小栗旬:「いつかハリウッドに行く!」小学生時代の夢がかなった 「ゴジラvsコング」出演秘話も

映画「ゴジラvsコング」に出演した小栗旬さん
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映画「ゴジラvsコング」に出演した小栗旬さん

 俳優の小栗旬さんのハリウッド初進出となる「ゴジラvsコング」(アダム・ウィンガード監督)が、7月2日に公開された。今作はハリウッド版「ゴジラ」シリーズと「キングコング:髑髏島の巨神」がクロスオーバーした「モンスター・ヴァース」シリーズの第4弾。今作で小栗さんは、ハリウッド版「ゴジラ」シリーズ前2作に登場した芹沢猪四郎博士(渡辺謙さん)の息子・芹沢蓮を演じている。小栗さんに、出演シーンや苦労話、小栗さんから見て”無双”だと感じる俳優や、自身の今後について聞いた。

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 ◇白目をむくシーン、試しにやってみたら「旬、それだよ!」

 小栗さんは、今作の見どころについて「二大怪獣のバトルシーンはただただスカッと爽快でワクワクするし、“因果応報”じゃないですが、物語の根底には『人間のエゴイズムが地球を怒らせる』というテーマもしっかりあるところが面白い。僕らが日常生活を送る上で、地球環境についてそこまで視野を広げて考えることは難しいけれど、そういった問題意識も映画として伝えながら、エンターテインメントして作り上げていけることは、とても意義深い」と話す。

 白目をむくシーンが印象的だが、「白目(の演技)は、監督から『いくつかパターンを見せてほしい』と言われて、試しにやってみたら『旬、それだよ!』ってすごく喜んでくれて。日本人の観客の中には『小栗旬、アメリカまで行って何、白目むいてるんだ』って思う人もいるかもしれないけど……」と笑顔で語る。

 自身の出演シーンについて、「自分ではもっと少ないと思っていたので、完成した作品を見た時は『意外と(カットしないで)使ってくれたんだな』と思いました」と振り返る。また、「(ハリウッドに)一度参加したくらいで知ったかぶりができるような状況でもないし、『この経験によって人生が変わりました!』なんていうことも全くない」としながらも、「子どもの頃から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ゴースト・バスターズ』『グーニーズ』といったエンタメ作品が大好きだった」という小栗さんにとって、「ゴジラvsコング」のようなエンタメの王道である作品に出演できた感慨はひとしおだったようだ。

 「それこそ僕は『いつかハリウッドに行く!』みたいなことを目標に掲げているような小学生だったから、(その頃の)“小栗少年”に対しては『こんなことが起きたぞ!』『やったじゃん、お前!』って言ってあげたいところはあります。大人になるとなかなか素直に喜べなくなったりするものだけど、でも普通に考えたら結構すごい出来事だと思う」と自己評価する。

 さらに「なぜ自分はこの仕事をやっているのかといえば、決して『慣れる』ことがない仕事だから続けられているんだと思う」と話し、「どちらかというと飽き性なタイプの自分にとって、知らない場所に行くことはものすごく刺激的だし、今回はそれがたまたまハリウッドだっただけで、いつか韓国や中国などアジアの作品にも出てみたいです」と意欲を燃やす。

 ◇日本の方言でも難しいのに… ネーティブ英語に苦労

 また、ハリウッド映画初挑戦となった今作について、小栗さんは「なかなか思い通りにはいかずに苦しかった」と振り返る。「撮影に向けてできる限りの準備をして臨んだつもりですが、それでも自分の英語力は(英語圏の)子供くらいで(苦笑)。にもかかわらず、演じた芹沢蓮は英語がネーティブ並みに話せるという設定で……。それこそ当時15歳だった(共演の)ミリー(ミリー・ボビー・ブラウンさん)に、『旬、英語の何がそんなに大変なの?』って聞かれて、『いやー、俺にとってはすべてが大変なんだよねえ』なんて言うと、『えー? 英語なんか全然大変じゃないけど……?』って返されて。『じゃあ、一回日本語覚えてみろよ!』って思わず言いそうになりました」と苦笑する。

 特に苦労したのが「サーモン」の発音だという。「Like spawning salmon(鮭の産卵のように)」というせりふがあるんですけど、何度やっても『ごめん旬、今のはサーモンには聞こえない』って言われて。途中からもう自分では何が違うのか分からなくなってきて、そのせいでしばらくサーモンが嫌いになったくらい(笑い)。正直、日本語ですら関西弁を話す役柄を演じるときはどれだけ練習しても“えせ関西弁”と言われてしまうくらいなんだから、英語でネーティブを演じるなんて難しいに決まってますよね!(笑い)」と苦労を明かす。

