俳優の伊藤健太郎さんが出演する、人気グループ「King & Prince」の永瀬廉さん主演の映画「弱虫ペダル」(三木康一郎監督)が8月14日に全国公開される。伊藤さんといえば、今年3月まで放送されていたNHK連続テレビ小説「スカーレット」や、柴門ふみさんの同名マンガを約29年ぶりに再ドラマ化した連続ドラマ「東京ラブストーリー」(FOD)など話題作への出演が続いている。伊藤さんに今作の撮影エピソードやブレークの実感、自身が目指す俳優像などについて聞いた。
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今回、映画初の実写化となる「弱虫ペダル」は、渡辺航さんが2008年からマンガ誌「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載中の人気マンガが原作。運動が苦手でアニメ好きな少年、小野田坂道が千葉県の総北高校に入学し、自転車のロードレースと出会い、自転車競技部の仲間と共にインターハイ優勝を目指す姿を描いている。アニメ、舞台、ドラマ化もされている。映画で伊藤さんは、永瀬さん扮(ふん)する坂道と同じ部のエースでクールな今泉俊輔役を演じている。
伊藤さんは、原作がある作品に出演する際、「あえて原作を意識しない」という。その理由を「生身の人間で演じることの意味を出したい」と説明する。「もちろん原作へのリスペクトを込めた上での話ですが、僕らは息遣いとか汗だったり、せりふとせりふの間や、マンガでいえばコマとコマの間を表現できる。そこをすごく大事にしたいし、何より演じながらマンガの中にある世界を飛び越えられる瞬間が好きなんですよね」と語る。
「スカーレット」では陶芸に挑戦した伊藤さんだが、今作では他のキャストと共にロードバイクに挑戦。劇中には“激坂”を上るシーンもあり、クランクイン前にハードな練習を重ねて撮影に挑んだ。伊藤さんは「何回も心折れそうになるくらい、本当にめちゃくちゃキツかった! カットがかかった瞬間は倒れ込んですぐ酸素(吸入)でした(笑い)」と振り返る。
「撮影中はただがむしゃらに走っていたので、どう映っているのか考える余裕もなかったんですけど、アフレコで出来上がったシーンを見たときには、良い意味でめちゃくちゃ鳥肌が立ちました。目頭が熱くなる瞬間もあったりして、アフレコでそういう感覚になったのは初めてでしたね」と感慨深げに語る。
伊藤さんは、芝居において「自分でできることはなるべく自分の力でやりたい」といい、「仕上がりを見て、自分でできる限りのことをやるってすごく大事だなと改めて思ったんです。やっぱり画面から伝わるものだし、役を演じていく上でのモチベーションにもつながるので」と“役者魂”を見せていた。
主人公の小野田坂道役の永瀬さんと、鳴子章吉役の坂東龍汰さんとは、今作の撮影を共に駆け抜けた。伊藤さんは、主演の永瀬さんについて「細い体で必死に食らいついて頑張る永瀬君の背中を見て、演者もスタッフも気持ちが高まっていたと思います」といい、「“座長”として引っ張ってもらった」と感謝する。
また、「永瀬君は『映画とかドラマの経験がまだまだだから、不安な部分がある』と言っていたんですけど、実際に現場で一緒にお芝居をさせてもらって、すてきな俳優さんだなと思いました」と話す。「僕は三木さんと『東京ラブストーリー』でご一緒させてもらいましたが、結構思ったことを口に出す方なので、最初は(言葉が)グサグサ刺さりました。だから、『永瀬君は大丈夫かな』と思っていたんですけど、三木さんからの指示に対して、とても素直に『やってみます』と応えていて。真摯(しんし)に向き合う姿が印象的でした」と称賛する。
坂東さんについては「ちょっとうるさい人ですね(笑い)」と冗談めかしながらも、「本当にムードメーカーで、イジられキャラみたいな役回りをやってくれていました。坂東君をイジることで皆の距離が近くなっていったところもありましたし、現場を盛り上げてくれて助かりました」と語る。演技面では「自分でこうしたい、ああしたいっていうのを積極的に提案していた」といい、「鳴子としての姿を一生懸命探っていて、お芝居が好きな方なんだなと感じました」と坂東さんの熱さを表現していた。
現場での伊藤さん自身は、「僕はもう本当に自由にやらせてもらっていました」という。「『今日から俺は!!』の現場では、僕がイジられていたんですけど、今回は坂東君がそのポジションになってくれたし、主演として背負わなきゃいけない部分は永瀬君が担ってくれていたので、僕は何も気にせず……(笑い)。ただ、今回は共演経験のあるキャストが多かったから、初めての方ばかりだという永瀬君との橋渡し的な役割ができたらいいなとは思っていました。でも、永瀬君はすぐになじんでいて、全然心配する必要はなかったですね」と笑顔で語る。
話題作への出演が続く伊藤さん。それでもブレークの実感はないといい、「ありがたいことにそう言っていただけることは増えましたが、僕の中では何も変化がないんですよね」とあくまで自然体だ。「メークを落として私服に戻った瞬間に、自分が俳優だということを忘れてしまうんです」といい、さらに「家に帰ってテレビをつけたときに自分が映っていたりすると、『うわ、俺だ』ってうれしくなります」と“売れっ子”ながらもまったく飾らない。
伊藤さんといえば、演じるキャラクターが実在するように感じさせる“普通っぽさ”も魅力の一つ。「東京ラブストーリー」の清水一幸プロデューサーは、伊藤さんについて「“普通に見せる演技”は演じようと思ってもなかなかできるものではありません。体形を含めた雰囲気など、すべてが彼の“味”」と評している。
“普通っぽい”という評価について、伊藤さん自身は、「普段からそう言われることも多いし、実際僕は普通なので(笑い)。『普通』って言われることに対しては、特に何も思わないですね」と明るく語る。続けて「僕の仕事のジャンルがたまたま俳優だっただけで、仕事をしているという意味では他の職種と変わらない。『芸能人』『一般人』っていう区別もないし、あまり気にしていないです」と率直な思いを明かした。
さらに、プライベートは地元の友人たちと過ごす時間が多く、中でも高校時代に仲良くなったという親友からは刺激をもらっているという。「お互い負けず嫌いで、何かやるたびに、あいつより楽しみたい、あいつより良い仕事がしたいと、ちょっと競うような気持ちがある気がします。特に口に出して何かを語り合うわけではないですけど、向こうも同じことを思っているんじゃないかな」と深い絆を感じさせるエピソードを語った。
ブレークの実感がないという伊藤さんに、改めてどんな俳優を目指しているのかと尋ねると、「どんなイメージでもいいから、人の記憶に残りたい」という答えが返ってきた。
そう感じるようになったのは中井貴一さんの存在が大きかったといい、「小さい頃に、家族が『ふぞろいの林檎たち』というドラマを見ていて。僕は当時、幼稚園児だったので内容は覚えていないのですが、なぜか中井貴一さんのことだけはずっと覚えていました。自分が俳優の仕事を始めてから、それって実はすごいことだと気づいたんですよね」ときっかけを明かす。
「たとえ僕が明日死んだとしても、誰かが僕のことを覚えていてくれたら、それはまだ死んだことにはならないと思っているんです。人間が本当に死ぬ時は、その人を知っている人が誰もいなくなったときなんじゃないかな。だから、僕も誰かの心の中で“生き続けられる人”になりたいです」と力強く語った。
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