斎藤工:自由な挑戦の源泉は“危機感” 「斎藤工というキャラが好きではない」

ドラマスペシャル「最上の命医2019」で主演を務める俳優の斎藤工さん
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ドラマスペシャル「最上の命医2019」で主演を務める俳優の斎藤工さん

 10月放送のドラマスペシャル「最上の命医2019」(テレビ東京系)で主演を務める俳優の斎藤工さん。2011年1月クールの連続ドラマから始まった人気シリーズで、斎藤さんは引き続き小児外科医・西條命(さいじょう・みこと)を演じる。時代が変わり、医療を取り巻く背景が変化する中でも患者に向き合う姿勢は変わらない命について「数字では加算できない何かを持っているのが最大の魅力」と斎藤さんは話す。一方、自身については俳優、監督、バラエティー出演……と「いろんなことをし過ぎて迷走している感はある」と苦笑するが、そこには無難に収まることへの“危機感”があるという。斎藤さんに今作についての思いやジャンルの枠を超えて活動する真意などを聞いた。

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 ◇主演という以上に意味を持つ作品

 「最上の命医」は、橋口たかしさん作、入江謙三さん原作の医療マンガが原作で、自ら病に侵されながらも、消えそうな小さな生命に極限まで向き合う小児外科医・命の活躍を描いてきた。今作ではかつてない極限状態で命が“最難関オペ”に挑む姿が描かれる。房総の田舎町の診療所で臨時医師として働いていた命は、異食行動の女児・中園柚をケアする一方、手術不可能と診断された男児をオペで救うため、東房総医療センターから協力要請を受ける。そんな中、房総刑務所に服役していた佐久間耕作が脱獄したというニュースが世間を騒がせ、柚が突然姿を消してしまう……という内容。

 2011年に連ドラが放送され、その後のドラマスペシャルは第3弾となる人気シリーズで主演を務める斎藤さん。現代医療と向き合う作品ということもあり、スタート当時とは取り巻く環境も変化しているという。「この10年弱で医学的な進化があり、かつてはなかったような器具が現場に存在したり、環境的に違うな、というのは撮影現場を見ていて思います」と話す。

 ただ、そうした変わりゆく時代の中で、西條命という人物には変わらない、普遍的な魅力があるという。「西條命という人間は、現代だけではなくいろいろな時代をまたいでいるような、精神世界のひとつの象徴のような気がするんです。この人物は最大の魅力として、数字では加算できない何かを持っている。『変わりゆくもの』と『普遍的な彼の精神性』というコントラストは(ドラマでも)どんどん強くなり、キャラクターの濃度も濃くなっていると感じました」と演じる命の魅力を語る。

 連ドラも含め、4度目の放送となる今作。長く続くシリーズで主演を務めている斎藤さんだが、単に「主演だから」ということだけではない思いを同シリーズに抱いているという。「(放送中に)東日本大震災をまたいで、ということもありましたし、僕の中では主演だからという以上に意味を持っている作品。このシリーズは『ここで終わりです』というピリオドが見えない。裏を返すと、それぐらい現代医療と日本における小児外科という問題が、解決しない事例としてあり続けていると言えると思います」と思いを明かす。
 
 今作では、誘拐、脱獄、オペ室占拠など、同シリーズの中でも指折りの怒濤(どとう)の展開。斎藤さんは「拳銃が出てきたり、並々ならぬ状況下における人物が入り乱れたりと、シリーズ史上最大のサスペンス展開。とてつもないものを背負った男と対峙(たいじ)したときの、医者としてというより人としての対話みたいなものが、今回のカギになっています」と語る。

 ◇幅広い活動は“無難”への抗い 「よくいそうなカテゴリーだと思っていた」

 命を「普遍的」と言う一方で、自身については「いろんなことをし過ぎて迷走している感はある」と苦笑いを浮かべる。実際、今作や主演映画「麻雀放浪記2020」(2019年)、NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」、主人公を演じる2021年公開の映画「シン・ウルトラマン」など俳優として精力的に活動する一方で、それのみにとどまらず幅広いジャンルで存在感を放つ。昨年「blank13」で初めて長編映画を監督するなど制作側としてもキャリアを充実させる一方、2016年末には、バラエティー特番でお笑いタレントのサンシャイン池崎さんのネタをハイテンションで披露したことも話題を集めた。

 近年のこうした斎藤さんの姿は、見るものに「次に何をするのか」読めない、変幻自在な存在という印象を抱かせる。なぜ斎藤さんは、さまざまなジャンルで表現活動を試みるのか。斎藤さんは「放っておくと、スタンダードな、無難なところに引き寄せられていく未来が暗に見える。そこにあらがうという意味で、自分の身を行きづらいところに投げ込む、という感じはあります」と自身を突き動かす背景に“危機感”があることを明かす。

 「僕らの職業は『性別問わず』のビジネスでなければならないと思うんです。同性の心をどれだけ動かせるか。でも放っておくと、異性の方が支持してくださる、ということに満足してしまい、いばらの道に足を踏み入れないという選択肢を取りがちになってしまう。放っておくと、たぶん僕もそうしてしまうと思うんです。でも、そんな自分が血へどを吐くほど嫌なので」

 さらに、「男性として、斎藤工というキャラクター自体、僕はあまり好きじゃない」と続ける斎藤さん。「それは20代からずっとで。自分が監督だったら使うか、というと……なかなか魅力的な素材に思えなかった。じゃあ、どうしたら自分のことに興味を持てるか、視聴者がチャンネルを変えない対象になるか……と考えて修行に出たのが、バラエティーなどへの展開だったんです。『お前はかっこつけず、笑いを取ろうともせず、一生懸命やれ』と。そこに全力で身を投じて、『笑わせるのではなく笑われる』でいい……滑稽(こっけい)に見える、というのが、唯一自分にできる開拓の仕方だな、と」。

 そう打ち明ける斎藤さんは、「『この素材だったらこうなりそう』というところに、とっておきの香辛料をぶっかけて味を変えていく、そういう行為を繰り返している最中ですね」と笑う。おそらくこれからも、「何をしでかすか分からない」存在として、視聴者を驚かせ続けるに違いない。そう確信させる笑顔だった。
 
 ドラマスペシャル「最上の命医2019」は、10月2日午後9時に放送。

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