 ◇謙さんに続き、言語を超える芝居の説得力を目指したい

 “父”芹沢猪四郎博士を演じた渡辺さんへのスタッフからの声に驚いたという。「『謙の英語はもう“ケングリッシュ”だ』『謙の言い方だと納得させられる』って、(現地の)皆が口々に言うんです。芝居に説得力が生まれさえすれば、言語さえ超えられる。その境地にたどり着くのは、本当にすごい。自分の実力では今回、そこまでは至らなかったけれど、やるからには、いつかそういうものを作り出していけたらと思う」と前を向く。

 役作りについては「“全然準備してない振りをして、実はちゃんとやっている”っていうのが僕の理想ではあるんですけどね」と理想を掲げる。

 ◇怒りの灯が消えた時が俳優として終わるとき

 2007年に放送されたドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、小栗さんが主演した舞台「カリギュラ」の初日に向けて、自らの中に怒りのエネルギーを沸々とため込んでいる様子を映し出していた。小栗さんは、ハリウッド進出をかなえた現在でも「言語化できない怒りのようなものがずっとある」と言い、「世の中に対する怒りではなく、常に自分自身に向かっている怒り。その怒りの灯(ひ)が消える時がきっと俳優として終わる瞬間のような気がするので、それがある限りはやり続けるしかない。『いつか主役をやってみたい』という願いはかなったものの、決して満足し切れていないところが、俳優としての原動力になっているのかもしれない」と自己分析する。

 今では「小栗さんのようになりたい」と憧れる若手俳優も多いが、本人は「いやあ、俺を目標にしているくらいじゃダメだよって思いますけどね(笑い)。楽しいことも増えるかもしれないけど、その分、苦しいことも多いから」と謙虚さを忘れない。

 自身は「あまり具体的な目標を持たないようにしている」というが、「あえて(目標を)掲げるとするなら、『世界的な作品の主要キャストに入ること』になるのかなあ。チャンスの足掛かりはおぼろげながらも今回見えたところもあるので、チャンスが来たときにはチャレンジするのみです」とあくまでも前向きに語る。

 ◇「ど真ん中に居続けても意外と声は届かない」 目指すは“役所無双”!?

 その一方で、俳優業のみならず、映画監督としての顔も持つ小栗さんに、今後の展望を聞いた。

 「組織の構造を変えるのって、なかなか難しいじゃないですか。中にはものすごく情熱的なプロデューサーもいらっしゃいますけど、組織に属している以上、例えどんなに僕がその人と良い関係を作れても、ちゃぶ台をひっくり返されることもある。そんな時でも『僕らにできることってなんだろう?』と考えた時に、もしそれがゼロから自分たちで立ち上げた企画であるならば、エゴを貫き通せるはず。そういう意味では作品規模の大小にかかわらず、自分自身で責任が取れる立場で、やりたいことができる環境を作りたい。例えば、同じ志を持つ仲間を集めて制作会社を立ち上げたりしたら、また今とは少し違うことが起きたりするのかなって思うこともあります」

 さらに、小栗さんは「演劇は一生続けていきたい」という思いはあるものの、俳優として第一線で活躍し続けることには「それほどこだわっていない」と明かす。「少し前までは『ど真ん中に居続けない限り、自分の発言は届かない』と思っていたんだけれど、ど真ん中に居てもそれほど届かないってことが分かった(笑い)。となると、ちょっと方向性を変える必要があるのかなって。それこそ自分がどんなにど真ん中に居続けたいと思っても、お客さんに求められなくなってしまったら、そこで終わりなわけじゃないですか。求められたいなら、ずっと供給し続ける必要があって、それに応えられる自信もないし、それは僕が求めていることとは少し違うと感じます」と語り出した。

 小栗さんが思う「“求められている人”とは?」と尋ねると、しばらく考えてから、「この前、役所広司さん主演の映画『すばらしき世界』(西川美和監督)を見たんですけど、『やっぱり役所さんは”無双”だな』と実感したんです。俳優仲間とも『役所さんは芸名を“役所広司”じゃなくて“役所無双”に変えたほうがいい』って話していたくらいで(笑い)。あの人を見ていると『やっぱり人間って面白いなあ』と感じるし、映画だろうが、ドラマだろうが、『役所広司が出るなら見たい』と観客に思わせられる力がある。役所さんの年齢になるまで自分にはまだ数十年あるわけだから、いつかあんなふうになれたらいいなと思うけれど、どこか自分の場合は別の方向性を模索する必要があるような気もしていて……」とまだまだ発展途上のようだ。

 そんな小栗さんにとって、最近のプライベートでの楽しみは……? 「ゴルフ! 3年くらい前に始めたんですが、できることならゴルフだけしていたいです」と笑う。また、家庭と仕事については、「うちのオヤジは仕事ばかりしていたから、僕ら兄弟は小さい頃にオヤジと一緒にいた記憶がほとんどないんですよ。そういう意味では、自分はどこか反面教師にしているところもあるのかもしれない。でも、いざ『仕事と家族のどちらを取るか』と言われたら、よほど家族が危機的な状況でない限り、僕も仕事を優先してしまうような気がします」と公私共に充実した様子で語った。

 (取材・文・撮影/渡邊玲子)

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