海に眠るダイヤモンド
最終話後編(10話)記憶は眠る
12月22日(日)放送分
俳優の長谷川博己さんが主演を務めるNHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」。3月29日放送の第11回「将軍の涙」では、タイトル通り、将軍・足利義輝を演じる向井理さんの静かな熱演が話題となった。同回の終盤、自分の力不足ゆえ、平和をもたらすことのできないことへのふがいなさと諦観をにじませつつ、王が仁のある政治を行うときに必ず現れるという聖なる獣「麒麟」について語るシーンで、約2分間にわたる長ぜりふによって、主人公の光秀(十兵衛、長谷川さん)だけでなく、視聴者にも「道」を示したといえる。
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第11回「将軍の涙」では、再び今川が尾張に攻め入り、次々と織田方の南部の領地を制圧。ついに非力ぶりを露呈した信秀(高橋克典さん)は、斎藤道三(本木雅弘さん)に援軍を頼むが、高政(伊藤英明さん)や稲葉良通(村田雄浩さん)らが尾張との和議を独断で決めた道三を糾弾しており、美濃は一枚岩ではなかった。
兵が出せない理由を尾張に伝えにいく光秀。このままでは人質同然の帰蝶(川口春奈さん)が犠牲になってしまうことを恐れていると、かつて京の将軍家の取りなしで美濃の内紛が収まったという話を思い出す。光秀は道三に将軍家への取りなしを依頼しに戻るも、金がかかると難色を示す。そこで、高政の取りなしで守護の土岐頼芸(尾美としのりさん)のもとを訪ねる。
その後も織田と今川の戦を止めようと奔走する光秀は偶然、宿を共にした細川藤孝(眞島秀和さん)の手引きで、義輝に拝謁する機会を与えられる。義輝は光秀への信頼を示すと、父・義晴から子供のころに聞かされた好きな話として、「麒麟」について語り始める……という展開だった。
義輝は「強い子になれ。声は大きく、よい耳を持ち、よく学べ。さすれば立派な征夷大将軍となろう。世を平らかにできよう」と始まると、「さすれば、麒麟がくる。この世に麒麟が舞い降りる」とタイトルを回収。さらに、「この世に誰も見たことのない麒麟という生き物がいる。穏やかな世を作れる者だけが連れてこられる、不思議な生き物だという。わしは、その麒麟を連れてくることができぬ。無念じゃ」と涙をこらえながら、「麒麟」がいかなる生き物なのかを、きっちりと説明した。
それよりも以前、駒(門脇麦さん)が光秀の前で「麒麟」について語るシーンがあったが、“悲劇の剣豪将軍”義輝の言葉だけに、「重さ」は倍増。高貴で美しい向井さんの容姿と涙、静かな熱演も相まって、大いなる説得力を持って「麒麟」の話は視聴者の胸に刻まれたはずだ。
この日の最後のせりふは、義輝の光秀に向けた「十兵衛、麒麟がくる道は遠いのう」だった。奇(く)しくも、同回をもって全44回のドラマはちょうど4分の1が終了。起承転結の「起」のラストを義輝による見事なまでのタイトル回収で締めくくった形だ。どれほど「麒麟がくる道は遠い」のか……。今後の展開にも大いに注目したい。
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