解説:「ブギウギ」視聴者をくぎ付けにする三つの理由とは?

NHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロイン・福来スズ子を演じる趣里さん
1 / 1
NHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロイン・福来スズ子を演じる趣里さん

 戦後の大スター・笠置シヅ子さん(1914~85年)がヒロインのモデルになっているNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ブギウギ」(月~土曜午前8時ほか)が話題だ。10月にスタートし、まだ全体の3分の1を過ぎたあたりだが、連日SNSなどで盛り上がりを見せている。なぜこんなに視聴者の目を引きつけるのか。制作統括の福岡利武さんのコメントなどから解き明かす。

ウナギノボリ

 ◇1週間に大きな出来事が複数起こる「たたみかける演出」

 一つ目の理由として考えられるのは「たたみかける演出」だ。

 例えば第5週(10月30日~11月3日)では、香川に行ったスズ子が自身の出生の秘密を知った前半、梅丸少女歌劇団(USK)の憧れの先輩、大和礼子(蒼井優さん)が娘を出産後、亡くなるという後半と1週間の間に大きな出来事が二つ描かれた。

 朝ドラは1週間ごとにタイトルが付けられるため、1週間に一つ、核となる出来事が描かれるのが通例だが、「ブギウギ」はそうではない。

 福岡さんはこの第5週について、「冷静に考えれば別の週に分けるんでしょうけれど……」と前置きした上で、「(脚本の)足立(紳)さんとしてにはたたみかける展開、次から次へと事が起こっていく方を好んだといいましょうか」といい、福岡さん自身も「一つの事が始まって解決して、次の事が起こって解決してというよりも、問題が解決できないまま次の事が起こるという方がリアルなんじゃないかと思っている」と共感を寄せる。

 「人は解決なんかしないまま生きていかなくてはいけない。翻弄されながらも、スズ子が自身の道を選択していくという物語を面白く見せられたらなと思っていますので、(台)本を作るのは難しかったんですけれど、本当に面白い話になっていると思います」と自信をのぞかせる。

 福岡さんは、「1話見逃すと、どうなってんの? ついて行けないとなるんじゃないかという恐怖は感じておりますが」と笑いつつ、今後も「たたみかけるような」エネルギッシュな展開を目指していると力を込めた。

 ◇ドラマとステージが両立する「圧倒的なエンタメ感」

 二つ目は、毎週のようにステージの本番が描かれる、ドラマパートとステージパートがどちらも成立している「圧倒的なエンタメ感」だ。

 「ブギウギ」では、ほぼ1週間に1回、ステージシーンが描かれる。例えば第1週の第5回(10月6日放送)では大和と橘アオイ(翼和希さん)が蝶のように舞うUSKのステージ「胡蝶(こちょう)の舞」、第2週の第10回(10月13日放送)では鈴子(澤井梨丘さん)ら同期3人が「水のしずく」役でデビューを飾った「四季の宴(うたげ)」のレビューシーンが登場した。

 その後、第3週で大和が考案したラインダンスを、第4週の第18回(10月25日放送)で大和と橘が抜けたメンバーで見事に演じ切った。

 第5週の第25回(11月3日放送)では、東京行きを決心したスズ子と秋山のUSK退団公演のステージで、ピンクの傘「桜パラソル」を使った「桜咲く国」が披露された。

 これらのレビューシーンは、橘役の翼さんが所属する「OSK日本歌劇団」などへの取材をもとに、本物の舞台公演さながらのステージを作り出している。

 レビューシーンには、舞台演出に宝塚歌劇団やOSKでも演出を手がける荻田浩一さん、歌劇音楽に映画や舞台などに楽曲提供をする甲斐正人さん、ダンスの振り付けにはアイドルグループ「モーニング娘。」らの振り付けを担当する木下菜津子さん、OSK出身の奥山賀津子さんという各分野のスペシャリストが当たっている。ステージ衣装も、ドラマの衣装とは別の、舞台系の衣装担当が動いているという力の入れようだ。

 第6週で舞台が東京に移ると、スズ子は作曲家の羽鳥善一(草なぎ剛さん)と出会い、梅丸楽劇団(UGD)の旗揚げ公演で「ラッパと娘」(11月10日放送の第30回)を歌い、第7週では羽鳥と作詞家・藤村(宮本亞門さん)の合作「センチメンタル・ダイナ」(11月17日放送の第35回)をステージで披露。スズ子のモデルとなった笠置シヅ子さんの歌手としての魅力を、ステージ上で存分に発揮している。

 ◇スズ子を「全身で表現」する趣里の「体当たり演技」

 三つ目はヒロイン・スズ子を演じる趣里さんの全身を使った「体当たり演技」だ。

 福岡さんも「全身で表現しているという言葉がぴったり」といい、それは東京で初めてジャズに触れ、ステージで「ラッパと娘」を所狭しと動き回りながら歌ったとき(第30回)のようなステージシーンだけでなく、香川で自身の出生の秘密を知ったとき、その心の葛藤を表すかのように林の中を全力で走り抜けたあと、川に寝そべり天を仰ぐ場面(10月31日放送の第22回)などのドラマパートにも表れている。

 福岡さんは、趣里さんについて、「歌って踊る場面では、ステージを全身で表現していますし、ステージを降りても出来事が起こるたびに全身で演じていただいているなと感じています」と実感を込めて語る。

 また「林の中を走る場面では、どこまでも走っていきそうでした。そういうところでは、いつも爪の先まで神経が行き届いたお芝居をしていただいている。とても素晴らしいと思っています」と絶賛する。

 趣里さんをオーディションでヒロインに選んだのも、エネルギッシュだった主人公のモデルの笠置シヅ子さんを「全身で表現できる」力を持った人ということが理由の一つだったと振り返る。

 撮影が進んだ今では、「趣里さんは非常に華奢(きゃしゃ)で小さな体に見えるんですが、ステージの場面も本当にパワフルですごくエネルギッシュに歌って踊っていただいている。秘めたパワーが底知れない感じがしてすてきだなと思います」と感じているという。

 ちなみに川の中に入るシーンでは、「どう自分の中で考えていいか分からなくなっているスズ子という、とても難しい場面だったので、撮影現場は神経質な感じになるのかなと思っていた」というが、「趣里さんは意外にも、『川でロケして気持ちいいですね』といたってリラックスされていた。それがすごくよかった」と、スズ子になりきって無理なく全身で演じたことが心に響く場面につながったと感じている。

 「ブギウギ」は第45回が12月1日に放送され、やっと3分の1が過ぎたところ。これまでの内容の充実度を考えると、残り3分の2で息切れしないかと心配になるくらいだ。だが、上記の理由で、きっと良い意味で予想を裏切り続け、最後まで視聴者をくぎ付けにすることだろう。

- 広告 -

テレビ 最新記事