ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
アニメ「夜明け告げるルーのうた」「映像研には手を出すな!」などの湯浅政明監督が手がける劇場版アニメ「犬王」が5月28日に公開される。これまで独創的、唯一無二の映像表現で見る者を驚かせ、魅了してきた湯浅監督が、「犬王」では室町時代を舞台としたミュージカルアニメに挑戦した。「集大成的な作品」になったという「犬王」について、湯浅監督に聞いた。
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「犬王」は、作家の古川日出男さんが「平家物語」を現代語訳した「平家物語 犬王の巻」(河出文庫刊)が原作。室町期に活躍し、世阿弥と人気を二分した能楽師・犬王、盲目の琵琶法師・友魚の友情が描かれる。マンガ家の松本大洋さんがキャラクター原案、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」などの野木亜紀子さんが脚本を担当。ノイズやフリージャズなど実験音楽シーンで活躍する音楽家で、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」などでも知られる大友良英さんが音楽を手がけるなど豪華スタッフが集結した。
昨年11月、第34回東京国際映画祭で「犬王」が上映された際、湯浅監督は「もっとみんなに踊ってほしい。試写を後ろから見ていて、なんでみんな(体が)動かないんだ!と思っていました」と語ったことがあった。
「音楽に乗るのが好きなんですよね。海外の映画祭でも、みんな乗るのかな?と思ったら、意外に乗らなかったり。もっと動くと思っていたんですよ。自分は、コンサートでも座っているのが嫌なんですよね。足でリズムを取る。上半身というよりも足が動いてた方がいいですね。みんな、もっと動けばいいのに……といつも思うんです。ワーッと盛り上がって、バラードになるとみんな、座るじゃないですか。バラードでもリズムを取りたくなるんです。どんなリズムでも乗れるんですよ。スーパーで鳴っている音楽にも乗れるので。だから、『犬王』も本当はスタンディングで見てみてもらいたい。難しいと思いますが…」
「犬王」は、音楽やダンスにある根源的な衝動、欲望、感動などが描かれているようにも見える。
「これだけ踊っているアニメはなかなかないんじゃないかな。描くのも大変ですし。脚を動かすのがダンスだと思っていて、脚を動かすことは重力と関係してるので、変に描くとウソっぽくなってしまうんです。なので作画頼みのところはあります。近年、作画のハードルを低くする傾向があったのですが、『犬王』に関してはハードルを少し上げました。逃げられない、覚悟を持って作りました。『犬王』がそういうお話ですから」
「自分の名前を自分で決める」というのがテーマの一つになっている。
「名前=人、自分の生き方みたいなところがあって。野木さんが脚本にする時に、そこをもっとメインにしようと考えました。最初に付けられた名前は宿命みたいなもの。宿命から逃れ、名前が変わり、自分がなりたいものへの決意表明でもあるんです。友魚は、寂れた壇ノ浦で生きるのが彼の人生、宿命だったけれど、琵琶を覚えたことによって、違うものになっていく。本当になりたい自分になるために名前を付けるんです。犬王は異形として生まれながら、すごく明るくて、宿命に左右されない存在です。そこが面白いと思いました。自分たちが日頃生きてる中で、理屈として、こうにしかならないと思っていても、そうじゃないこともあって、やってみればできることもあります。そういう縛り、宿命に対してもっと自由でいいんじゃないかな?という気持ちがありました。だから、名前の変化を強調してるところがあります」
犬王の表現は最初、粗削りなところもあるが、そこが魅力だったりもする。段々、洗練されていく中で、粗削りな部分を失ったりもする。湯浅監督は、犬王に共鳴するところもあったのではないだろうか?とも感じる。
「犬王の素直で明るいところに憧れることもあります。僕は大変な状況でも、楽々とやっている感じできたんだけど、それが限界になった頃に犬王に出会った。大変でも、好きなことをやりきっちゃうところに、憧れますね。僕もそういう人になりたいけど、余裕を失っていたかもしれない。ウソをつけなかったりしますし。古川さんに話を聞いた時に『初期衝動を忘れていく不安がある』ということを言われていました。犬王は、本当に楽しいから踊りたい、それを見せたい。ただ、生きていくために、うまくやるための手段ができて、手段の中に紛れていき、初期衝動を失っていくんです」
初期衝動を失いたくはないが、多くの人に楽しんでもらいたいという気持ちもある。
「ヒットしたいって気持ちはあります。だから、何かに寄っていく感じがあるんですよね。魂を売るようなことはないですけど、自分の持ってるものでできるだけ寄っていこうとする。ただ、みんなが納得するものを作ろうとしても、ヒットしないこともあります。バランスだと思うんです。本当に自分のやりたいものを作品にどういう形で入れていくのか?と考えるきっかけにもなりました」
絶妙なバランスで完成した「犬王」は湯浅監督の「集大成的な作品」になった。
「多分こういうことをやったら、みんなが好きじゃないんだろうな……ということも素直にやっています。初心に帰りつつ、今まで培ったものを入れて、集大成的な作品になっていると思います。みんながどう見ているのか?も考えないといけない。でも、小手先じゃダメなんでしょうね。みんなが喜ぶものを作りたい気持ちもある。みんなが喜ぶものとつながるところを探してるんですけどね。人を選ぶ、癖が強いと言われることもあるけど、人を選ぶとは何だろう? 癖って悪いことなのかな?とも思います。何が普通で、何が普通じゃないのか?と考えてしまいますし。圧迫から解放されたいっていう気持ちが、若い頃からずっとあるんです」
「犬王」は映像が美しいだけではない。犬王、友魚が自分を解放していく姿が美しく、はかなくもある。映像、彼らの生きざまに心と体を揺さぶられるはずだ。
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