わたしの宝物
第6話 生まれ変わったら本当の親子になれるかな・・・
11月21日(木)放送分
窪田正孝さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」(総合、月~土曜午前8時ほか)で、窪田さん扮(ふん)する主人公・古山裕一の弟・浩二を演じている若手俳優の佐久本宝さん。5月4日放送の第26回では、自分の夢へと進もうとする兄に対して長年たまっていた怒りをぶつけるシーンで、強い存在感を示した。現在21歳の佐久本さんは果たしてどんな俳優なのか。これまでのキャリアを振り返り、ひもといてみた。
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佐久本さん演じる浩二は、福島で老舗呉服屋「喜多一」を営む古山家の次男として生まれた。兄の裕一が母・まさ(菊池桃子さん)の兄である権藤茂兵衛(風間杜夫さん)の養子になる話が出たことにより、「喜多一」を継ぎ、傾きかけている家業を立て直そうとする責任感の強い男だ。
それだけに、夢を追い続ける兄の自由奔放さや、長男としての自覚を認識していないことに対しての怒りが爆発し、裕一に「兄さんが嫌いだ」と面と向かって言ってしまう。
古山家の中で、卑屈さという負の感情をずっと持ち続ける浩二。ある意味、一人浮いた存在でいる役柄のため、見る人によっては、彼の存在に対して、違和感を覚えるかもしれない。そんな難しい役を、「浩二の気持ち考えたら、こういう態度になるよね」と感じさせてくれるほど、“卑屈さ”をリアルに演じている。
佐久本さんは、2016年に公開された映画「怒り」で、広瀬すずさん演じる沖縄に引っ越してきた少女・泉に恋心を抱きながらも、乱暴されている泉を助けることができず、破滅していってしまう純朴な沖縄の少年・知念辰哉を演じた。
「怒り」の李相日監督が、佐久本さんの出演舞台を見て、オーディション参加を促し、見事1200人の候補者の中から選ばれたという逸話もあるが、劇中では人間の持つ美しさと狂気性を全身で表現し、そうそうたる俳優たちが出演する作品の中で、大きなインパクトを残した。ちなみに本作で、第40回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞している。
李監督と言えば、妥協しない演出で、どんな大物俳優でも納得しなければテークを何度も繰り返すことでも有名。そんな監督のもと、善悪の本質までとことん向き合うような深く重い役柄を演じた佐久本さんだったが、K-POPアイドルを目指す男子高校生たちの青春を描いた連続ドラマ「KBOYS」(ABC、2018年)では、K-POPアイドルさながらのメークに金髪という姿で、自身と同じ沖縄出身の青年・比嘉海斗役を演じた。比嘉は、「いろいろやっていこうぜ!」が口癖で、メンバーの中でもお調子者という「怒り」とは全く違うキャラクターを好演した。
さらに2019年放送の連続ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)でも、クラスの中心的なグループの一員で、けんかっ早く調子がいい高校生を演じると、同年の香取慎吾さんの主演映画「凪待ち」に、主人公・郁男のパートナーとなる女性・亜弓(西田尚美さん)の娘・美波(恒松祐里さん)の高校の同級生役で出演。朝は漁港で働く真面目な部分と、学校では煙草を吸おうとするなど不良的な面を併せ持った、やや陰の趣を持つ金髪姿の少年として、美波を無理矢理連れて帰ろうとする郁男に突っかかってメンチを切り合うなど、少ないシーンで強い印象を残した。
作品ごとに違った顔を見せる佐久本さん。「KBOYS」出演時の取材では、同世代の仲間たちと歌とダンスを熱を持って練習し、チームワークが良くなっていく様子を興奮気味に語る姿が印象的だった。また、インタビュー終了後の写真撮影のときに「怒り」での演技についてや、その後も出演作品が続いていることへの感想を伝えると、「すごくうれしいです」と顔をくしゃくしゃにして笑ってみせるなど、愛らしい部分ものぞかせ人間的な魅力にあふれていた。さらに、もっと役柄に向き合い、作品の中で役を生きることへのあくなき向上心を自ら語るなど、俳優としての姿勢にも感嘆したことを覚えている。
「エール」では、裕一の振る舞いを強く非難した浩二。そして、裕一は、第6週「ふたりの決意」の最後で、家族の反対や周囲の非難を受け止めつつ、自分の夢のため、東京に旅立ってしまった。今後、浩二は裕一に対してどんな行動をとっていくのか……。佐久本さんの劇中での活躍にも引き続き注目したい。(磯部正和/フリーライター)