市川染五郎:「全部が挑戦だった」森蘭丸役 “信長”木村拓哉との共演は 「レジェンド&バタフライ」

映画「レジェンド&バタフライ」で森蘭丸役を演じる市川染五郎さん ヘアメーク:AKANE スタイリスト:中西ナオ
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映画「レジェンド&バタフライ」で森蘭丸役を演じる市川染五郎さん ヘアメーク:AKANE スタイリスト:中西ナオ

 木村拓哉さんが織田信長役で主演を務める映画「レジェンド&バタフライ」(大友啓史監督)で森蘭丸役を演じる市川染五郎さん。蘭丸は13歳のころから信長に仕える、信頼の厚い小姓。信長を近くで見続けてきたひとりで、染五郎さんは「常に『信長になにかあったらすぐに動けるように』という気持ちでいました」と撮影を振り返る。染五郎さんに蘭丸役への思いや木村さんと共演した感想などを聞いた。

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 ◇大切にした信長への思い

 「レジェンド&バタフライ」は東映創立70周年記念映画として立案され、総製作費20億円の大作で、“最悪の出会い”から始まった信長と濃姫が、次第に心を通わせ「夫婦」で天下統一へと突き進んでいく物語。連続ドラマ「リーガルハイ」「コンフィデンスマンJP」などで知られる脚本家の古沢良太さんと、映画「るろうに剣心」シリーズなどの大友監督がタッグを組み、2人の生涯を新たな視点で描く。

 時代劇映画には初出演となる染五郎さん。演じる森蘭丸は信長の小姓で、誠心誠意、主に尽くす人物だ。染五郎さんは、そんな蘭丸を“今挑戦しておくべき人物”と捉えていたという。「蘭丸は、10代で若い命を散らしてしまう人ですから、20代前半ごろまでしか演じることができない役だと思います。そういう意味でも、今挑戦しておきたい人物だな、と感じました」と振り返る。

 撮影期間中は、数々の蘭丸ゆかりの場所を訪れ、蘭丸像に近づいていったという。

 「蘭丸は歴史上の人物として一般的にも知られている人物なので、なんとなくのイメージはありました。大友監督に衣装合わせで初めてお会いしたときに資料をいただいたり、撮影期間中に蘭丸ゆかりの場所を回ったりして、演じながら蘭丸という人を捉えていきました。ゆかりの場所に蘭丸の刀が展示されていたのですが、ものすごく大きな刀で、だいぶ重いらしいんです。蘭丸の絵も筋骨隆々な感じで描かれていて、線の細いイメージでしたが実際は男らしい人だったのかな、と感じました」

 そんな蘭丸を演じるうえで、染五郎さんが大事にしていたのは信長に対する思いだ。「信長という人を心から慕っていて、信長のために全部の神経を使っている。信長の後ろにただ控えているようなシーンでも、常に『信長に何かあったらすぐに動けるように』という気持ちでいました」と染五郎さんは語る。

 では、蘭丸が信長を慕っていたように、染五郎さん自身が魅力的に思う男性とは? そんな問いかけに、染五郎さんは「表面的なかっこよさだけではなく、にじみ出るかっこよさ、のようなものがある人がかっこいいなと思いますね」と明かし、「やっぱり役者としては祖父(二代目松本白鸚=はくおう=さん)や父(十代目松本幸四郎さん)がかっこいいなと思いますし、一生をかけて、一歩でもいいから近づかなければいけない人だなと感じています」と理想像を語る。

 ◇父に続き「ソメ」と呼ばれる

 信長役を演じる主演の木村さんとは今作で初めて対面した。出演の話を聞いた時に、真っ先に浮かんだのは「木村さんの作品、ということでした」と染五郎さん。もともと父の松本幸四郎さんや叔母の松たか子さんとの共演経験が多い木村さんは、染五郎さんにとっても「身近な名前」だったといい、「父や叔母がたくさん共演させていただいている方と共演させていただけることに、感慨深い気持ちがあって。経験しておくべき作品なんじゃないかなと思いました」と最初に抱いた思いを明かす。

 そんな木村さんに、染五郎さん自身はどんな印象を抱いていたのか。「やっぱり“スーパースター”というイメージですね。昔から名前は身近に感じていましたが、まさか共演させていただけるとは思っていなかったです」という。

 撮影中には「感動した」というこんなエピソードも。「父が染五郎だった時代に共演していて、“ソメ”って言われていたことを知っていたので、自分が染五郎になって『何と呼ばれるのかな』と思っていたんです。で、僕の最初のシーンの撮影の後、殺陣のけいこの時にいきなり“ソメ”と言われて『ソメなんだ!』と感動しました。祖父も共演させていただいていて、3代で共演させていただいているのは、すごいことだなと思います」

 木村さんと共演して感じたのは、作品全体を見る、主演としての姿勢だった。それは父からも聞いていた通りだったという。「木村さんはご自身の役だけではなく、作品全体のことを常に考えていらっしゃって。『本当に細かい部分、見え方までこだわる方だ』と父が言っていたんです。共演させていただいて、常に全体を見てらっしゃるのは感じました」と共演の感想を口にする。殺陣のけいこでは、木村さんから「もっと重心を落とした方がいい」と細かいアドバイスももらったといい、「本番では、木村さんにおっしゃっていただいたことを意識しながらやっていました」と語る。

 ◇根底にあるのは“歌舞伎俳優” 映像に出て知った舞台の難しさ

 撮影を振り返り「全部が挑戦でした」と語る染五郎さん。「劇場版アニメで声のお仕事はさせていただきましたが、本作品はまた新たな挑戦でした。アクションシーンも初めてでしたし、いろいろな新たな経験を一度にさせていただいた、という思いが強いです」と充実感をにじませる。

 そのような挑戦があった今作の撮影を終え、改めて感じたこともあった。それは普段、自らが主戦場としている歌舞伎の舞台と、映像の仕事の違いだ。映像の仕事をして、初めて気づいた舞台の難しさがあったという。

 「同時期に撮っていた大河ドラマや今作の撮影を終え、昨年6月に『信康』という演目で歌舞伎座初主演を勤めさせていただきました。せりふ劇だったのでなおさらかもしれませんが、映像と舞台でやるとなったら、まったく言い方などが変わってくるんだなと思いました。映像の場合、声の大きさやスピードがリアルでしゃべっているトーンで伝わるけど、舞台だと遠くのお客様までその空気感のまま伝えなければいけない。そこは舞台の難しいところだなと思います。それは映像の仕事を経て、歌舞伎の舞台に出て初めて実感したところですね。映像に出て初めて知った舞台の難しさもありました」

 近年は、昨年公開の劇場版アニメ「サイダーのように言葉が湧き上がる」で主人公の声を演じ、「鎌倉殿の13人」では悲劇の少年・木曽義高を演じて話題を集めるなど、映像作品でも活躍中だ。今は「まずは歌舞伎ありきですが、まだ実写の現代劇には出演経験がないので、実写の映像作品で現代劇にも挑戦してみたいなと思います」と意欲を示す。

 今作を経て、今後さまざまな作品で活躍が期待される染五郎さん。映像作品への意欲も示しつつ、「でも、やっぱり一番は歌舞伎なので、しっかりと軸に持って。何をするにしても『歌舞伎俳優だ』ということを根底に持ちながら、いろいろなことをしてみたいなと思います」と強い決意をのぞかせていた。

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