戦隊大失格:戦隊パロディーではない ロジックはヤンキーマンガ? さとうけいいち監督インタビュー

「戦隊大失格」の一場面(c)春場ねぎ・講談社/「戦隊大失格」製作委員会
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「戦隊大失格」の一場面(c)春場ねぎ・講談社/「戦隊大失格」製作委員会

 人気マンガ「五等分の花嫁」で知られる春場ねぎさんのマンガが原作のテレビアニメ「戦隊大失格」が、TBS系で4月7日から毎週日曜午後4時半に放送される。悪の怪人軍団の末端戦闘員である戦闘員Dが、正義の味方だと思われていた竜神戦隊ドラゴンキーパーと戦う異色のアンチヒーローマンガで、「TIGER & BUNNY」「いぬやしき」などで知られ、スーパー戦隊シリーズなどにも参加してきたさとうけいいちさんが監督を務める。さとう監督に「戦隊大失格」について聞いた。

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 ◇Dはイキっている中学生

 「戦隊大失格」は、2021年2月に「週刊少年マガジン」(講談社)で連載を開始。アニメは「五等分の花嫁」などの大知慶一郎さんがシリーズ構成を手掛け、Yostar Picturesが制作する。

 スーパー戦隊シリーズ「百獣戦隊ガオレンジャー」「忍風戦隊ハリケンジャー」のキャラクターデザインを手掛けるなど数々の特撮に参加してきたさとう監督の目には、「戦隊大失格」がどのように見えたのだろうか?

 「最初に企画について説明された時に、自分は『パロディーではない』と感じました。コミックスの表紙はレッドキーパー(竜神戦隊ドラゴンキーパーのレッド)だったので、レッドが主人公かな?とページをめくると、主人公は戦闘員Dでした。不器用な少年だなと思いました。不器用な少年が、毎回負けることにうんざりして、何やってんだよ!となる。これはパロディーではなくコメディードラマだと思った。私は、これまでもバディーものなどをやってきましたが、ギャグをやっているつもりはあまりなくて、シチュエーションコメディーが好きなんです。特撮の仕事もやってきて、戦隊のパロディーもやったけど、それとは違う。映像にするなら、シチュエーションコメディーとしてやろうとしました。サスペンス要素もあるので、シリーズとしてそこのバランスをうまくやらないと、取っつきづらくなると感じました」

 戦闘員Dは、12年にもおよぶ大戦隊と怪人との茶番劇の末にやさぐれ、敗け続けた運命を変えるため立ち上がることになる。さとう監督は、戦闘員Dを「イキっている中学生」と捉え、その視点で映像を表現しようとした。

 「Dは中学生(13~14歳)くらいのイメージです。よその町に行って、急に大人ぶっちゃったり、SNSの世界で海外の友達とゲームでつながって、急にオラオラしてしまったりする気分なんだろうと思います。この子が面倒な社会、組織に立ち向かっていく。彼に感情移入、共感できるようにしようと思いました。キャラクターが多い中、そこはブレないようにしたかったんです。ロジックはヤンキーマンガですよね。けんかを売られたら、そこに立ち向かう。そのロジックを自分の中で整理し、Dからカメラを外さないようにしようとしました」

 ◇虚構としての「日曜決戦」

 「戦隊大失格」の世界では、竜神戦隊ドラゴンキーパーと怪人、戦闘員の戦いの様子が、「日曜決戦」として毎週末にテレビ中継されている。怪人たちの侵攻を食い止める竜神戦隊ドラゴンキーパーは、全人類から羨望(せんぼう)のまなざしを向けられていたが、実は怪人側が必ず負けることを義務付けられた茶番劇である。世間が現実であると認識していたことが、虚構だったことが明らかになる。数々の特撮に参加してきたさとう監督が「日曜決戦」をどのように描くかが注目される。

 「特撮らしさがあるのは、ポーズや殺陣くらいですかね。ドラゴンキーパーは、テレビ中継のカメラを意識しているけど、カメラがないところは違う。この世界で『日曜決戦』がどれくらいメジャーなものかを表現しないと、物語に入っていけないので、アニメオリジナルでの世界を盛り盛りでやっています。第1話の冒頭からAパートの終わりまで、これは番組なのであるということを強調しています。シナリオにはなかったけど、Aパートの終わりには、レッドキーパーが『CMだ』と言うシーンを入れました。その後、Bパートからカメラが戦闘員Dに向く。それまで、わざとらしくドラゴンキーパーがしゃべっていたけど、Bパートで本音が出ます。ギャップを表現しようとしました」

 「戦隊大失格」の色彩は独特にも見える。また、アクションも大きな見どころになる。

 「柔らかい色を意識しています。日曜の夕方に放送することは最初から聞いていました。子供も見る時間なので、暗くはしない。戦隊?となって見る子供もいるでしょうし、視聴者の幅の広さを意識しました。それと、カートゥーンの表現も入れるようにして、リアルなアクションと戦闘員の動きのギャップをつけています。完全なるカートゥーンではなくて、ハイブリッドなので、そこは新しいかもしれません。リアルな動きもあって、攻撃を受け飛ばされた後の転がっていく姿など泥臭いところも描いています。転がる絵は難しいところもあるのですが、ドラゴンキーパーたちがスタジアムで一生懸命にアクションをしているところを見せようとしました」

 レッドキーパーの“顔”も印象的だ。マスクをかぶっているため、口しか見えないが、口の動き、バイザーから少し見える目から、不気味さを感じるところもある。

 「通常、日本のアニメだと、口パクで3枚くらいしか使いません。私が撮る他作品もそうなのですが、5枚使います。表情を極力豊かにしたい。キャラクターがただせりふをしゃべっているだけじゃない、と印象付けようとしています。特に顔がアップになった時、カメラがわざわざそこを抜いているわけですし、生々しい方がいい」

 王道のヒーローを描いてきたさとう監督が、アンチヒーローをどう表現するのか? こだわり抜いた映像で驚かせてくれそうだ。

 最後に、さとう監督にとっての「正義とは?」と質問をぶつけてみた。

 「原作をお借りして作っているので私は一概に、これが正義とは言えないのですが……。個人的な意見を言うと、ウソをつかないことが正義ですかね。でも、ちょっぴりウソつくよね(笑い)。正義のためのウソもありますし。ただ、ズルく生きたくないですね」


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