舞いあがれ!:「いつのまにやら夢中」嫌みな事務員・山田の存在意義は? ヒロイン舞の現在地を示すポジション

NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第73回の一場面(C)NHK
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NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第73回の一場面(C)NHK

 福原遥さん主演のNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「舞いあがれ!」(総合、月~土曜午前8時ほか)で、舞(福原さん)に対してたびたび嫌みを口にしてきたIWAKURAの事務員・山田(大浦千佳さん)がじわじわと人気だ。退勤後は合コンにいそしみ、勤務時間終了間際には、マニキュアを乾かして準備に励むなど、仕事に対してやる気があるようには見えないが、リストラ対象にはならず、「実は仕事ができるのでは?」「だんだん好きになってきた」とその人間性に興味を引かれる視聴者が増えている。1月18日放送の第74回あたりからデレ始めているが、そんな山田の存在意義や大浦さんの起用理由を、同作の制作統括・熊野律時(くまの・のりとき)さんのコメントからひもといた。

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 ◇嫌み連発も「!」だけで株が爆上がり

 これまでも山田は、舞に対して「『私、頑張ったあ』っちゅうアピールかと思いましたわ」(2022年12月28日放送の第63回)、「なんかイライラするんですよね。『私も沈みそうな船乗ってる仲間』って顔されんの。一人だけ救命胴衣を着てはんのに」(2023年1月5日放送の第65回)、「そんだけ素直やったらモテるやろうな~」(16日放送の第72回)とたびたび嫌みっぽい発言でちくちくと攻撃してきた。

 17日に放送された第73回で山田は、職場のデスクの上で両手を上げて“謎のポーズ”をとり、「夜、合コンやからマニキュア乾かしてるんです」と平然と言いのける。

 さらに、営業が振るわなかったと落ち込む舞に、「お嬢さんって要領悪いですよね。まあ、要領良かったらこの工場に来えへんか。パイロットになれるチャンス捨てて。私なんか、どっかに逃げる方法ばっか考えてますけどね」と告げる。

 ただ、18日放送の第74回では、舞が「仕事……もらえるかも」と見積もり依頼を受けて、元気よく会社を飛び出していくと、山田は舞のホワイトボードの予定表に「営業!」と「!」を付けて記入し、視聴者からは「『!』だけで視聴者の株を爆上げさせた山田、恐ろしい子」「いつのまにやら山田に夢中な朝」「デレた瞬間がなんと秀逸」と株が爆上がりした。

 さらに19日放送の第75回では、初めて仕事を受注した舞が従業員に協力を求めると、山田が最初に手を挙げ、「いいですよ。しばらく合コンないんで」と率先して協力を申し出て、視聴者は「ついにデレたな山田!!!」と盛り上がり、ツイッターでは「山田さん」がトレンドに上がった。

 ◇山田は「実は意地悪な人ではない」

 熊野さんは、山田について、「舞が置かれている現在地を、嫌な言い方ではあるんですけれど、かなり的確についてくる存在」と表現する。

 航空会社への入社が延期になり、梱包(こんぽう)など会社の仕事を“手伝う”舞に対して、「山田は、こっちは一生懸命、仕事をやっているのに、ふわっと社長のお嬢さんが来てもいい気分はしないのではないでしょうか。そう思っている社員は何人かいるでしょうけれど、割とはっきり言う人。それに対して舞は何を見せていくのか。そこがこれからの展開になっていきます。そういう意味で山田のキャラクターは、とても大事なポジション」と熊野さんは断言する。

 前半は、大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」やパイロットを目指した航空学校などで、好きなことを一生懸命やってきた舞だったが、熊野さんは「ある種、非常に恵まれた環境、いってみれば世間を知らない状況の中にいたヒロイン」と振り返る。

 工場に携わるようになってからも「手伝う」を繰り返す舞は、兄の悠人(横山裕さん)から「(将来パイロットになるなら)その場しのぎの親切なんじゃないか」と指摘される。職場で舞の近くにいる山田も「舞に対して現実を突きつける、物語が真に迫る一つの重要な視点として山田を配置している」からこそ、世間知らずのヒロインに現実を見せるため、嫌みっぽい言葉を投げかけたりするのだろう。

 しかし、舞が航空会社の内定を辞退し、本気で会社の仕事に取り組む姿勢を見せ始めると、山田の態度も徐々に変わってくる。「実は意地悪な人ではない。舞が本気を見せれば変わってきます。山田の立ち居振る舞いで、すごく客観的に舞が見られる」ようにドラマは進んでいくという。

 ◇山田のちょっと嫌な感じを絶妙に演じている大浦千佳

 そんな絶妙な立ち位置の山田を演じている大浦さんは、1988年生まれ、大阪府出身の34歳。「劇団チーズtheater」に所属し、舞台を中心に活躍している。朝ドラ「エール」(2020年)や刑事ドラマ「特捜9 season2」(テレビ朝日系。2019年)に出演。2022年公開の映画「散歩時間~その日を待ちながら~」(戸田彬弘監督)にもキャストとして名を連ねている。

 大浦さんの起用理由について、熊野さんは「いままでの出演されていたお芝居やドラマをいくつか拝見して、山田のちょっと嫌な感じとか、婚活に励んでいるが成果が出ていない感じなどを絶妙なラインでやっていただけそうだということで、起用に至りました。職場に一人はいそうな雰囲気をとても上手に演じていただいており、面白いなと思いながら見ています」と手応えを語った。

 20日までの第16週では、不慣れな営業の仕事に取り組むも、地道な努力で一歩ずつ着実に成長してきた舞。23日から始まる第17週では、IWAKURAの重要な戦力としてさらに飛躍していく姿が描かれる。オープニングのタイトルバックで、水たまりに落ちて泥だらけになっていた紙飛行機がやがて旅客機となって羽ばたくように、ヒロイン舞がどん底からはい上がり、空に舞い上がっていく姿を見守っていきたい。

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