ライオンの隠れ家
最終話 僕たちの新しい始まり
12月20日(金)放送分
東京・大島を舞台にした、女優の片桐はいりさんが主演を務める“島ドラマ”「東京放置食堂」(テレビ東京ほか、水曜深夜1時10分)が、「癒やされる」「面白い」とSNSを中心に話題を集めている。東京から120キロ離れた太平洋に浮かぶ大島は、大自然にあふれており、そのゆったりとした空気感が映像に映し出されている。今回、58歳で連ドラ初主演を果たした片桐さんに、今作にかける思いを聞いた。
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片桐さん演じる主人公の真野日出子は、曲がったことが大嫌い。裁判官として多くの被告人を裁き、更生させてきたが、仕事に疲れて退官した。「究極の現実逃避」の最中に訪れた大島で、居酒屋「風待屋」を営む若い店主と島名物のくさやを通し、第二の人生の扉を開く様を描く。島のおいしい料理も紹介する。「風待屋」店主の小宮山渚役で工藤綾乃さん、島民役で与座よしあきさん、松川尚瑠輝さん、梅垣義明さんも出演する。
この日の取材は、大島にいる片桐さんとリモートでつないで行われた。「撮影現場はものすごくせわしなく大変なんですけど、(大島の)ゆっくりした時間の中にいるとすごく気持ちが良い」と笑顔を見せた片桐さん。今回のオファーについて、「主演というのがよくわからなくて。何かの間違いかなと思った」と振り返りながら、「上り詰めた、みたいな気持ちはないんです(笑い)」と率直な思いを明かす。
第1話では、日出子が「会社の部下のこと、どれだけ知ってる?」とゲスト出演した近藤公園さん演じる水科繁に説教する場面が登場したが、セリフを言いながら、「私、スタッフの名前をわかっているのかな?」と感じたという。舞台では座長の経験を持つ片桐さんだが、今回はスタッフの人数が多く、「“照明さん”ではなく、“海に潜るのが好きな田村さんね”とか。セリフを覚えるように大変でした(笑い)」と苦労も明かす。
日出子には、同じ50代の女性として共感する部分もあった。「仕事にいちずに生きていた女として、『定年まであとちょっとある。結構頑張ってきたけど、限界だよ』みたいな気持ち、なんとなくわかるような気がして……」と思いを明かす。
ドラマは、大島で撮影され、自転車に乗った片桐さんが気持ちよさそうに坂を下る場面もたびたび登場する。昨年の自粛期間をきっかけに、自転車に乗ることがストレス解消法になった片桐さんは、「自転車に乗っているところが最高に楽しい! 大島に行くたびに、『ここも自転車で走りたい!』と監督に言うんです。そういう道がいっぱいあるすてきなところ」と魅力を語り、「森からいきなり海がばーっと出てくる、みたいなところばかりなので気持ちがいい。開放感を味わっていただけたらうれしいな」と話す。
行きつけの場所といえば「映画館」というほど、映画好きな片桐さん。40~50代の女性が主人公の作品が少ないと感じてきた。「男の人や、きれいな可愛い女の子ばかりではなくて、そうじゃない人たちが七転八倒しているところを見てみたいと常々思っていた。海外のものだったらあるのにな、と思いながら映画やドラマを見ている部分が大きかった」と明かす。
そんな中、50代でドラマ主演に抜てき。「50代の人が主演する仕事って、そんなにいただけるものじゃないと思います。生意気ですけど、ちょっとずつそういうふうにしておかないと(今後)面白いことが起こらないよねという気持ちはありました」と率直な思いを明かした片桐さん。
「逆に言えば、これで失敗して『やっぱりダメだ』と言われてしまったら困るので、今なんとかしないといけないと一生懸命やっています」
ドラマが放送されると、視聴者からは「『東京放置食堂』見て、伊豆大島行きたくなってる」「心がほっこりするドラマ」「ふと『かもめ食堂』を思い出した」などの意見が上がった。
2006年公開の映画「かもめ食堂」(荻上直子監督)では、小林聡美さん演じるサチエさんから声をかけられ、一緒に食堂を手伝うことになったミドリを演じた片桐さん。その後も数多くの作品で独特の存在感を示してきた。片桐さんが演じるからこそ、さらに魅力的になったキャラクターも多いのではないだろうか。
そんな片桐さんが、演じる上で大切にしていることはどんなことだろうか。「この人おかしいよね、変だよね、と自分が思えるかどうか。隙(すき)みたいなものがないと、演じることはできないなと思っているところがあります」と明かす。愛情と同時に、“おかしみ”を感じることを意識して作るようにしている。
「片桐はいり一人芝居 ベンチャーズの夜」(1994年)などでタッグを組んだ劇作家で俳優の岩松了さんからは、「自分の見た目と声だけ信じとけよ」と言われたことがある。今まさにその言葉を信じているという片桐さんは、「きれいに映らないのはしょうがない。この見た目を信じる、出てくる声を信じるしかない、という気持ちでやっています」と話す。
最後に、片桐さんは「都会から1時間45分ぐらいのところに、(大島での)こんな暮らしがあって。週の半ばに、そういう空気を感じていただけたら」と語りながら、「『ちょっと(仕事などを)休めば、あそこにいけるんだ』と思う場所があることって、なんとなく重要というか……。気持ちのどこかに置いておく場所になったらいいなと思っています」と呼びかけた。
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