佐藤浩市:主役として「“高倉健さん”にならなければ」 映画「サイレント・トーキョー」現場リポート

佐藤浩市さん(中央)らが出演した映画「サイレント・トーキョー」のメーキングカット (C)2020 Silent Tokyo Film Partners
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佐藤浩市さん(中央)らが出演した映画「サイレント・トーキョー」のメーキングカット (C)2020 Silent Tokyo Film Partners

 俳優の佐藤浩市さんが主演する映画「サイレント・トーキョー」(波多野貴文監督、12月4日公開)の撮影が、2019年11月に東京都内で行われた。連続爆破テロ事件の容疑者・朝比奈仁を演じる主演の佐藤浩市さんは「主役らしい役ではないので、主役としてどうやって成立させようかという部分と、出番が少ない中での重さの持たせ方などは監督と話し合いました」といい、今作が「いい意味での怪作になるためにどうしたらいいかを考えたとき、僕は少ない出番の中で“高倉健さん”にならなければならないと思いました」と語っている。

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 映画「サイレント・トーキョー」は、ジョン・レノンの名曲「Happy X-mas(War Is Over)」にインスパイアされた、秦建日子さんの小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」(河出文庫)が原作。クリスマスイブの東京で連続爆破テロ事件が発生し、事件に巻き込まれていく登場人物たちの思惑を複数の視点で描く。

 この日、撮影されたのは、事件の始まりを知らせる「第一事件現場・恵比寿」のシーン。同シーンは2日間にわたり撮影が行われ、買い物の途中で爆破事件に巻き込まれる主婦・山口アイコ役の石田ゆり子さんや、犯人に仕立てられるテレビ局契約社員の来栖公太役の井之脇海さん、来栖の先輩のテレビ局社員・高沢雅也役の金井勇太さんらも参加した。高さ最大12メートルにもなるクレーンカメラも導入され、エキストラは2日間で延べ400人が参加するなど大規模な撮影となった。

 佐藤さん演じる朝比奈は、アイコと来栖、高沢が爆破テロに巻き込まれ、人々がパニックに陥る中、一人だけ冷静に事件現場を後にし、爆弾騒ぎに群がる野次馬にまぎれて意味深に言葉をこぼす。

 佐藤さんはこの日、衣装に着替えて撮影現場に姿を現すと、全体が見渡せる場所に立ち、監督やスタッフと入念に打ち合わせを始めた。カメラ位置、自身の目線の動きなどの細かい確認をした上で、クリスマスのきらびやかな雰囲気と、静かに忍び寄る狂気が混在する今作の世界観に満ちた現場内を、カットがかかるたび、くまなく歩き回った。ひとたび撮影が始まると、カメラに映し出される姿はもちろん、カメラフレーム外でも、その静かなたたずまいで、疑惑の人物としての圧倒的な存在感を醸し出していた。

 今作は関東近郊の各地で大規模ロケを行っており、渋谷のスクランブル交差点を再現したセットの撮影では、エキストラ延べ約1万人を導入。同作の阿比留一彦プロデューサーは、「5億円以上の製作費をかけている」と明かし、「今できうる最大限のお金を集めて、しっかりと大作を作っていこうという形が作れている」と手応えを語っている。

 ◇佐藤浩市さんのコメント

 ――波多野組は初参加だったかと思いますが、いかがでしたか?

 波多野さんが演出をしていた(WOWOWのドラマ)「コールドケース」でプロデューサーも顔なじみだったので、シリーズの1話分だけゲストで出演させてもらったんです。そのときに初めて波多野さんとご一緒したのですが、そのときのご縁があっての今回だったんですよね。

 ――主役ということでゲスト出演の時とは雰囲気が異なったかと思うのですが、監督と今回はどんなお話をされましたか。

 正直言って主役らしい役ではないので、主役としてどうやって成立させようかという部分と、出番が少ない中での重さの持たせ方というか、そういうものがお客さんの中にどういうふうに残るかなっていうのは監督と話し合いました。

 小説のキャラクター設定から変わっている部分についても。原作からあえて変えているということも含めて、どうやって整合性を取らせるのかというディテールについては監督と結構話をしました。

 ――具体的にどんなところのディテールを深めていきましたか。

 正直言って戯曲って、舞台だから成立する大きなうそであって、舞台上と客席との距離だと成立するうそが、映像というある種のリアリズムになると、ちょっと難しさを伴うことが多々あるんですよね。それは三谷幸喜監督の作品でも同じことがいえるし、今回のこの作品にも結構、そういった難しさがありました。その部分ですよね。それをふっ飛ばしてでも走るという、ある意味、いい意味での怪作、怪しい作品になってくれればいいなと思っています。怪作になるためにどうしたらいいかを考えたとき、僕は少ない出番の中で“高倉健さん”にならなければならないと思いました。

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