか。

 蹴りなんかでもキックボクシングとは若干違っていて、蹴った足を戻さなくてもいいという感覚でやっているんですよ。例えば、左構えから左足で蹴って、そのまま足を戻さずにオーソドックスの構えで、次の打撃を連打したりとか。どっちが得意という概念が彼の中にはない。これは相手からしたら、どの打撃が来るのか予測が非常に難しいと思うんですよね。だから自分としては、これをそのまんまジョン・ジョーンズにぶつけてほしいんですよ。

 ――読めない打撃でガンガンいってほしい、と。

 しかも、それはトリッキーなだけでなく、当たったら倒れる強い打撃ですから。あの打撃をやられたら、ジョーンズも「顔面にもらったら危ないな」という認識を持つと思うんですよ。そして「危ないな」と思ってくれれば、以前のジョン・ジョーンズに戻るんじゃないかなって(笑い)。

 ――危機を察知して、アメージングな動きを出してくるんじゃないかと。

 そう。獣が追い込まれたときに、バカ力がでるみたいにね。そのジョン・ジョーンズの力を出させることができるのは、ティアゴ・サントスかなと思うんですよ。サントスがジョーンズを振り回してくれれば、そういうスクランブルの中から、まだ見ぬジョン・ジョーンズが見られるんじゃないかなと。自分はそこに期待していますね。

 ◇ヌネスVSホルム戦は、今後の女子MMAシーンを大きく左右する

 ――続いて女子最強王者アマンダ・ヌネス選手にホーリー・ホルム選手が挑戦するバンタム級タイトルマッチはどう見ていますか?

 まずアマンダ・ヌネスは前回、1階級上のフェザー級王者クリス・サイボーグに殴り勝ったことでも分かる通り、女子格闘技界屈指のハードパンチャーですよね。また、顔にパンチを当てる感覚にたけているんですよ。一見振り回しているパンチに見えますけど、顔に当たるように微調整をしている。それも考えてやっているのではなく、その感覚が身についている。いわば体がそう機能しているんですよね。

 ――サイボーグ戦ではラッシュを仕掛けたパンチが、ほとんどヒットしていました。

 ただ、サイボーグのような打ち合う選手相手には、無類の強さを発揮するのですが、現・女子フライ級王者のヴァレンティーナ・シェフチェンコと対戦したときは、シェフチェンコが距離をとって戦ったので、ヌネスはなかなか前に出られずやりづらそうだったんですよ。

 ――結果も2-1の判定で、なんとか競り勝った感じでした。

 だからシェフチェンコ戦では、前手のジャブを頻繁に出しながら、自分の距離に少しずつ近づかせるような戦いをしていたんです。ヌネスは自分の距離というものが確立されていて、“制空権”に入ったら高い確率で顔面を捉えられる強さがありますから。

 ――そういう接近戦で圧倒的な強さを見せるヌネスに対して、フットワークを駆使するホーリー・ホルムは、ある意味で天敵になりうる存在なのでは?

 そういう面はあると思いますね。大前提として、ホルムは構えがサウスポーで、ヌネスはオーソドックス。ケンカ四つの状態になるので、そこからホルムはすごく生き生きし出すんですよ。

 ――左ハイキックでKOして世界に衝撃を与えたロンダ・ラウジー戦も、ホルム選手がサウスポー、ロンダ選手がオーソドックスでした。

 またフットワークが抜群で、しかも足のスタミナがすごくあるんですよ。最終ラウンドまで自分のスタイルを崩しませんからね。とくにコンビネーションとしては、ステップを踏んで距離を取り、相手がじれて踏み込んできたとき、バックステップしながら、左ストレート、右フックからの左ハイキックというのが得意技ですよね。

 これを何度も出すのですが、その都度、足の踏み込む位置が違ったりするので、同じコンビネーションでも相手にしたら、違う攻撃に見えるんでしょう。だからヌネスといえども、不用意に前に出てカウンターをもらったら、ホルムの餌食になりかねない。逆にヌネスが踏み込んだときに連打が打てたら、ホルムも倒れると思う。そこの駆け引きですよね。

 ――ヌネス選手が踏み込んだ瞬間が、勝負を左右すると。

 あともう一つ、ホルムは距離が近くなった場合、組みにくるんですよ。その組むスピードも速いし、寝技や組みで相手のほうにアドバンテージがいきそうになったら、深追いせずにすぐ離れる。そこも彼女の技術だと思うんですよね。そこでやりあって相手を削っておいて、自分はスタミナが十分なので、相手の足が止まったところで左ハイを打つことができる。そこまで持っていけるかどうかですが、これは楽しみな試合ですよ。

 ――では、いまや敵なしのヌネス選手をもっとも倒す可能性があるのがホルムだと。

 その可能性は十分ある、高い次元のマッチアップですよね。

 ――ここでもしホルム選手が勝ったりすると、女子バンタム級戦線がまた分からなくなります。

 ホルムはフェザー級でサイボーグに負けているし、ヌネス、ホルム、サイボーグの3人がじゃんけんみたいな関係にもなりかけない。だから今後の女子MMAシーンを大きく左右する一戦でもあると思います。

 *……WOWOWではダブルタイトルマッチを生中継。「生中継!UFC-究極格闘技- UFC239 in ラスベガス ダブルタイトルマッチ!絶対的王者ジョーンズと2階級制覇ヌネスが降臨!」と題して、WOWOWライブで7月7日午前11時に放送。

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